ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.65 )
日時: 2016/02/29 21:23
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

第六章 REGRET SCAR

 突然やってきた鈍、そして彼の涙。それを今日夜は、その理由を問い詰めることも、怒ることもせず……かといって慰めもせず、ただ彼の震える細身の肩に手をおき、黙ってその涙に濡れた顔を見つめた。煌々と不穏に輝く、黄金の異形の瞳ではあるが、その表情は、優しいものだった。
 綴は、彼のその表情を、かつての自分と重ねあわせた。どうしても本当の愛が欲しかった自分。どうしても大切な誰かを救いたい彼。理由は違えど、その根底にある脆さは、儚さは同じものだった。彼は見た目こそ大人だが、綴には、まだ弱い子供のように見えた。
「……大丈夫だ」
 そう今日夜が小さくかけた声に、鈍は涙を手で拭って、コクコクと頷いた。それは、今日夜の目から見ても、まだ幼い子供のようだった。鈍自身が弱いといった枝暮よりも……誰よりも脆弱だった。
「俺は、お前のことを、あの日からずっと恨んでた……お前に、自分の外面だけじゃない。骨身にまで染みた、拭いきれないドス黒さを知らしめさせられたからな。でも……お前のそんな……弱ってる……苦しんでるのみたら、見棄てるわけにはいかない。そんなことしたら、それこそ本当の化け物だろ……? 落ち着いたらで良い……事情を話してくれ」
 その言葉に、自分がさげすんでいたはずの彼から与えられた自分には優しすぎる言葉に、鈍は素直に頷いた。

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「わかってると思うけど……俺様たちは、人間じゃない……」

 暫くして落ち着いた鈍は、泣き腫らした顔で、少しずつ、[計画]の全貌と、自分たち双子のことを話しはじめた。
「俺様は、姉さんがいるだけで良かった……でも姉さんは、無類の愛を欲しがった。姉さんは、誰からも愛を貰えなかったから……俺様も、自分よりもずっと強い姉さんに愛をあげるなんてこと、出来なかった。ただ淋しいだけの、ただの子供の姉さんを怖がってしまった……それに気がついた時は、もう手遅れだったんだ……」
 鈍は、自分の手を、痛いくらいに握り締める。自分の無力さを呪って、鈍は顔を悔しげに歪めた。
「俺様がちゃんと姉さんを愛してあげたら……傍にいてあげたら、誰も悲しまなくても良かった……姉さんも、救われてたんだ……いくら欲しても、誰からも愛されなかった姉さんは、愛を諦めた……そして、その代わりに、自分の仲間を作り出してしまおうと……孤独な存在を増やそうと、[計画]を開始した」
 そこで鈍は、ハッとして、今日夜にすがるような視線を向けた。
「……姉さんは、自分だけが苦しむのが嫌だっただけなんだ……分かる、よな? どうして自分だけ……っていう、どうしようもない絶望感。姉さんは、生まれた時からずっと、その絶望の海に溺れてた。そこからぬけだしかたった……でも、その海は底無しに深くて……抜け出すなんて、無理だった。だから……っ」
「……」
 カタカタと震える鈍の両手を、今日夜は彼より一回り大きな手で握った。大丈夫だと、分かってると……言葉は無しに言うように。
「……誰かを引き摺りこむしか無かった……だろ? 孤独しかない世界自体を……別の世界に作り替えるしかなかった」
「……っ」
「どうしようもない絶望……それを俺は痛いくらい分かってるよ。それをつきつけられて、それから逃げられなくて……そして生まれる冷たい感情も、最低な願いも……別に、お前の姉ちゃんだけじゃねぇよ。お前も、お前の姉ちゃんも見棄てねぇから……ほら、続けろ」
 今日夜に手を握られたまま促されて、また泣きそうになっていた鈍は、話を続けた。