ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.62 )
日時: 2016/02/11 13:08
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「あら、すみません。待たせてしまって……」
「いや、別に……そんな待ってない」
 辺りはすっかり暗くなり、道を電灯の光が照らしていた。先に到着し、憑々邸の前で待っていた今日夜と綴に、続たちは歩み寄った。
「來さんは、最近出勤していないそうですわ」
「……そうか。アイツ、家にも帰ってないらしい」
 口元に手をあて、困ったように言う続に、今日夜はうつむきがちに淡々と答えた。その今日夜を、綴が心配そうに見上げる。
 いつも枝暮の冗談を軽くあしらったり怒ったりする今日夜だが、彼にとって枝暮は、かけがえのない存在だ。
 長い付き合いであり、彼には何でも話すことが出来た。二人の繋がりは信頼関係を越えた一種の愛のようなものであった。
 そんな彼が突然いなくなり、今日夜は枝暮の存在が、自分にとってどれほど大きなものだったのかを改めて知った。心に大きな穴があいたようで、その穴を埋めるものを、今日夜は持っていなかったし、どこにあるのかもわからなかった。何者にも代えられない存在なのだ。
 今日夜は今は孤独ではない。新しく知り合った、自分を認めてくれる続や月詩たちもいる。綴だって居る。
 しかし、それでも、今日夜は今、いつぶりか分からない大きな孤独の闇に襲われていた。それほどまでに、二人は共に多くの時を歩んできた。

「キョウヤおにいさん……」

 それを言われずとも感じとった綴もまた、悩んでいた。自分は彼に救われた。初めて手をさしのべられた。……しかし、自分には何もできない。彼が苦しんでいるときに、救い出すことはできない__そんな自分の無力さを知らしめられた。
 悩んでも悩んでも答えなどみつかる筈もなく。綴は今日夜のコートの端をギュッと握った。
「……うーん、今日はもう遅い時間になっちゃったけど……どうする?」
 月詩は手元の腕時計を確認して言った。
「お二人のことは心配ですけれど……私、これからお仕事でして……」
「あ、じゃあそれなら俺が送るよ」
 夜道は危険だから。と、月詩は軽く手を挙げて言った。
「……ん、そうか。じゃあ今日はここで解散するか」
「えぇ、私は明日またお店に行ってみますわ」
「俺もアイツを探すよ」

 それじゃあ、と、四人は別れて、今日夜と綴は、二人とは反対の方向へ歩きだした。

「……キョウヤおにいさん」
「ん?」
 二人きりになって、沈黙の時間が過ぎていた時、まだコートを握っていた綴は、地面の方を向いたまま、今日夜に話しかけた。
「ごめんなさい……わたし、たすけてもらうばっかりで、なにもできなくて……」
 一瞬の間をおいて、今日夜は微笑みかけ、綴の頭を撫でた。
「……大丈夫。お前が傍にいてくれるだけで、充分だ」
「うん……」
 そう返事をしたが、綴はまだうつむいたままだった。

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