ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.8 )
日時: 2015/06/13 10:59
名前: RINBYO (ID: jV4BqHMK)

「わたしが……いなくなればよかったのかな……。だって、わたしはみんなとちがうもの」
 
『俺なんかは、死んだほうがいいんだろ』

 ズキン、と、胸を刺されたような衝撃が男を襲った。

『どう誤魔化したって、人間になんかなれねぇんだし』

 心、なんてどこにあるのか分からない。

『化け物は、ただの一匹もこの世界にいらない』

 そういった幼い日の彼に、

『そんなことないよ』
 
 やさしい笑みで、そう言って。
 彼の手をひいて……。

「……そんなことねぇよ」
 膝を床について、少女と同じ目線になった。
 男は、その人のようには、笑えないけれど。
 優しさとは、ほど遠いことをしてきたけれど。
 それでも、彼女の手を、右手をーー

「これからは、俺が、お前と一緒にいてやるよ」

『僕が、君と、ずっと一緒にいるよ?』

 男は、そういって、もう片方の手でフードをはずした。
 
「おにいさんは……」
 わたしといっしょなの?と、嗚咽のまじった弱々しい声で、少女は言った。
 左目。
 その白目は不気味に赤黒く、蛇のような瞳孔からは、一切の希望も、光もうかがえない。
 小さくひらいた口から覗く歯は、全てが鋭い牙だった。
「こんな化け物で良ければ、な……」
 そう自信なさげにつけ足す男。
 少女の目に、彼はどう写ったのだろうか。