ダーク・ファンタジー小説

Re: Lost School ( No.14 )
日時: 2016/01/20 00:50
名前: ロスト (ID: SyV4.Cvk)

 同日PM1:05 同所 point:楠炎真

 昼飯を食べ終わった俺たちは各々の席に戻って自由に過ごしていた。ちなみに秀は職員室に呼び出されている。理由は言わずもがなだろう。
 翔太は俺の隣で次の授業の予習をしている。未来はおそらく読書をしているのだろう。ピンク色のブックカバーを付けた本を熱心に読んでいる。
 この時間帯はもちろんクラス全員が自由に過ごしている。松井たちは後ろの方でスマホゲームをやっているし、土井は複数の女子に囲まれて喋っている。

 昔、俺は幸せなのかと考えたことがある。結局答えは見つからず、考えるのを諦めたのだ。
 幸せ。確かにそれを感じるタイミングは人それぞれだ。だが、俺は今が本当に幸せだと感じたことがあるだろうか。楽しい=幸せならば否定はできない。では、快楽=幸せならどうだ。快楽と楽しいは異なるものだ。そう考えると、やはり疑問が生じてくる。
 確かに、俺には秀や翔太のように信頼できる友達がいる。未来のような幼馴染もいる。水無月先輩のような頼れる先輩がいる。
 しかし、それが快楽へとつながるかと問われれば、否定せざるを得ない。快楽を端的に表す言葉として、気持ちいいが挙げられるが、俺は彼らといてそう感じたことはない。
 ……いや、一度だけそう感じたことがあったな。あれは小学生の時だ。そこに誰がいたのか、何に対してそう感じたのかは思い出せない。だが、その感覚だけは覚えている。思えば、あれが真に快楽——幸せを感じた瞬間なのかもしれない。


「楠、楠ってば」
「ふぁっ!? ああ、翔太か。おどかすなよ」
 どうやら考え事をする内に眠っていたらしい。翔太は心配して声をかけてくれたようだ。
「昨日寝てないの?」
「いや、しっかり寝たはずなんだけどな。仕方無いから少し寝るよ。5分前になったら起こしてくれないか」
「分かった」
 こういうところが翔太の良さだ。秀の宿題にしてもそうだが、最大限のサポートをしてくれる。だからこそ俺は彼を信頼しているのだ。
 それにしても、この眠気はマズイな。授業で居眠りするわけにはいかない。俺は机に突っ伏し、ゆっくりと目を閉じた。



 ——幸せ。
 ——俺はいつ自覚するのだろう。
 ——そこには誰がいるのだろう。
 ——その時に何が起こっていたのだろう。
 ——もしも俺が幸せを自覚したならば、

Re: Lost School ( No.15 )
日時: 2016/01/23 01:43
名前: ロスト (ID: SyV4.Cvk)

 同日PM2:17 同所 point:楠炎真

 ああ、やっちまった。本当にやってしまったよ。
「楠、本当に大丈夫?」
「……無理かも」
 要するに、だ。俺は授業中に居眠りしてしまったのだ。しかも、頬杖が滑って机から盛大に落ちてしまった。
「保健室に行ったほうが良くない? 無理はだめだよ」
 翔太は俺の顔を覗き込みながら優しく微笑む。
 正直、体がダルい。朝は特にそんな感じはしなかったんだがな。まあ、外と教室の温度の違いが影響しているのだろう。教室は暖房が効いている。それと対照的に、外は凍りつくような寒さだ。
「翔太、次の時間頼む」
「了解、先生に言っとくよ。1人で大丈夫?」
「大丈夫だ、ありがとう」
 そう言って立ったはいいが、その直後に視界が歪み、俺はその場に跪いてしまう。
「楠!」
「あれ、おかしいな。吐き気が……」
 俺と翔太の異常な光景に、クラスメート達が駆け寄ってくる。
「炎真、大丈夫か!?」
 秀が俺に肩を貸してくれた。こういう時は頼りになる。
 ざわつく教室をなんとか出て、秀は俺を保健室まで連れて行ってくれた。不思議なことに、廊下で先生たちとすれ違うことは無かった。

Re: Lost School ( No.16 )
日時: 2016/07/12 21:24
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 ?月?日時刻不明 ??? point:???

