ダーク・ファンタジー小説

Re: Lost School ( No.1 )
日時: 2015/12/27 20:32
名前: ロスト (ID: ikU9JQfk)

序章 A Peaceful Days

 2015年12月1日水曜日AM8:15 不知火中等教育学校 point:楠炎真
 
「今日も今日かて寒い寒い……」
 学校の駐輪場にバイクを停め、俺は呟いた。この時期のバイク通学は本当につらい。とはいえ、俺の家からここまでは歩くと1時間以上かかるから仕方がない。一応通学バスも用意されているが、如何せんイクスペンシブなのだ。
 俺は楠炎真くすのきえんま。変な名前だ? まあ認めるけどさ。でも、この名前は嫌いじゃないんだ。ばあちゃんが付けてくれたらしくてな。確か、真実を炙り出す炎のように生きてほしいって意味だったと思う。
 さて、教室に行こうかね。それにしても寒い。手なんか氷のように冷たくなってるように感じる。手袋を二重にしててもこれだぞ。酷くないか天の神様。
 そんなことを心の中で呟きながら、俺は教室へと向かった。

 ————俺はいったい誰と話してたんだろうか。

Re: Lost School ( No.2 )
日時: 2015/12/30 18:55
名前: ロスト (ID: Joe8I4Fa)

 同日AM8:18 不知火中等教育学校4-4教室 point:楠炎真

 うちの学校は8時40分に朝礼が始まる。故に、この時間帯に教室にいる人は少ない。大体がグラウンドで朝練をしていたり、家でゆっくりしていたり、バイクで通学している途中だったりと自由な時間帯だ。
 不知火中等教育学校は10年前に政府が試験的に導入した中高一貫校のひとつで、各学年の呼称は1年生から6年生と小学校のそれと同じだ。ちなみに、前は不知火高校という学校だったらしい。
 制服はカッターシャツ(白、黄色、青の三色がある)の上に黒のブレザーを着る。下は男子が紺色のズボン、女子が紺色のチェック柄のスカート。靴下は男子が白、女子は黒だ。
 とまあ、ここまでまじめな説明をしてきたわけだが、実を言うとうちの学校は年々志願者が減ってきている。俺たちの時には倍率が3倍もあった入試も、今では1.3倍になってしまった。理由としては、場所が田舎であるからということが挙げられる。言っておくが、政府公認の学校だからって都会にあるわけじゃないんだ。さっきも言ったが、うちの学校は試験的に導入されたわけで、試すならリスクの少ない田舎でという魂胆なのだろう。
 俺はこの学校に魅力を感じて入学したわけではない。俺の地元は県内でも有名な不良の巣窟で、小学校の時もいやな思いをたくさんした。だから俺は地元の中学校には行かず、この学校を受験することを決意した。受からなかったら地元の学校に行くしかなかったから、合格したときは本当にうれしかった。
 今思えば、その判断は間違っていなかったのだろう。確かに田舎ではあるが、それ故に環境に恵まれていて緑に囲まれた中で勉強できるという点ではどの学校にも劣らないだろう。

「なんでお前は教室のドアの前で佇んでるんだよ」
 突然かけられた声に振り向くと、入学時からの親友である赤井秀あかいしゅうがあきれた顔で立っていた。
 彼は野球部に所属していて、ほかの部員と同様に常に坊主頭にしている。俺はいまだにその理論が理解できないのだが。身長は高いほうで、確かこの前測ったら175cmだったって言ってたっけ。俺は168cmくらいだから、素直にうらやましい。
 顔立ちは整っているほうで、部活生だからか、やはり筋肉質の引き締まった体つきをしている。
 ここまで言うと完璧な人間のように聞こえるが、秀は勉強ができない。いや、数学だけは完璧なのだが、ほかはまったくできないのだ。部活馬鹿だから仕方ないのかもしれないが。
「お前、なんか失礼なこと考えてないか?」
 あきれたような顔は継続したまま、今度はため息を吐く。お前も十分失礼だよ。
「つーか秀よ、部活は?」
「今日はアレの日でな」
「ああ、はいはい。……貸さないぞ」
 アレ、とは。いわゆる『俺宿題終わってない』の日である。故に、宿題は貸さない。
「頼むよ炎真! 俺にはお前しかいないんだよ!」
「お断りします」
「そうだ、今度ジュースおごるからさ」
「……御意」
 俺は黒色の通学バッグから宿題のノートを取り出し、秀に渡す。ま、俺も単純な人間ってことだな。

