ダーク・ファンタジー小説
- Re: SPACE WAR ( No.1 )
- 日時: 2016/01/26 18:33
- 名前: 三田 新凪 (ID: dDPEYPay)
「ねえ、お母さん、アレ、なに?」
その言葉が鍵だったのだろうか。
地の底から響くような恐ろしげな声とともに、何棟かのビルが吹き飛んだ。人々のつんざくような悲鳴があがり、まさに地獄絵図、阿鼻叫喚であった。小さな子供の母親は本能からか子供を反射的に庇った。
人々は、絶望した。
視界に映るのは異形の化け物。全長9m程の黒色の双頭の蛇。真っ赤な舌をチロチロと出し入れする様子は獲物を見定めているようでもあった。双頭の蛇の爬虫類特有の生理的嫌悪感を抱く瞳は母子の方に目をやった。
母親は子供だけでも逃がそうと、必死であっちに行け、と叫ぶ。しかし子供はなぜ逃げないといけないかを理解するのにはまだ幼く、母を不安そうに見ておろおろしている。
双頭の蛇はずずっ、ずずっ、とワザと恐怖感を抱かせるためかゆっくりと、母子に歩み寄る。母親は子供を抱きしめ、ぎゅっと目を瞑った。
「___ねえ、諦めないで。」
騒がしい筈なのに、その少女の声だけは聞こえた。母親がハッと見上げると__
「ギイイイイイッッッ!!!」
双頭の蛇の悲鳴が上がった。憤怒と苦痛、半々といったところだ。何があったのかと人々は化け物を必死で目で追った。双頭の蛇に相対するは小柄な少女。さして珍しくもない薄紫のサイドテールを靡かせている。人々は口々に危ないと叫んだ。怒り狂う双頭の蛇は少女に食らいつこうとしている。次に起こるであろう惨劇に人々は目を逸らし__かけた。
双頭の蛇の顔が少女の目の前で止まっていた。いや、止めさせられていた。少女はその細く白い指先を双頭の蛇に突きつけていた。ありえない状況に、人々は固唾を飲んで見た。
少女は突きつけていない左手で、双頭の蛇を撫でた。ゆっくりと、双頭の蛇の体の色が薄くなり始めた。白いインクを垂らすように、少しずつ。少女はにこり、と初めて笑いかける。
「元いた場所へ帰りなよ。さ。」
双頭の蛇はゆっくりと、後退していく。なるべく物を壊さないよう気遣っているように、大きい道路を選んで。暫くして双頭の蛇が見えなくなると、少女は人々へも笑いかけた。
「私は未確認生物戦闘隊『HOPE』の一人。どうぞお見知り置きを。」
少女は恭しくお辞儀し、それだけ言うとその場から立ち去った。『HOPE』がこの世界で周知したきっかけであった。