ダーク・ファンタジー小説

Re: アシナクシ。 ( No.35 )
日時: 2016/06/04 12:21
名前: 彩都 (ID: 6Bgu9cRk)  

CHAPTER 9  生きるとは死ぬよりも辛いんだ

麻美子は喪服を着ていた──周りには喪服の男女、老若男女が居る──そして皆は同じ方向を向いている──その方向には、にっこり笑ってピースをする将人の遺影があった──
周りの何人かは泣いているが、麻美子は泣けなかった──何故なら、目の前で死んだ姿を見ているからだ──そしてお坊さんの念仏も唱え終わり、少し休憩がてら、外へ出る──
そこには『アシナクシ』が居た。
「アンタ……よく成仏しないわね……」
「それハそうダ……あの『くろいジぶん』をたおサないカギり、ワたしはジョうぶつできナイダろうな……」
「そう?なら貴女も大変ねぇ……私はこの仕事が嫌になってきたわ──」
「ふぅん?そうカ……?」
その理由を聞こうとすると、勝手に真美子が話した。
「だってね、仲良くした相手が死ぬ事はもう見たくないし──私はね、こう思うんだよ──『生きるとは死ぬよりも辛い』ってね……多分、精神的に耐えられなくなったら、もう、この仕事を辞める──私はそう感じるんだ……」
「……それハわたシハしらン……わタしはモうヒトりのじぶんヲたおしテ、じょうブツするサ……』
「私と、アンタ──どっちが早く消えるか、勝負ね?」
「そんナしょウぶ、したくナイといイたいガな……」
『アシナクシ』はそう言いながら、空を見た……あの日以降は大変だった──そう思いながら、あの日を思い出した──

あの後、桃園アリス基二人と『アシナクシ』は将人の遺体を持って、将人の家に向かった。
そして死んだ旨を話して、そのままその家に引き渡した。
だが、不思議な事に将人の母は泣いておらず、何かを覚悟していた様な顔だった──
その後時間を作ってもらってアリスは将人の母と話した。
「いえ……もう分かってた事なんです──将人、あの子は何時も考えていました──自分が『アシナクシ』に死なない様に考えていた事を──ですが、『アシナクシ』の所為で死んだんですよね?死んでしまったら、もうどうしようもないと思うんです──だから、あの子が死ぬのも運命なのかもしれないと思うんですよ……だから、私達母親、父親はあの子を弔う事しか出来ない……」
確かにそうだ、死んだ者の話等もう出来ない、だからもう弔う事しか出来ない──そう考えながらその日は帰ってもらった──人には色んな死の別ち方があるのだな、と考えながらアリスはコーヒーを飲んだ──

「まぁ、面倒だわ、今度は何処を放浪しようかしら?」
「てキトうに」
「でしょうね……でも、一体もう一人の『アシナクシ』は何処へ隠れたのかしら?」
「それナンだよ……イクらセんさクしたが、わからナイ……」
「そう?貴女も大変ねぇ……」
そんな話をしていると、謎のフードの人物──間野悠子だ──が現れる、目の下には泣いた痕と思われるクマが出来ていた──
「お前……ッッ!?何しに来やがった!」
すると簡単に話す悠子。
「死んだ将人の葬儀を見に来ただけだが?それ以外に何もない」
そう言いながら花束を麻美子に投げる。
「私はそもそも殺していない、だけれど葬儀をする視覚は有っても良いと思うの──殺したのは──『悪いアシナクシ』なんだから……」
そう言いながら走って消える悠子──麻美子と『アシナクシ』は悠子を見つめる事しか出来なかった──

そして時間が過ぎ、もう夕方になった。
「さぁて……バイバイ『アシナクシ』……私はもうどっかへ行くわ──もう会う事もないでしょう──」
「それハどうダロうな?」
そう言いながら麻美子は消えていった──そして一言、『アシナクシ』は言った。
「いるンダろ?『将人』?」
そう言うと、反対の屋根からひょっこり脚の無い将人が現れる。
「幽体って、結構楽なもんだなぁ──って何時から気付いてた?」
アハハ、と言いながら将人は『アシナクシ』に聞いた。
「……イマしった……」
実は結構前から知っていたが、あえて言わない事にした『アシナクシ』──そして将人に聞いた。
「おまエハどうすルンダ?」
「自分?……どうしよう?直に成仏するよ──もうこの世に未練は無いからね──まぁ、悠子に着いていっても良いが、『悪いアシナクシ』に感付かれてしまうかもしれない──」
「そうカ──わたシハもうすコシ、ここニタイザいするよ……まだイルかもしレナイからな……」
「そうか……もう良いんだよなぁ……『アシナクシ』の戦いを──自分が脱落しても……?」
そう言うと、『アシナクシ』は言った。
「それはオマエがキメろ……わたシハしらン……」
「ハハッ!そう言うと思ったぜ……んじゃーな、また来世、会おうぜ?会う時は生きている身でな!」
そう言いながら将人は天へ昇っていった──私も成仏して、天へと登る事は出来るのだろうか?そう思いながら『アシナクシ』は考える──だが、そんな考えも諦めた。
何故なら私は『アシナクシ』だから──アイツをタおすまデワタしはじょうブツできない──!
そう思いながら『アシナクシ』は空を見た──綺麗な夕焼けが『アシナクシ』を包む──

