ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.79 )
- 日時: 2016/04/12 21:24
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
深夜、シーンとしきった部屋のなか、綴は一人目を覚ました。今日夜が使っていたベッドを今は綴が使っていて、彼は今居間にあったソファで寝ている筈だ。
身体を起こし、手で目を擦る。それでも視界の霞みははれず、綴は目をしばたかせた。
「……」
ベッドから立ち上がった綴は、よたよたと歩き、自分より少しだけ低い棚の上を……その上の水槽を覗きこんだ。
綴がさかなと呼んで大切にしていた金魚は、その生を終えていた。
悲しかったが、ある程度予想はしていたことだった。
飼い始めたのは、霧のように曖昧な記憶でしかないような小さな頃だった。一人っきりで淋しい時、母親が誕生日にくれたプレゼントだ。人間以外の生きた生物を見るのははじめてだったし、他の人と何も変わらないというように、餌をくれと自分に寄ってくる様子は、新鮮なものであった。
自分の手で両親を殺した今、母親との__家族との、目に見える最後の繋がりだった。
これで、私の中からあの人たちは消えたんだ……と、小さな水槽を両手で持ち、その水の冷たさを肌で感じながら綴は思う。
今度こそ、綴の家族は居なくなった。しかし、独りではない。
「いままで、ありがとう」
綴は、小さな味方に囁きかけた。
「わたしはもう、だいじょうぶ」
慈しみ、愛情を持つことをはじめて知ったのは、この金魚の世話をしたときだ。
父親からはいないもののように扱われ、母親は結局、愛してくれているようで、実際は自分を守りたいだけだった。綴は本当の家族愛を知らない。
絵本の中で、家族たちはどんなピンチでも助け合い、時には自分の身を挺してでも守ろうとしていた。
それを思い返してみると、今、自分が今日夜に思うのは、もしかしたら家族に対するそれなのかもしれないと、綴は、虚構でしかしらなかった答えを掴もうとしていた。
死んでしまった命は、星になって輝き続ける__そして、のこしていった人々を見守るのだ。
「だいじょうぶだよ。だから__」
それは、きっとただの『お話』なんだろうけど。でも、もし本当にそうならば……
「キョウヤおにいさんにひかりをあげて……てらしていて……」
それは、運命の日の前日、眠る街を照らし続ける電灯の光に負けそうになりながらも、星々が美しく光を放ち続けていた夜の、少女の1つの願いだった。
*
「お願い、本当の怪物にならないで……ずっと、優しいままで__」