ダーク・ファンタジー小説

Re: Lost School【復帰】 ( No.27 )
日時: 2016/03/15 23:17
名前: ロスト (ID: WtPXn5LU)

 同日PM5:41 紅崎家リビング point:楠炎真

 きっちりと片付けられた綺麗なリビングで、テーブルを囲み紅崎と先輩、そして俺の3人は椅子に座っていた。
「…………」
「…………」
「もぐもぐ、これおいしーですね」
 自分でもぐもぐとか言う人初めて見たよ。というか、どうして先輩は平気なんだ。この重い空気、嫌だよ帰りたいよ。
 ちなみに、先輩が食べているのは紅崎が震える手で出したクッキーである。
「なんですか2人とも。葬式みたいな雰囲気出してんじゃねーですよ」
「いや、多分全面的に先輩のせいだと思うんですけど」
 紅崎は俺と目を合わせようとしない。急いで着替えたのか、青のストライプのセーターにジーパンというなんとも言えないファッションである。
「ウチのせいにしてんじゃねーですよ。懲罰房です」
「うわっ、横暴だ! 職権乱用だ!」
「あーあー、男がグチグチ言ってんじゃねーですよ。懲罰房アンド永久奉仕です」
 なんだこの風紀委員長は。もはやあんたの方が犯罪者だよ。
「誰が犯罪者ですか」
「人の心を読むなっ!」
 ふと紅崎の方を見ると、俯いたまま小刻みに震えていた。やばい、さすがに怒ってるのか?
「ふっ……あはははっ!」
「紅崎……?」
 紅崎は目に涙を浮かべながら笑っていた。隠されていて分からないが、恐らく右目にも涙が浮かんでいるだろう。
「2人って、案外仲が良かったんだね。でも沙織、突然楠君を連れてくるだなんて酷いよ」
「もぐもぐ、それは申し訳なかったですもぐもぐ」
「沙織、それ気に入ったの?」
「むふー、病み付きになりそーです」
 あれ、俺の隣にいる人は本当に水無月沙織先輩なのか? 普段の彼女からは想像も出来ないくらいくつろいでる。この2人、本当にどういう関係なんだろうか。
 
 この時、ようやく時間が動き出したような不思議な感覚が俺を包み込んだ。

Re: Lost School【復帰】 ( No.28 )
日時: 2016/03/20 01:21
名前: ロスト (ID: WtPXn5LU)

 同日PM6:00 同所 point:楠炎真

 談笑は続く。
 だが、俺は違和感を感じていた。
 その正体は多分、薄れている小学校時代の記憶だ。前にも言ったと思うが、俺は小学校の時のことを断片的にしか覚えていない。
 覚えているのは、俺が児童会の会長だったこと。紅崎が副会長だったこと。あとは、未来とよく遊んでいたこと。いや、これに関しても曖昧ではあるのだが。
 もちろん、小学校低学年の記憶ならはっきり覚えている人なんか殆どいないだろう。だが、俺の場合は高学年の記憶すら怪しい。
 まあ、だからと言って今の生活に支障があるわけではないのだが。
 
 それにしても、紅崎と先輩の接点には納得がいかない。そう、これが違和感の正体の1つだろう。
 辛うじてある記憶上では、紅崎は殆ど喋らない女の子で況してや上級生と喋ってる所なんか想像も出来ない。なのに何故こんなにも親しいのだ。
 そもそも先輩自体もそこまで社交的ではない。その名前こそ知れ渡っているが、友達といる所は見たことが無い。まあ、わざわざ6年生の教室に行くことなんて無いから本当のところはよく分からないのだが、それでも下級生とこんなにも親しいなんて絶対に想像できない。
 この2人の接点とは何なのだろうか。
 直接聞いてみるか……?

 いや、ちょっと待て。
 もしかしたらこの疑問を解決できるかもしれない。
 俺の記憶には1つの矛盾があるんだ。
 それは、もちろん紅崎のことだ。
 児童会の会長と副会長は選挙で決められる。厳密に言うと、会長選における1位が会長、2位が副会長になる。俺も会長選を闘ったのだからはっきり覚えている。
 だとしたら、おかしくないか?
 紅崎のイメージは殆ど喋らない暗い女子。なのに、選挙で2位だった。となるとやはり矛盾している。
 さて、ここでこう考えてみよう。

 ——紅崎に関する記憶が間違っている。

 これがどういう意味を表すのかは分からないが、そう考えてみると合点がいく。
 紅崎は今みたいに明るい子で、上級生とも繋がりがあった。とすれば先輩との接点も浮かび上がる。
 だが、正直これが正しいとも思えない。
 事実今の紅崎にはどこか近寄り難いオーラがある。だから、クラスでも半ば孤立状態だ。話せば普通の女の子なのだが、話しかけるまでに勇気がいる。
 こんな状況が小学校時代にも無かったとは言い切れない。
 何が正しいのだろうか。俺の記憶が間違っているとしたら、どうして?