Re: Lost School ( No.3 )
日時: 2016/07/16 00:56
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日AM8:20 同所 point:楠炎真

 俺と秀の席は離れている。厳密には、俺が一番前の席で秀が一番後ろの席。一番前の席は何かと毛嫌いされる席で、俺もいい気分ではない。授業中先生から話しかけられるし、日直が黒板を消せばチョークの粉が襲ってくるしと負の特典満載なのだ。
「楠君、おはよう!」
「おう、おはよう」
 元気な挨拶をしてくれたのは後ろの席の土井宮子つちいみやこだ。茶髪の混じったショートカットの黒髪、大きな瞳に小さな顔。美少女とまでは行かないものの、可愛いほうだろう。彼女の特徴は持ち前の明るさだ。女子のなかのリーダー的な存在で、話し合いやスポーツなど集団で何かをするときは彼女が女子の意見を統括している。
「朝から何しけた顔してんの! ほら、笑顔笑顔!」
「お、おう」
「ほれほれ、むにー!」
「おいやめろ、ほっぺたを引っ張るな!」
 土井は男にも分け隔てなく接する。だからと言って男子の頬を引っ張るのはやりすぎだと思うが。しかし、だからこそ女子だけではなく男子からの信頼も厚い。これで彼氏がいないってんだから不思議だ。

 土井から解放された俺は席に座り、バッグから教材を引っ張り出す。
「災難だったね、楠」
 俺の左隣の席には、牧村翔太まきむらしょうたが座っている。黒色で前は目にかからない程度、後ろは方までかかっている髪、タレ目で柔和な顔をしている。そこまで身長は高くなく、華奢な体つきをしていて秀とは真逆だ。
 彼も秀と同様、入学時からの親友である。
「災難っていうか……」
「あれ、嬉しいの?」
「違えよっ!」
「の割にはにやけてるけど?」
「あっ!? いや、違うし。どっちかというと迷惑だし!」
「くーすのーきくーん」
「あっ!」
 どうやら俺と翔太の会話は土井に聞こえていたらしい。まあ、後ろの席なんだから当たり前か。
「私が迷惑ってどういうことよ。もう怒った、先生が来るまでほっぺた引っ張ってやる!」
「うわ、やめろ! ふぎぎぎぎ! しゃっきよりもいふぁい!?」
「あははは、楠、変な顔!」
 翔太は腹を抱えて笑っている。畜生め、お前のせいなんだよ!
「牧村君も同罪ね」
「あはは……ええっ!?」
 土井は左手で翔太の頬を引っ張った。
 1人の女子が2人の男子の頬を引っ張る、という妙な構図が出来上がってしまったわけだが、不思議なことに、この状況に突っ込むやつはいなかった。
 そう、こういう光景はいつものことなのだ。とはいえ、俺たち2人と土井の仲はそこまで良いわけではない。それだけは伝えておきたい。

Re: Lost School ( No.4 )
日時: 2015/12/30 18:54
名前: ロスト (ID: Joe8I4Fa)

 同日AM8:25 同所 point:楠炎真

 土井が友達に呼び出されて教室から出て行った後、俺と翔太は頬をさすりながら、
「朝っぱらから酷い目にあったな」
「そうだね……」
 いまだに頬がヒリヒリする。やりすぎだよ。
「災難だったな、2人とも」
「秀……見てたんなら助けろよ」
 秀は笑顔でこっちに近づいてきた。図ったようなタイミングなのは気になるが。
「見てて面白かったぞ。翔太のあんな顔めったに拝めないからな」
「赤井……後で覚えてろよ」
「おい翔太、怖いぞ」
 さっきも言ったが、この2人とは入学時からの親友だ。俺たちの出会いはそれはそれは不思議なもんだったが、こいつらと出会えてよかったと思う。
「大体、赤井は宿題終わったの?」
「あん? まだだけど」
「どうしてキョトンとしてるの!? 早く終わらせなよ!」
 秀は『宿題終わってませんけどなにか?』というような表情を浮かべている。駄目だこいつ。アホの申し子だよ。いや、こいつの父親は弁護士だし母親は看護士だから、本当は頭がいいはずなんだよ。
「いや違うんだよ翔太、俺はお前たちに話があって来たんだよ」
「……何?」

