ダーク・ファンタジー小説

Re: SPACE WAR ( No.2 )
日時: 2016/01/26 18:32
名前: 三田 新凪 (ID: dDPEYPay)

「っはぁ〜……全く彼奴はぁ〜!」

 深い深い、全くもって隠すつもりのなさそうな溜息を吐くHOPE最高司令官がその人、ウェン・E・パリスシュト。クリーム色の柔らかな髪にアイスブルーの冷たそうな瞳、街を歩けば誰もが振り向くであろう美貌だ。重苦しい机には重要な書類が乱雑に積み上げられ、最高司令官室に入ってきた秘書とみられる女性は書類に埋もれるウェンに驚き、またまた溜息を吐いた。

「パリスシュト様……お疲れのところ申し訳ございませんが、フェム・アイビトーチェが面会を申し込んでいます。」

 秘書の女性、ことエイラ・ラバスは垂れてきた艶のある灰色の髪を耳に引っ掛けた。ウェンは呆れた様子で承諾の意を示し、エイラは了解しました、とだけ言うと丁寧に書類を片付けた。と、控えめとは到底言えないような音量でノックが響く。コンコン、ではなくドンドンッ!だ。慌てるウェンの返事を聞かずにノックの主、フェム・アイビトーチェは扉を開けた。


「やあ、ウェン!仕事の進み具合はどうだいっ!」

 室内の重苦しい雰囲気を吹き飛ばすような明るい声色で、挨拶__とは到底思えない台詞を言いながら薄紫色のサイドテールの少女は入ってきた。迷彩柄の軍服の上から羽織っている白衣。その服装はなんともチグハグなイメージを受ける。

 当のウェンは心の中で『お前のせいで進まねえよ!』と毒づきながらもまあな、と曖昧な返事をする。

 ウェンは先日の「私は未確認生物戦闘隊『HOPE』の一人。どうぞお見知り置きを。」という台詞の後始末に追われていた。
 というのも、世界は、滅亡の危機にあった。
 未確認生物、政府たちからはヴァイスと呼ばれている人類の敵たちは__『突然』出現した。未確認生物は異常な力により破壊の限りを尽くすのみ、ただただそれだけだった。人類の光、それは先日世界に周知した『HOPE』の存在だった。
 『HOPE』とは、とりあえず『強者』が集められた。中には『超能力者』と呼ばれる者もいる。
 フェムもその一人である。その能力は感情誘導。実際のところ、感情を操ることができるような代物だ。しかし感情”誘導”なのは限界まで能力を使えば良くて全治二週間、最悪の場合死に至るからだ。故に、能力は本来の能力より一段階下げたものを使うとされている。

 それはともかく。

 『HOPE』はヴァイスを倒すために結成された、強力無比な軍団なのだ。しかしその力が戦争に使われることもない。そもそも、戦争は滅多に起こらないのだが。

 そんな『HOPE』の存在が世界に周知すれば、世界中から各国のお偉い方がその頂点である最高司令官にやってくるのは当たり前のことであろう。確かに、旧知の知り合いであるフェムと飲んでいて深夜のテンションで『HOPE』のこと知らせようぜ!と一応前々から言っていたことを派手に!と言ったのだ。過去に戻れるならば真っ先に過去の自分を殴りたい、と思うくらいには大変だった。

「んで?何の用だ?」

 もう既に諦めたのか魚が死んだような目でフェムに問うウェン。にこ、と笑うフェムにつぅ、と冷や汗が流れ落ちる錯覚がする。

「今日は私だけじゃなくてもう一人いるんだよー!おいでー!」

 フェムとは違い控えめなノック。入ってきたのは小柄なフェムよりも小さな少女。腰までの燻んだ金髪の三つ編みにおどおど、きょろきょろする翡翠色の瞳。その服装はただの一般市民にしか見えないし、『HOPE』のエースであるフェムがとてもじゃないが気にかける少女ではないと思う。

「ふふん!聞いて驚くな!彼女ことメリッフ・モーサは!回復系の超能力者なのだぁぁ!」

 その言葉に、ウェンは徹夜続きで隈のくっきり浮かぶ目を大きく、それはそれは大きく見開いた。超能力者はいろいろとあるが、最も珍しいのが回復系だ。その理由は研究されてはいるが未だ解明されていない。そのため回復系の超能力者はとても貴重なのだ。

「それは本当か!?……は、入ってくれるか!!!」

 ぐりん、と真剣な表情でメリッフの方を振り向く。メリッフはひびゃ!と奇声をあげ半歩後ずさった。しかし何かを思い出した表情をすると、真剣な表情で話し始めた。

「わ、私の家、とっても貧乏なんです…でも私、人に役立つ人になりたくて…そしたらお母さんとお父さん、自分の生活費叩いて、これで高校と大学行きなさい、って…だから、私自分が不甲斐なくて…だから!」