 ……まただ。
 小学校時代の記憶を思い出そうとする度にこんな声が聞こえてくる気がする。


 ——オモイダスナ

Re: Lost School【復帰】 ( No.29 )
日時: 2016/03/20 01:52
名前: ロスト (ID: WtPXn5LU)

 同日同時刻 同所 point:楠炎真

「楠君、大丈夫?」
 紅崎に声をかけられて、ようやく我に返る。
「どうしたんですかボーッとして。もしかして、まだ熱が治ってねーんですか?」
「熱って?」
 先輩は今日の出来事を話し始めた。紅崎は時々俺に視線を送りながら相槌を打っている。
「沙織……病人を無理矢理連れてきちゃ駄目じゃない。楠君も無理しなくていいのに」
 思わず反論しそうになったがグッと堪える。だって、先輩の横暴をばらすわけにはいかないもん。百倍返しされるからな!
「そ、そういえば独り暮らしで一軒家ってのも珍しいよな」
 俺はなんとか話題を逸らそうとした。
 だが、次の瞬間紅崎の雰囲気が一変したのだ。さっきまでの明るい雰囲気が一気に闇を帯びていく。赤色の瞳からは光が失われ、まるで人形のように冷たい色へと変わる。
 俺は質問を間違えたと直感した。
 気まずい空気が流れる。さっきとは違う。気まずいというよりも冷たいと形容すべきか。
 紅崎は静かに息を吐く。
 その動作に俺の心臓の鼓動が速まる。
 どうしてこんな時に限って先輩は助け舟を出してくれないんだ。ああ畜生、まだクッキーの虜になっていやがる!

「お姉ちゃんがいたの」

 紅崎は背筋を伸ばし、お手本のような座り方をして低い声で言った。
「……いた?」
「うん。今は消息不明。4年前から連絡が取れなくて……」
「えっと、その、すまん。俺そんなこと知らなくてさ」
 なんとか言い訳をするが、紅崎の冷たい瞳は変わらない。俺をじっと見つめ、俺はその視線から逃げることが出来ない。
「……ううん、貴方は知っているはず」
「え?」
「いや、なんでもないわ。とにかく、あんまりプライベートに踏み込みすぎるのは良くないよ?」
 ようやく、紅崎の瞳に光が戻る。
「ああ。ごめんな」
 俺は安堵し、視線を少し逸らす。
 紅崎は少し姿勢を崩して、辛うじて残っているクッキーに手を出す。それに対して先輩が不満そうな声を出していたが、彼女は気にせずに1枚取って食べた。俺? もちろん食べれなかったよ。

 その後また少し談笑があって、俺たちは解散した。と言っても先輩は俺が帰ってからも少しの間居座っていたようだが。

Re: Lost School【復帰】 ( No.30 )
日時: 2016/03/30 12:57
名前: ロスト (ID: 90mHMWes)

 12月5日AM8:14 不知火中等教育学校体育館 point:楠炎真

 待ちに待った文化祭! みんなで力を合わせて頑張るぞっ☆
「こら楠君、現実逃避しない!」
 グッと親指を立てた右手を突き出す俺に、瀬戸薫子せとかおるこは怒鳴る。
 彼女はうちのクラスの学級委員長兼文化祭実行委員。ああもう、漢字が多い! とにかく真面目人間でセミロングの黒髪を忙しそうに揺らしている。
「大体、当日にこんな仕事があるなんて聞いてないぞ!?」
 今俺がやってるのは体育館のステージ設営だ。
 文化祭では軽音部がライブをしたり、空手部が演舞を披露したりする。そのためのステージを作っているのだが、これがまた重労働。
 他の実行委員は誘導やクラスへの説明などで大忙しだ。
「聞いてなかったの? 水無月先輩が説明してたわよ!? あ、あの時は楠君いなかったっけ」
「あんの鬼畜風紀委員長め!!」
 この前のプリントといい、あの人は俺に対していい加減すぎる。いっそのこと、紅崎宅での姿をばらしてやろうか!
「あ……その、楠君、後ろ」
「ああ!?」
 イライラし始めた俺は瀬戸の怯える姿になんの疑問も持たず、怒りの篭った声を出しながら瀬戸が指差した方向を見る。
 具体的には俺の背後。

「誰が鬼畜風紀委員長ですか。返答次第では懲罰房ですよ」

 もう一度言うが、この時の俺は非情にイライラしていた。故に、背後にいたのが誰かも確認せずに俺は返事をしてしまった。
「そのまんまだよ! 水無月先輩め……次会ったら精神的にケチョンケチョンにして——ってあるぇぇぇぇ!?」
 なんと背後にいたのは中学生のツインテール少女——ではなく、鬼畜風紀委員長だった。その顔には不気味な笑顔が浮かんでいる。
「ほう、精神的にケチョンケチョンですか。どんな攻撃をしてくるのか楽しみですね。後戻りなんて出来ねーですよ? さ、どうぞ」
 血の気が引いてくのが分かる。冷や汗が垂れていくのも分かる。なのに俺は現状が分からなかった。
 つまり、混乱していたのだ。だからこんなことを言ってしまったのだ。

「それはもちろん、この前紅崎の家で先輩がくつろいでいた姿をがぶっ!!」

 その拳は重かった。
 ふんっ! という声と共に振り下ろされた先輩の拳は俺の脳天に直撃し、妙な声をあげた俺はその場に倒れ、深い眠りについたのであった。

Re: Lost School【復帰】 ( No.31 )
日時: 2016/05/03 01:16
名前: ロスト (ID: obDW75wI)

 同日同時刻 同所 point:楠炎真

「いやね、さすがにやり過ぎだと思うんだわ。まだズキズキするし」
 なんとかステージを作り終えた俺たちは最終確認のため、ステージの上に登って強度を確かめていた。
「まあ、さっきのは楠君にも非があるというか……」
「瀬戸!? お前まで敵に回るのかよ!」
 正直泣きそうだった。
 瀬戸は髪を指先で弄りながら、
「先輩だって女の子なんだからさ、もっと優しくしないと」
 うーん、どう言い返そうか。非常に迷うところではあるが、とりあえずこう答えておくか。

「瀬戸、頼むからこれ以上俺を追い込まないでくれ……」

 瀬戸は首を傾げたが、クスクスと笑いながら、

「本当に先輩と仲が良いんだね」

 秀だったらぶん殴ってた。