 この世には人類が足を踏み入れることが出来ない領域が存在する。それを私たちは『異世界』と呼んでいる。
 だが、そもそも『異世界』という語は人間が分類体系を作り上げる際の構造論と関連してるのだ。我々人間が自己中心的世界観で内部と外部を二項対立的に認識する場合、外部となるものが『異世界』なのである。逆に、内部となるものが『現実世界』だ。
 よって、様々な程度で境界を挟んで『異世界』が存在する。

 例えば、今君が高い壁に囲まれ、外部との連携を完全に断たれたAという村に住んでいたとしよう。この場合、君にとってA村が内部であり、A村の外部、つまりA村の壁の外にある別の村や町、海や森林などはすべて『異世界』ということになる。
 現代の社会では最初に述べた領域が『異世界』の定義であるのだが、実際のところ『異世界』とは『自分にとって未知の世界』を意味するのだ。
 つまり、『異世界』は無数に存在し、且つ個人によって数も場所も異なるのである。
 このように『異世界』を捉えると、A村に住む君にとってB村の住人は『異世界人』ということになる。

 ところで、今度はこんなことを考えてみよう。
 君はA村の壁を壊し、Cという森で野宿をすることにした。この時、君は今まで『未知の場所』であったCという森を認識——つまり『既知の場所』に変えた。
 この時、何が起こるのか。
 簡単なことだ。今まで『異世界』だったCという森が『現実世界』に変貌する。つまり、『異世界』が1つ消失したということだ。
 そう、『異世界』は『現実世界』にも成りうるのだ。

 もちろん、逆もありうる。
 もし君が記憶喪失を起こしたとしたら、君にとってA村は『未知の場所』へと変貌し、『異世界』となる。

 要するに、『異世界』と『現実世界』の境界線とは、人間の『認識』によるものなのだ。
 言い換えれば、『未知』と『既知』の違い。それこそが『異世界』と『現実世界』を分けるのである。

 最後に、私の言いたいことを示しておこう。
 君が『異世界』を消滅させたいのなら、その『異世界』を『既知の世界』に変えてしまえばいい。そう、認識するのだ。どんな形でもいい。その場所のことを知るのだ。
 『既知』の定義は場所によって異なる。森林や海など、自然界のものはただ認識するだけでいいのだが、人工の建造物や都市などは違う。その本質を知らなければ『既知』とはならない。
 いずれにせよ、認識することで『異世界』は『未知の世界』から『既知の世界』へと変わり、消滅する。そして、新たな『現実世界』が生まれるのだ。
 しかし、それは『異世界』にとって死を意味する。きっと『異世界』は君の『既知』を覆そうとするだろう。例えば、君を殺したり——

 その時君がどう動くか。私はそれが楽しみだ。

Re: Lost School ( No.17 )
日時: 2016/01/25 16:50
名前: ロスト (ID: SyV4.Cvk)

 同日PM4:35 不知火中等教育学校1階保健室 point:楠炎真

 ゆっくりと目を開けると、白いカーテンが見えた。視線を上に移すと、少し黄ばんだ天井が見える。
「ずいぶん体が軽くなったな……軽い熱だったのか?」
 右腕にはめている黒の腕時計を見ると、時間は4時35分を指していた。
「げっ、終礼始まってるじゃねぇか!!」
 と慌ててみたはいいものの、間に合うわけが無い。
 ため息を吐きながら、俺はベッドから降りて、身だしなみを整える。学年のカラーである緑色のスリッパを履き、カーテンを開けた。
「先生、もう大丈夫です」
 だが、そこにいたのは先生ではなかった。
 ツインテールで、風紀委員長の腕章が目立つ、一見すると中学生に見える少女。その少女が本来保険医の先生が座っているはずの椅子の座っている。しかも偉そうに。
「悪かったですね、先生じゃなくて。ま、大丈夫そーで安心しました。いきなり倒れたって聞いたからもしやウチが無理させたからじゃねーかと思いましてね」
「先輩……」
 あれ、もしかして心配してくれてるの? あの『鬼の風紀委員長』が!?
「ウチの責任問題になると困るのでね」
 ですよね。
「さ、大丈夫なら行きますよ」
「えっと、どちらに?」
「決まってるでしょ。凍子さんの所ですよ」
 この人にはさっきまでぶっ倒れてた人間への情は無いのか!?

