ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.7 )
日時: 2015/06/12 20:03
名前: RINBYO (ID: jV4BqHMK)

「べつに……あけてもいいよ。でも、びっくりするよ」
「……?」
 びっくり。の意味が良くわからなかったが、手が血まみれなのを洗いたいのもあり、彼は、とりあえず、入ってみることにした。
 ガチャ。
「……」
 別にどうってことのない、脱衣所だ。
 洗面台があり、洗濯機があり、タオルやドライヤーを収納する棚がある。
 ただひとつきになるのは、風呂場につながっていると思われる曇りガラスの扉の向こうにある、影……?
「……お風呂……」
 少女がなにか言いたそうだったが、男は風呂場の扉を押し開いた。
 近所の住人が訪ねてきた、なんてことは洒落にならない。
「!?」
「おとうさん……」
 父親、なのか。体つきから、かろうじて男性と思われる。
 すでに命のない彼は、頭部を握り潰されたかのようにぐちゃぐちゃにされていた。
 顔は下顎しか残っていない。
「わたしがやったの」
「お前、が……?」
 少女は、ゆっくりと語りはじめた。
「……おとうさんはね、わたしのことがきらいなの。だいきらいなの。……でもね、いたいことはしないの」
 父親から嫌われていた……。手のことでだろうか。だが、暴力はふるわれていなかった……と。
「でも、いないことにするのよ。なにもおはなししてくれないの」
 男が孤児院にいたときのように、無視……されていたのだろうか。
「おとといも、いつもとおなじだったんだけど、おとうさんが、ほうちょうもってきて、さそうとしたの」
 ある日、包丁をもった父親に襲われた。
「おどろいて、こわくて、おかあさんたすけてっていったら、なにもいわないでみてるの」
 母親に助けをもとめたが、母親にさえもみすてられた……。
「だから、もうおかあさんもおとうさんも、いらないっておもって……」
「殺したのか」
 男は遠慮せずに言い放った。
「……うん。おとうさんをたたいて、おかあさんを、さした」
 「たたく?」
 なにか、鈍器で殴ったのか?と男はきこうとしたが、少女が泣いているのに気づいて、言葉をつまらせた。