ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.68 )
- 日時: 2016/03/09 20:18
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
來 枝暮。彼が選び取る選択が巫には理解できずに、一人となった部屋で、悔しげに歯噛みした。
彼女の欲する怪物、今日夜の身代わりになろうと、自らの心を壊していく彼の姿に、巫は重ねるものがあった。 昔、同じような男がいたのだ。今日夜を愛し、守ろうとした男……それは、紫灯 鍛見。愚かなまでにも優しすぎた彼は、異形に生まれた故に忌み嫌われ、挙げ句に命を狙われた今日夜を守って死んだ。
巫にはわからなかった。なぜ、自分と同じ怪物の筈の今日夜が愛されているのか、誰かに守られているのか……そして、なぜ自分は愛されないのか。
孤独ではなくなるためにはじめた[計画]の筈なのに、彼を見ていれば見ている程、孤独感は増していった。
__だからこそ、今更[計画]を止めるなんてことはできなかった。愛されないのは自分のせいではなく、怪物として生まれたからだと思いたかったのだ。
彼は怪物。自分と同じ、可哀想な孤独の存在。なら、一緒に絶望の海に沈むべきだ。手をとりあって、堕ちるところまで堕ちよう。
彼だけ愛されて、幸せな結末を迎えるなんてさせない。
「世界に赦されない怪物は、巫だけに許されて……?」
[計画]を邪魔するのならば……二人の暗いシナリオを邪魔するならば、あの男のように、また排除するだけ。
「今度は巫の手でじゃぁなく……今日夜クン、貴方の手で、ね?」
そして彼は、本物の怪物となるのだ。
「自分を愛してくれて、自分も愛した彼を殺しちゃうなんて……今日夜クンのような怪物には、とっても相応しい結末でしょう?」
巫は笑う。そこにあるのは、本当に愉悦なのだろうか? それとも、辛さや悲しみの裏返しなのだろうか? それが何なのか分かってくれるような存在は、孤独な自分には居ない。巫はそう思っていた。しかし、淀んだ絶望の海に沈む彼女の手首を握ってはなさない者はいた。
「[計画]を終わらせて、姉さんを救う。独りじゃないって、俺様がいるって姉さんに教えるんだ。それが、それが俺様の償いだ」
「今日夜……僕は[計画]を止めて、今日夜のために、この身体も、心も、命も……全て犠牲にするよ。だから、お願いだ……汚れてしまった僕のことを、嫌いにならないで……」
「お前はいつも、こんな俺に優しくして、一緒にいてくれた。もう、そんな大切な誰かを失うなんて、悲しませるなんてしたくねぇ。身代わりなんて……お前はそんな格好良いことできる奴じゃねぇって、本当は弱いんだって、誰よりも、俺が知ってるんだよ」
「きれいなせかいをいっぱいみせてくれたキョウヤおにいさんたちのこと、こんどは、わたしがたすけるんだ」
守りたいものは違えど、意思は同じくらい強く、望み、願うことも同じ。
[計画]を、止めてみせる。
誰にも知られず、『恐怖』と『弱さ』が生まれたその日を、世界が暗い影で覆われた夜だとするならば……4人が動き出して、近づく夜明けは、どんな光を見せるのだろうか?
はたまた__夜明けなど、永遠に訪れないのだろうか?
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