Re: Lost School ( No.18 )
日時: 2016/02/06 23:54
名前: ロスト (ID: L29ov/4C)

 同日PM4:57 不知火中等教育学校4-4教室 point:楠炎真

 先輩に催促された俺は荷物を取りに教室に戻ってきた。と言っても、教室には誰もいない。大抵帰ったか部活に行ってるかだ。
「せめて翔太たちにはお礼を言いたかったのにな」
 特に秀にはな。あいつが俺を保健室まで連れてきてくれた。悔しいが、今日はあいつに負けっぱなしだな。
 俺は教室の電気を付けて、自分の机に向かった。通学バッグは保健室に置いてあったのだが、教科書やノートは全部机の中に入っていた。まあ、文句は言うまい。
「それにしても、先輩と紅崎に接点があったとはな……」
 未だにその接点は分かっていないが、それでも驚きだ。紅崎は俺と同じ小学校だったのだが、そこまで話したことは無いと思う。ああ、でも児童会では一緒に仕事してたっけ。
 俺は小学校6年生の時に児童会の会長を務めていた。その時に副会長だったのが紅崎だ。だが、彼女と話した記憶は殆ど無いし、況してや水無月先輩との関わりなんかあるはずがない。
 果たして紅崎と先輩の接点とは何なのか。俺、気になります。
 
 そうこう考えながらも、俺は必要な荷物を取り出し終えた。それらをバッグの中に入れていると、2人の人間の足音が聞こえてくることに気づいた。
「……うちのクラスか?」
 この時間に教室に来るということは、忘れ物か何かを取りに来たのだろう。
 足音は教室の前で止まった。2人の話し声から、どちらも女子——しかもうちのクラスの双子姉妹であることが分かった。

「あれ、電気点いてる。誰かいるのかな」
「いいから早く取ってきなさいよ。早く帰りたいんだから」
「はーい」

 そう言って、片方だけが教室に入ってくる。彼女——村上叶絵むらかみかなえは俺を見つけると、驚いたように後ずさりし、
「うわっ! 楠君!? もう大丈夫なの?」
 凛とした顔立ちで、綺麗な瞳、薄いピンク色の唇……スタイルも良く、胸も服の上から分かるくらい大きい。つまり、ほぼ完璧な美少女なのだ。唯一の欠点は、顔に似合わない少し幼さの残る性格だろうか。
「え、楠君!?」
 すると、もう1人まったく同じ顔の女子が教室に入ってきた。彼女は村上早苗むらかみさなえ
 村上姉妹は一卵性の双子のため、見た目がまったく同じだ。見分け方はその髪型。ボブカットなのが叶絵、ポニーテールなのが早苗だ。ちなみに、早苗が姉らしい。
「もう大丈夫なの?」
「さっきまったく同じ台詞を村上妹から聞いたんだが」
「へへ、何てったって双子だからね!」
「そんなことどうでもいいのよ。何してたの?」
 村上姉が提げていたバッグを近くの机に置きながら尋ねてくる。村上妹は後ろにある自分の机に向かっていった。
「いや、通学バッグを持ってきてくれたのはいいんだが教科書とかが入ってなくてな」
「ああ、確か赤井君が入れなくていいって言ってたわね」
「うん、『炎真は天才だから教科書とかいらないんだよ』って言ってた!」
 村上妹は声を低くし、秀のモノマネをしながら再現してくれた。
 
 秀の野郎……明日会ったら殴る。