ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.60 )
- 日時: 2016/02/04 18:08
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
無事、管理人様が修復して下さいました!
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悲しみと苦しみが、脆い心を蝕んでいくようで、息ができなくなる……あの日感じたものと同じ、嫌な気持ちで、綴は目覚めた。
「……ん、起きたか」
「あれ、わたし……」
綴は、今日夜におぶられ、昔のことを思い出しなから、自分では気づかぬ内に、いつのまにか寝てしまっていた。
目を覚ますと、そこは公園のベンチの上で、背もたれに体を預けていた。足が温かいと思って視線を落とすと、今日夜の着ていたコートがかけられていた。代わりに今日夜は、コートの下に着ていたパーカーのフードを被って、夕方の赤い空の下で、仲睦まじげに遊ぶ親子や子供たちから、顔を隠していた。
「ぐっすりだったな。疲れてたか?」
今日夜に優しくそう言われて、綴はううん、と首をふる。
「……ゆめ、みてた」
「夢?」
「うん。わたしがわるいことしちゃったひと……キョウヤおにいさんとあったひのゆめ……」
まだハッキリしない、寝起きのぼやけた視界の中、やんわりと辺りが暗くなっていくのを綴は感じた。
「俺と会った日って……」
今日夜は、そこまで言って、苦々しげに言葉を詰まらせた。
それって……両親を殺した日じゃないか。それなら、今お前は、凄く辛い気持ちなんじゃないか。そう思うも口にすることはなく、今日夜は綴の心中を察して、ただ、そっと綴の肩を抱き寄せた。
「キョウヤおにいさん」
「……俺は……その、さ。親とか顔も名前も知らねぇし、家族愛とか、そういうのよく分かんねぇけど……」
ゆっくりと綴の方へ顔を向けた今日夜。その表情は、自嘲や戸惑いも混じるものの、まちがいなく、綴を思っているものだった。
「お前見てると、あぁ、きっと親って、こんな気持ちなんだろうなって、思うんだ。俺とお前は家族でもねぇけど、それでも、守ってやりてぇって気持ちになる。それと同時に、お前といることで、自分も救われてる気がする」
今日夜はそういうと、照れくさそうに、何言ってるんだ、俺……と、顔を背けた。
「……と、とにかく。俺がお前の傍にいるから……俺はお前を必要としてるから、さ。そんな顔すんなよ」
そして今日夜は、相変わらず顔を綴の方へ向けることはできていなかったが、微笑んだ。紫がかってきた夕焼けを背景にして。それを見て、綴も仄かに笑みを浮かべた。
「ありがとう、キョウヤおにいさん」
「ん、それで良い」
そろそろ帰ろう、と、小学生程の男の子が叫んだのが聞こえた。その声に同意した周りの子らが、サッカーをやめて、また明日、と、公園を出て、散り散りになっていく。
「……そうだ、シグレおにいさんは……?」
綴が思い出してそういうと、今日夜はうつむいた。悩ましげなその表情に、綴は心配そうに、大丈夫?と声をかける。
「……ぁあ、大丈夫だ。お前が寝てる間に、家まで行ったんだ。でも……アイツは居なかった。部屋の前に居たら、大家に声かけられちまったんだけど……アイツ、数日帰ってないらしい」
話を聞いて、綴は眉をひそめた。落ち込んでいるような様子の今日夜のことも、共にいたのは少しの間であったし、よく分からない人ではあったが、心優しい人ではあった枝暮のことも、どちらも心配になった。
「アイツ……どこに行ったんだか。一言何か言ってくれりゃあ良かったのにな……」
今日夜は、心の中に浮かんだ不吉な念を振り払うように、無理矢理に笑ってみせた。
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