ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.81 )
- 日時: 2016/05/22 01:25
- 名前: 吉田 網張 (ID: jV4BqHMK)
「……」
「やっぱ……やっぱ、俺のせい、なの、か……」
今日夜は眉を寄せ、悲しげな表情を、長い前髪からかいま見せる。濁った黄金色、悪魔の目……目の前の相手を直視できなくなる。目元がじわりと熱くなっていく。
お前は世界に存在すべきではない。
気色の悪い悪魔め。
不幸を呼ぶ、化け物が。
__さっさと死んでしまえばいいのに。
ぐるりぐるりと、言葉が脳内を回っていく。混ざりあって、淀んで、消えない染みとなって染み付いて__
「違う、今日夜君は何もしてないよ
…」
「ごめん、ごめんなさい……俺のせいだ」
うつむいて、口を小さく開いて。それが一番化け物の自分を人間に見せなくてすむから。だから、自分を隠して、こうして生きてきた。
「俺を、棄てて……」
孤独なんて痛くない。馴れているんだ。それが当たり前だから。
孤独という氷の要塞で生きてきた化け物の僕にとって、愛という温もりは、忘れられない火傷となってしまう、炎なのでしょうか?
「もう、充分だ……こんな幸せな時間……本当の家族のように過ごせたこの時間……俺には見に余る」
そう……そうなんです。愛されることなんて、求めてはいけないのでした。僕は忘れていた__自分が化け物だと、出来損ないですらない、世界の汚点こそ僕なんだと。
「もう、夢は充分見れた」
鍛見は、今日夜に言葉をかけることができなかった。違うと、そう言いたいはずなのに。
嘘だとしても、言うべきなのに。
否定の代わりに出てきたのは、今日夜の存在を赦す言葉。
「今日夜くん、僕は今日夜くんの父親だ」
かかんで、目をあわせて、まだ幼さののこる頬に触れる。異形の瞳、牙……その全てを受け入れ、その証にそっと微笑む。
「子供が父親に迷惑をかけたり、困らせたりするなんて……人間なら、だれだってするものだよ? 今日夜くんは僕の子供だ。僕を困らせて? 僕を悩ませて? それはね、きっといつか、今日夜くんが大人になったとき、良い思い出になるよ。一緒に思い出して笑おうよ。あんなこともあったなぁ……って」
子供らしからぬことを、強がって言う今日夜は、脆くて、指先で触れたら崩れてしまいそうだった。
だからこそ、鍛見は彼を抱き締めた。
化け物といわれ続け、そうして作られた、屋形今日夜という彼を壊してしまいたかった。悲しみを癒すことが困難なように、何度も傷つけられたものを直すのは難しい。それならば、人間である今日夜を作り直すべきだと、そう思ったのだ。
「僕は、ずっと側にいるよ、今日夜くん……」
壊れることは、なにも不幸なことだけではない。
ガラガラと自分が崩れていく。それは、とても幸せな崩壊だった。
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