ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.67 )
日時: 2016/03/05 23:46
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

あじみ様、誤送信でしょうか……?;;
もしそうでしたら、お手数ですが、消去して下さると嬉しいです。

          *

「……俺様と姉さんは、人間じゃない……姉さんは『恐怖』という誰もが持つものの具現化……人間が恐れる、本当は生まれる筈のない存在だ。そして俺は、『恐怖』と隣合わせにある……『弱さ』そのもの」
「きょうふ……」
 綴は、幾度となく自分を襲ったその感情を思い起こした。心臓を握り絞められるような、とても、とても苦しいあの感覚。
「そう、恐怖。姉さんは、その恐怖をつくりだした。それが、今日夜くんと綴くんだ」
「俺たち、が……でも、そうしたら……枝暮たちは?」
 今日夜からのその質問に、鈍は冷静に、淡々と答える。
「……姉さんは、全部を完璧につくることはできなかった。人間誰もが他人へ与えうる恐怖は、姉さんが望むように創ることができた。でも、それ以外は、失敗作になってしまった。俺様みたいにね」
 鈍はそう言って、指を折って数えだした。
「姉さんが創りだした『恐怖』は6人……」

『罪』の恐怖。『怪物』屋形 今日夜。

『力』の恐怖。『人狼』鮮火 綴。

『禁忌』の恐怖。『鬼』來 枝暮。

『記憶』の恐怖。『悪夢』継接 きりね。

『血』の恐怖。『吸血鬼』憑々 月詩。

『終焉』の恐怖。『死神』咲之城 続。

「でも姉さんが欲しいのは、不特定多数からの愛じゃない……自分と同じ、本当の怪物からの愛だ。仲間からの愛だ……つまり、今日夜くんからのね。絶望の闇に引き込むのは、今日夜くん一人で、姉さんには充分だった」
「俺、から……?」
 そういわれても、今日夜は納得することができなかった。
「それなら、創られるのは俺一人で良かったんじゃないのか……? こんな存在は、こんな思いをするのは、俺一人で良かったんじゃ?」
「……」
 今日夜の言葉に、綴は思う。やはりこの人は、全ての苦しみも悲しみも、全部を一人で抱え込もうとするのだ、と。優しさではなく、きっと、一種の諦めから、自分を犠牲にして生きているのだと。そして、それを悲しく思った。
 そして彼は、彼自身をここまで追い込んだ元凶を、助けようとしている。救おうとしている。
「姉さんは、失敗するのが怖かった。期待を裏切られるのが怖かった。だから、創る以上、完璧を望んだ。創りあげた筈の同類が、本当は自分と違うなんて、そんな悲しい思いはしたくなかったんだ」
「人数が多ければ、[計画]とやらが成功しやすくなるのか?」
 鈍は控えめに頷いた。
「今日夜くんが、他の『恐怖』を取り込むことで、今日夜くんは姉さんと同じ存在になる。個体として創るより、後から纏めた方が良いんだ」
「取り込む……?」
 今日夜は眉を潜めた。目元のピアスが揺れた。
「今日夜くんに、他全ての恐怖を集めるんだ。その方法は、怪物に相応しいともいえる……破壊、だよ。つまり、殺すんだ」
「他を殺すって、それは、[計画]通りにいったら……俺は枝暮も、綴も……殺すってことか?」
「そう。自ら孤独への道を選んでね。それが今日夜くんが望んでか、自分には制御できない衝動か、わからないけど……」
「俺は、そんなことしたくない……俺は、枝暮たちを、殺すなんて……っ」
 今日夜は語勢を強めて言った。しかし、話していくうちに、震えまじりの、弱々しいうめきになっていく。
 今日夜には、思いあたる節があるのだ。何度と自分の中に沸き上がった、破壊衝動。血を見たことへの紛れもない高揚感。コントロールできない、自分の中にある、『怪物』の部分。
 それを見て、鈍は目を伏せた。
「だから……今、この[計画]を、枝暮くんは止めようとしている」
「……え?」
 唐突に出た大切な人の名前に、今日夜は驚きの声を漏らす。

「……自分を犠牲にして、今日夜くんを救おうとしているんだ」

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