ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.74 )
- 日時: 2016/03/27 15:07
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
目覚めた僕は、ガンガンと痛む頭なんて気にならないほどに焦っていた。
今日夜は僕が守らないと、助けないと__!
そう思って、必死に街を駆け回って、やっと見つけた時、今日夜は、僕が知る今日夜では無くなっていた。
怯みもせず、口汚く今日夜を罵る男に馬乗りになった今日夜は、男から奪い取ったナイフを、今、そいつの喉元に突き刺さんとするところだった。
「この……ッ、化け物が!! 貴様は生きていて良い存在じゃない、世界に在ること自体が罪だ……っ! 何故、何故貴様が生きている!!」
「……なんだよ、なぁ、生きていちゃいけないってなんだよ……そんなこと、とっくの昔に知ってんだよ……! でもなぁ……っ」
今日夜が、ナイフを思いきり振りかざした。
男が息を飲む。
「死ぬことだって、許されないんだよ……ッ!!」
今日夜が貫いたのは、男ではなく、今日夜の腹だった。
赤い血の代わりに溢れ出すのは、闇、そのもの。
「貴様は、やはり……ッ」
「……そうだよ。俺は、化け物だ」
そういって、薄く恍惚の笑みを浮かべた今日夜に、僕を救ったあの夜の、優しい彼の面影は無かった。
「芯の芯まで、化け物なんだ、俺は。今も……今だって、お前を、殺したくて仕方ない……」
「ひィ……ッ!」
今度こそ、ナイフは1つの命を奪った。
「俺じゃない……俺は殺して無い……っ」
僕は、今日夜が何度も何度も男を刺す姿を、赤い血が飛び散るその光景を、ただただ呆然と見ていることができなかった。
「……大丈夫」
勿論、そんな言葉、今日夜に届くなんて思っていなかった。ただ、少しでも今日夜が自分を取り戻してくれたら……そう思って、声をかけ続けた。
「……俺、なんでか分かんないけど、こいつを殺したいって……血を見たいって……思って……」
溢れる涙も拭わずに、今日夜は言った。
「もう、それで頭一杯で……っ、わけわかんなくなって、こんな、こと、俺……っ」
また、話すことができなくなってしまった今日夜を、僕は強く抱擁した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、俺、俺は生きてちゃ駄目なのに、ごめんなさい……ッ」
悲痛な慟哭が耳に届く。今日夜の心臓の鼓動が伝わってくる。今日夜の体温を感じる。これこそが今日夜の生きている証だ。今日夜は、まぎれもなくここに在る。
それなら__
今日夜、僕はね、君が人を殺すことを快楽として求めたとしても……それでも、君を離さないよ。嫌いになんてなるものか。
「俺、怖いよ……また殺したくなったらどうしよう……っ」
僕が今日夜の全てを受け止めてあげる。僕だけは、今日夜を抱き締めて、離さないでいてあげる。ずっと側にいて、君を__
「今日夜は、何も悪くない」
僕は少しだけ抱擁を解き、転がっている死体に手を伸ばした。そして、男の肉片を、ゆっくりと口に含む。
「しぐ、れ……?」
不安げに僕を見る今日夜に、僕は口を拭って、微笑みかける。
「そうしたら、僕が全部食べてあげる。今日夜が殺したら全部それを食べてあげる。僕は人しか食べれない、でも人を殺すことが怖い……そんなおかしい僕に、今日夜は食べさせてくれるんだ」
血まみれの僕の手が今日夜の頬をなぞって、赤い筋が延びる。
「だからね、今日夜……安心して殺して良いよ。今日夜は人を殺しても優しいままだから……ね?」
今日夜の涙と、血が混じりあって、今日夜の顎を伝い、濁った雫が落ちた。
「大丈夫……今日夜は今日夜のままでいていいよ」
今日夜が殺すことを正当化してあげるのが、僕のできることだ。それなら僕は、いくらでもこの自分の体質を受け入れられる。
きっと、僕が生まれた意味はこれなんだ。僕の歪んだ命は、彼に捧げるためにある。
*