 ごく、とメリッフが息を呑む。本気と書いてマジと読む、の目をしていた。

「ここでっ…いろんな人の命、救わせてください!」

 フェムがニヤリと魔王のような笑みを浮かべながら、ウェンの方を見た。

「ね、いい人材でしょう?」

 有無を言わさないその言葉に、ウェンは力強くうなづいた。

Re: SPACE WAR ( No.3 )
日時: 2016/01/26 18:35
名前: 三田 新凪 (ID: dDPEYPay)

 私の名前はメリッフ・モーサ。田舎に住む平々凡々という言葉がお似合いな、普通な少女。そんな私は、今話題の『HOPE』本部に居た。何故か。事の発端は、目の前の少女だった。

 いつもの通り、畑を手伝っていると、同じ村の人が私に用がある客がいる、と慌てて駆け寄ってきた。無論、何かいい事をしたわけでもないし、むしろ悪い方があり得る、私達一家は正に顔面蒼白、であった。

 慌てて村長宅に駆け込むと、そこには一人の少女が優雅にお茶を飲んでいた。田舎では珍しいものの、都会ではさして珍しくない薄紫の髪を左耳上に結い上げている。迷彩柄の軍服に科学者のような白衣。どれをとってもチグハグな容姿に私達一家は失礼にも目を見開いた。

 少女__フェム・アイビトーチェと言うらしい__は私達の姿を確認すると、非常に悪どい笑みを浮かべた。

「やあ。君がメリッフ・モーサだね?実は用があるんだ、君の能力に。」

 笑顔で告げられた残酷な言葉に、私は青を通り越して白くなった。

 私には、世界中で数人しか確認されていない貴重な回復系超能力者だ。その能力は他人の傷、疲労を引き受ける。勿論沢山の傷や疲労を引き受ければ死んじゃうかもしれないけど。能力が発覚したのは母さんが包丁で怪我した時。

「痛いの痛いのとんでいけ〜」

 ただ単に、気休めになれば、そう思っただけなのに__


「いっ…!」

 私の指からはだくだくと血が溢れていた。傷の場所は、母さんが怪我したところと全く一緒。試しに、母さんが薄くカッターで手に傷を作って、私が痛いの痛いの飛んでいけ、と言う。結果は、変わらなかった。

 そのことに母さんと父さんは歓喜するよりも、それを知られるのを恐れた。私の能力は癒すことではない、自己犠牲により人を助ける能力。この力がお金持ちの病気持ちとかに知られれば、私の身が危ないと、そう感じたらしい。



 ドクリドクリと心臓が暴れる。母さんと父さんはぎゅっと私の手を握った。その様子を見て、アイビトーチェさんは緊張を和らげるように、先日のように優しく笑った。

 私の恐怖感は何かに食べられたかのように__消えた。


「そう怖がらないで。確か君は人の役に立ちたいんでしょ?」

 そんな情報どこから__と思うものの、恐怖感は発しない。ただどうして、という好奇心は感じたが。

「君の能力を、是非とも『HOPE』で役に立ってほしい。勿論無理をさせるような真似はしない。」


 とても、とても不安だ。でも私は__この人に何か心惹かれる部分があったから___



 そうして私は『HOPE』の一員となった。


 ふと、隣に歩くウェンさんを見る。最初のうちこそパリスシュトさんと呼んでいたがウェンさん本人から名前でいい、と言われたため控えめにウェンさん、と呼んでいる。

「よし、ここがお前の部屋だ。」

 A49番というプレートが立てかけてある部屋は、どうやら私の部屋になるらしい。少し覗いてみると、なかなかに、というか見たこともないくらい広かった。個室というには広すぎるくらいだ。驚く私に、ウェンさんは軽快そうに笑う。

「俺は仕事があるから戻る__お、丁度いーところに。」

 私の部屋の隣のドアががちゃりと開いた。中から出てきたのは黒髪に薄紫の瞳。黒くゴツゴツとした戦闘服など見たこともない私は思わず後退りしてしまう。

「あ、ウェンさん。どうしたんですか。つか奏太見ませんでした?」
「奏太ならさっきアルバと希望者について喋りながら歩いてたぞ。それよりも此奴。メリッフ・モーサって言うんだが回復系の超能力者でよぉ。お前の隣部屋になるから面倒見てやってくんね?」

 ひょい、と比喩でもなくウェンさんに摘まれて前に出される。

「あぅ…あの、め、メリッフ、です…」
「俺は望月颯太だ、よろしくな!」

 ニコ、と笑顔を浮かべる望月さん。お兄さん、と呼びたくなる。びし!と背筋を伸ばしてしっかり一礼。


「よろしくお願いします!」