Re: アシナクシ。 ( No.36 )
日時: 2016/06/04 14:33
名前: 彩都 (ID: REqfEapt)  

左手の疼きに苛つきを覚えながら、悠子は空を見上げる──綺麗な夜空に悠子はまた苛ついた──
「何だ?まだその『部分』が疼くのか……?」
「あぁ……あのクソ母親の──な──」
そう呟きながら悠子は苛ついた──その理由は数年前からだった──
母が悠子の服を来て、援助交際──そして性的行為へと繋げていたからだ──をしていたからだ──その時はまだ知らなかったが、昔から『よく似ている』母娘だったので、区別がつかなかった──そんなある日、援助交際がバレて、父と母は口論をしてしまった。
その時だった、母が父を殺してしまったのだ。
それを隠すべく、畦道山に埋めに行った──その埋めた所が今の悠子がいる洞穴だった──
そして母は二人目の夫と結婚、そして母娘の仲は悪くなっていった──そんな援助交際も学校にバレない訳ない──その援助交際の所為で悠子の進学が危なくなったというのに……そんな怒りもあり、悠子は母を殺した──だが、『アシナクシ』に殺された様にしなければ……そして足を切ったという事だった。
「だが、死んで清々しただろう?さぁ、後はこの街から逃げるだけだな……」
「そうね……では、明日から少しは移動しましょう?『アシナクシ』にバレないようにね?」
「あぁ、分かっているさ──」
そう呟きながら、『アシナクシ』は邪悪な笑みを浮かべる──そして翌日から間野悠子は行方不明になるのだが──それはまだ知らない──

……ん?此処は……?
そう思いながら、麻美子は目覚める、此処は、ホテルだ──昨日は、色々な所に移動して、疲れて、ホテルに移動した事をゆっくり思い出す。
そしてモーニングを食べて、少し思慮──さて、矢張り、将人の事を思い出してしまう──何でだ?ただの商売相手だったろうに?ん?本当に『ただの商売相手』だったのだろうか?あんな一般人の泣き面も見てしまって、それは無いだろう。
だが、そこ迄考えても結局は私には関係が無い、そう思いながらホテルを出る。
そして麻美子は遠い遠い場所に向かう──場所なんて関係ない、今はこの気持ちの整理がつける様な場所に移動したかった──

さぁ、今からどうしようか?足取りなんて無いのに……
そう思いながら『アシナクシ』は将人の葬儀会場の上、屋根に乗って、考える。
まず、あの悪い方を見つける事が大事だ、だが、どうやって探す?方法は幾らでもあると思うが、まず、此処に居ない場合はどうするべきか?
そう考えながら、空を見る、お前は私の為に闘ってくれた存在、絶対無下には出来ない、いやしない!
そう思いながら、『アシナクシ』は周りをふよふよ浮いてから、色々な場所に移動した──

「ふむ……まだつまらないな……」
そう呟きながら、卒業アルバムを見る、アリス──昔死んだ『仲間』を思い出す──『アシナクシ』を倒した五人の仲間達──生きていたら、もっと楽しかったろうに……そう思いながら、クラスの集合写真が写ったページを見る──一クラスに二人程度の右上やら左上の欠席者の写真が貼られている──その中で実に半分ものの人数のクラスがあった──それがアリスのクラスだった。
そして二組、三組とアリスと同じ様な人数のクラスが存在していた──その中に赤く丸をつけている顔写真の男女が居た──それが昔死んだ『仲間』だった──五人の内、自分だけが助かった卑怯者──そう思われても良い、そう思いながら私は生きて来たんだ──今もその事は忘れない──そう……『十年前の大悲劇』──それはもう起こしたくない、そう思いながらアルバムを閉じた──
そしてビールを一杯、一気飲みをする。
もう今日は飲んで忘れる、そう思いながらアリスは一杯飲んだ。

……さて、どうしようか?……やる事もないしなぁ、女子の裸を見に行くってのも何だか不純な動機過ぎて見に行く事を控えてしまう……そう思いながら、幽体の将人は空中で胡坐を掻きながら腕を組む。
やる事が無い、それが今の将人だった。
死んだのは良いが、天界に行くのに時間が掛かり過ぎる事、そして一番は、『人間が思っている天界が存在しない』事──ただ単に死んだら、天界に行って、はい御仕舞なのだ。
『天国も地獄も存在しない』、それが天界だった、だったら、罪はどうやって償う?そもそも償わなくても良いのだ、ずっと、天界が用意した『部屋』の中で『転生する迄待つ』しかないらしい。
だが、何もせず、ずっと『部屋』の中でいる事は苦痛でしかない、なので、将人は自然消滅迄待つ事にした。
自然消滅は、一年で消滅してしまう、そして勝手に転生されてしまう、転生する前の記憶も無くなってしまう、たったそれだけだった。
それなら待つだけで消える、『部屋』に行かなくても良い、それの方が楽だ、そう思いながら、宙に浮いたまま欠伸をする。
まぁ、スカートの中なら覗いても良いよね?そう思いながら、覗きたい、と思っても体が反応しない、めんどくさいからだ。
このまま空中でゴロゴロしていたら、消滅するからもう、このままで良いや、そう思いながら空中浮遊する将人だった──

CHAPTER 9 終了 LASTCHAPTER 10 に続く……