「炎真、翔太……おはよう」

 その刹那、俺と翔太の思考が停止した。
 え、こいつはそれを言うためだけにここに来たのか? 宿題を中断して?
「もう駄目だ。秀、お前はアホの申し子だよ。はい、翔太どうぞ」
「赤井、僕は君が怖いよ」
「何で?」
 キョトンとしてんじゃねぇよっ!
「赤井、おはよう」
 そう言いながら秀の頬を思いっきり引っ叩いた翔太も怖いのだが、それを言うと俺も引っ叩かれそうだからやめておこう。
「痛いぞ翔太! なにすんだよ!?」
「はいはいごめんごめん。さて、君は宿題意を終わらせようね」
「ちょ、やめろよ翔太、俺が重いからって襟を引っ張るなよ!」
 何度も言うようだが、これも日常茶飯事なのだ。だから誰も突っ込まない。まあ、これも仲がいいから許されることなんだろうな。
 翔太は秀を引っ張りながら秀の席へと連れて行き、まるで母親のように秀を監視しだした。
 俺はため息を吐き、トイレに行くために教室をでていった。

Re: Lost School ( No.5 )
日時: 2016/02/06 23:52
名前: ロスト (ID: L29ov/4C)

 同日AM8:28 不知火中等教育学校2階男子トイレ point:楠炎真

 トイレの汚い学校は風紀が乱れている。確かそんな言葉を聞いたことがある。確かに、不良はトイレにたまるような描写を漫画とかでよく見かける。そう考えると、うちの学校は良いほうなのだろう。いや、まだ10年の歴史しかない学校が不良の集まりになるはずがないか。

「早く土曜日になんねぇかなー。マジでだるいわ」
「確かにな。ああ、そういえばお前上手くいってんの?」
「何がだよ」
「彼女とだよ。なんか最近マンネリ気味みたいだし」
「あー、やっぱ分かっちゃう? そうなんだよ、最近冷めてきちゃってな。別れようかなとか思ってんだけどさ、どう思う?」

 どう思う? じゃねぇよ。入り辛えよ。なんでトイレでそんな話をしてるんだよ。大体、恋愛ってそんなに軽いもんなの!?
「次は土井あたり狙ってみるか」
「やめとけって、絶対相手にされねぇよ。あいつは英二一筋なんだから」
「やっぱそうかー」
 もういいかな。入っていいかな。つーかもう限界、入る。
「お、炎真じゃん、おはよう!」
「おはようじゃねぇよお前ら。なんつー話してんだよ」
 トイレの中にいたのは大堀大吾おおほりだいご森正もりただしだ。
 大堀も森もラグビー部に所属していて、身長の高さも相俟ってゴツイ。6年——つまり高校3年生にも負けないくらいの体格のよさだ。大堀は黒の長髪をオールバックにしていて、狼を連想させるような風貌をしている。逆に森は筋肉質ではあるがさわやかな顔をしている。肩までかかる後ろ髪、目が隠れるほどのながさの前髪。ゴツくなければ完全にホスト系だ。
「あ、そっかわりぃ。炎真はまだまだピュアなんだっけ」
「ぶっは、マジで!? もうそろそろ彼女の1人でもつくったらどうよ。こんなにゴツイ大吾でも彼女がいるんだぞ?」
「正はもう乗り換えようとしてるしな」
 こ、こいつら……許さん!
「ほら、赤木がいるじゃねぇか。告らねぇの?」
「ぶっ!? な、なんで俺が未来に!」
 赤木未来あかぎみらい。大堀が挙げた人物は俺の小学校からの幼馴染だ。いつもオドオドしてて守ってやりたくなるような奴だ。
「あ、そういえば英二見てないか?」
「いや、見てないぞ」
 森は目にかかった前髪を払いながら尋ねる。そんなに気になるなら切ればいいじゃねぇか。
 英二、とは松井英二まついえいじのことで、大堀と森、松井の3人はうちのクラスのヤンチャ3人組として有名だ。その3人の中でも松井はリーダー的な存在で、土井と同様、クラスのまとめ役として活躍している。
「この時間帯に来てないってことは……また告られてるのか」
「は!?」
「もしかしたら、赤木さんが告ってたりしてな」
「森、てめぇ……」
「あはは、怒るなよ。英二は土井以外相手にしないからよ」
 そこじゃねぇんだよ!