ダーク・ファンタジー小説

Re: SPACE WAR ( No.5 )
日時: 2016/01/26 18:37
名前: 三田 新凪 (ID: dDPEYPay)




「___っ! くそ。くそ、くそ!」

 瓦礫の下にいる大切な弟。必死でその瓦礫を退けてゆく。けれど幼いその手では持ち上げるのは小さい物が精々。視界は涙で歪み、手からは血が流れ出ている。

_____グルルルウゥゥ……!

 瞬間、自分と弟を影が覆った。はっ、と上を見上げると三つ頭の巨大な犬がいた。口には巨大な牙が生え揃えられ、その毒々しい薄紅色の舌をダラシなく出していた。どこかで見た『ケルベロス』という言葉が頭を過ぎった。

「__兄ちゃん、逃げて、…」

 掠れた声で弟は言った。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。駄目だ、駄目だ。絶対にそんなことはしない。絶対に助ける。


_______けれどそれは、叶わなかった。




ーーーーーーーーー




 俺……涅凪は『HOPE試験』と紙に書かれた時刻表を確認した。もうそろそろ、試験が始まる頃だ。今では世界的に有名な『HOPE』に入る為の試験。
 白を基調としたどこか硬い雰囲気の試験会場には多種多様な人々が集っていた。

 俺の隣の席には俺と同じ日本人の少女。
 少女はその橙色の目でどこか遠い所を光のない目で見つめていた。

「何?君、僕に何か用?」
「え、いや……」

 何か用、と聞いている割にはその瞳はさして知りたくもなさそうだ。不意だった為、思わず吃る。少女はやっぱいい、と言うとそっぽを向いた。


「はーーい!!注目ーーー!!」

 想定外の音量に騒めいていた希望者達はその声の主の方を向いた。

 一つに縛られた黒髪に同じ色の妙にゴツゴツとした戦闘服の男は、人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。男の隣にはショートヘアに暗い金色の眠たげな瞳の女性。
 その女性にさっきの音量の原因であろうマイクを渡した。

「えーと、こんにちは。『HOPE』の一人であるアルバ・クロックマンです。」

 先ほどとは打って変わった普通の音量に思わず安堵の溜め息を吐いてしまった。

「あ、隣は望月奏太。彼も同僚だよ。今日はご存知の通りHOPEに入る試験を行う。そう生易しいものではないから駄目な人は今帰ってもいい。誰も責めはしないからね。」

 女性__アルバさんは優しげにそう言った。しかし、希望者の誰一人も動きはしない。そのことにアルバさんは微笑んだ。


「さて、ではまず第一試験。とりあえず数を絞るので君らとは一対一で戦ってもらう。組み合わせはもう考えてあるから、そこの表を見るといい。」

 一旦アルバさんは言葉を区切る。望月さんにマイクを渡すのかと思ったがただ単に息を吐いただけのようだ。

「対戦相手がわかったら会場に入る前に渡した番号札と同じ番号の控室に行ってね。順番が来たら呼ぶから。まあでも、他の人の戦闘を見たかったら戦闘場は6階だから行ってもいいよ。」

 長文を言って疲れたのかふぅ、と一息つくとアルバさんは会場の後ろに貼ってあった表を指した。一対一で戦うことは大体予想していたのか、騒めいたりはしなかった。

 俺の番号札は82。これでどれだけの人数が来たのかが予想できた。
 対戦相手は___リリィ・リラリア。リがとことん多い名前だ。


 さっき隣だった少女が気になり、盗み見る。視線を辿ると、水上睦月、という名前と外国人の名前。どう考えても少女は日本人なので少女の名前は水上睦月というのだろう。勝手に名前を知ってしまったことに少々罪悪感を覚えるも、名前が知れてすっきりとしている自分もいた。


 しばらくして、表に群がっていた希望者達は徐々に波を引くように少なくなっていく。
 自分もそれに流されるように控え室に向かう。
 どうやら俺の控え室は9階のAフロアのようだ。行列のできたエレベーターに、時間はあることだし、と外にでることにした。