ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.77 )
- 日時: 2016/04/02 13:18
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
急に動きを止め、思い詰めるような表情をした枝暮を見て、月詩は、今しかないと思った。彼が続の言葉を受けて何を思ったのかなんて見当もつかなかったが、今ならば、ばれずに続の縄をほどくことができるかもしれない。
自分はどうでも良い。彼女だけでも助かれば……
「……?」
月詩の動きに気づき、続はその意味を理解する。堅く結ばれた縄、しかも自分からは見えない位置にある。それをほどくことは容易ではなく、月詩の美しかった赤い爪は、もうボロボロだった。
「……っ」
爪先から血が滴る。人差し指の爪が剥がれかかり、激痛が走る。それでも月詩は諦めなかった。手を休めることもしなかった。全ては彼女のためだ。
「僕はいくらでも罵られて良い……はじめっから無い罪の續罪を求められても、怪物と嘲られても構いやしない……! でも、今日夜を貶すのは許さない……っ!」
枝暮は二人を鋭い眼光で睨み付け、ナイフで空を斬り、怒りで震えた声で言った。
「……屋形さんは、貴方がそんなことをして、本当に嬉しいのかしら?」
続は、きりねを殺されたことの怒りを胸の奥に抑え、落ち着いて言った。会話を長引かせて、少しでも時間を稼ぐために、枝暮に話しかけ続ける。
「貴方はもう今までの面影がない……貴方が変わってしまうことを、屋形さんは望んだのかしら?」
「うるさい……っ! 僕の命は今日夜のためだけにある! 今日夜のためなら、僕はどうなっても良いんだっ!」
「それは貴方の一人よがりではなくて? 貴方が今日夜さんの側に寄り添っているだけで、それで充分で……」
「続さん……貴方は何も知らないからそんなことがいえるんだ……」
枝暮は、今度は悲痛な、今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
「今日夜の側にいて……周りがどんなに今日夜を苦しませようとしても、僕はずっと近くにいてあげる……そんなこと、僕だって何度も願ったよ……でも、できないんだよ……[計画]を止めるには、僕が犠牲になるしか、道はない」
「[計画]……それを止めるために、貴方は殺戮を続けているの?」
「……っ」
続の縄が解けた。月詩は安心するが、それを悟られないように、今はただ、その時を待つ。逃げられる隙を伺い続ける。
「[計画]が成功したその時……今日夜は本当の怪物になる。闇に堕ちてしまい、もう二度と光を見ることができなくなる……世界の罪という罪を背負わされ、忌まれる存在……今日夜がそうなるなんて、この身の破滅より、何倍も辛い」
今度は、続が月詩の縄をほどこうと、自由になった手を動かした。しかし、月詩はその手を、そっと掴むことで拒んだ。まだ彼女の足の縄はほどけていない。このままでは逃亡はできないだろう。それを分かっている月詩は、血まみれになった手で、動揺する彼女の手を、その足の方へ促した。
月詩の縄をほどくまで、時間を稼ぐことはできないだろう。それは、続を助けるために、自分は犠牲になるという意思の表れだった。
そんな……! と、続は躊躇った。自分の手の縄がほどけたら、今度は自分が彼を助ける番だと思っていた。彼も共に逃げるものだと、そう思っていた。