ダーク・ファンタジー小説

Re: Lost School【復帰】 ( No.33 )
日時: 2016/07/12 21:25
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 ?月?日時刻不明 ??? point:???

 生物の死とは不思議なものである。
 生物の死とは自己認識出来ないものである。言い換えれば、他の生物によってしか死という現象は認識されないということだ。
 事実、自分が死んだかなど確認のしようがない。幽霊になれば分かる? いや、そもそも幽霊に思考があるかどうかなんて分からない。であればやはり死は自分では確認できないものなのだ。

 さて、ここで『異世界の死』と『生物の死』を比較してみよう。
 『異世界の死』は、言うまでもなく消滅と同義である。前にも書いたが、異世界は人間によって『既知』となった時に消滅する。
 つまり、他の生物によって『異世界の死』は訪れる。『生物の死』と同じだ。
 だが、それではつまらない。何か異なる点はないだろうか。
 どうやら存在するようだ。論じてみよう。
 簡潔に述べれば『異世界の命は複数個ある』だ。分かるぞ、ポカンとしている君の顔が。
 異世界についてこう述べたはずだ。異世界とは個人によって数も場所も異なる、と。
 Cという異世界が存在するとしよう。これを君が『既知』にしたら、Cは消滅する……君の中では。
 しかし、私にとってCはまだ『未知』である。つまり、Cはまだ消滅していない……私の中では。
 さあ、今ここでどのような状態が起こっているだろうか? 少し考える時間をあげよう。

Re: Lost School【復帰】 ( No.34 )
日時: 2016/07/12 21:26
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 ?月?日時刻不明 ??? point:???

 答えは出ただろうか?
 そう、この時Cという異世界は生きている状態で死んでいるのだ。何を言っているのか分からないかい? それは君が死という現象が生物にしか起こらないという固定概念に囚われているからだ。
 そう、この不可解な現象は生物ではない『異世界の死』だからこそ起こるのだ。
 だが、異世界を生きていないものと定義してしまうと、死の概念がなくなってしまう。死とは生があるからこそ存在できるのだから。
 つまり、異世界にも命があると定義しなくてはならない。だからこそ、『異世界には命が複数個ある』という定義が成り立つのである。いや、無数にあると言ったほうがいいか。

 これが、『異世界の死』と『生物の死』の異なる点だ。
 何故こんな話をするか、だって? つまり私の言いたいことは——自分が迷い込んだ異世界を殺すには、その場にいる全員が『既知』とならなければならないということだ。
 いつの日か必ず分かるさ。どうして私がこんな文章を書き残してるのか。その意味が。



 ——今は束の間の安息を楽しめ。

Re: Lost School【復帰】 ( No.35 )
日時: 2016/05/05 18:29
名前: ロスト (ID: obDW75wI)

 同日AM8:30 不知火中等教育学校4-4教室 point:楠炎真

 俺のクラスはこの文化祭で喫茶店をやることになっている。とは言え、食品衛生上の問題で食べ物は簡単なものしか用意できていない。可愛い女子がケチャップをかけたオムライス? メイドカフェにでも行ってろ。
 とにかく、飲み物はかなりの種類あるが食べる目的で寄る場所ではない。だが、それだけでは面白くないということで、時間帯によって色々なイベントをやることにした。
 例えば、じゃんけん大会や演劇、ライブなどだ。幸いなことに、うちのクラスは様々な趣味を持った人間が集まっている。イベントの案は尽きなかった。

「よし、今日は全員揃ってるな。みんな、自分のシフトは覚えてるな? サボったら許さないぞ!」
 と、教室に集まったクラスメートに声をかけるのは松井英二。前にも言ったが、クラスのまとめ役だ。ワックスで固めているのか、黒い髪がまるでホストのようなかたちになっている。身長も高いし……畜生、イケメンめ。先生に怒られろ。
「んじゃあ、いっちょいきますか。さ、開店だ!」
 それを合図に、最初のシフトに入っているメンバーが準備を始める。他のメンバーは仲のいい友達と一緒に散り散りになっていった。
 ちなみに、シフトは2時間ごとに交代。10人ずつだ。
「さて、行こうか瀬戸」
 俺と瀬戸は例外として1回しかシフトに入らない。他にやることが多いからな。
 まずは全クラスの見回り、その後は外部の客の誘導。
 この文化祭にはもちろん学校関係者以外も来る。だからこそ、大人数で監視をしなければならない。何かが起こってからでは遅いからな。
 俺は右腕の腕章のズレを直し、教室を出る。
「何も起こらなければいいけどな」
「そうね、私もそう思うわ」
 瀬戸は真剣な表情でそう言った。
 こうして、俺たちは見回りを始めたのだった。

Re: Lost School ( No.36 )
日時: 2016/05/17 22:09
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日AM8:40 不知火中等教育学校2階廊下 point:楠炎真

 うちの文化祭はいたって普通だ。まあ、中学生と高校生が混じってやってるんだから、普通とは言えないのかもしれないが。
「なあ瀬戸」
「ん、どうしたの?」
「平和、だよな」
 まだ文化祭が始まって数分。客も少ないし、文字通り平和だ。
「……去年のようなことが起こるかもしれないわ」
「ああ、だから今年は先生たちも警戒してるんだろ」
 去年、文化祭である事件が起こった。
 あまり思い返したくもないのだが、一応話しておこう。

 去年の文化祭は今年ほど見回りも厳しくなかった。それまで問題が起こったことはなかったし、うちの学校は生徒自治を掲げてるからな。先生たちもさほど警戒していなかった。
 だが、昼ごろになってちょっとした騒動が起こった。うちの生徒と他校の生徒が喧嘩を始めたのだ。原因は知らされてない。俺の学年の生徒じゃなかったからな。
 問題はここじゃない。
 実はこの喧嘩、仕組まれていたんだ。
 喧嘩に注目が集まっている最中、1人の女子生徒が拉致されてしまった。そう、喧嘩はただの目引き。その生徒たちの目的はこっちだったんだ。
 ここから先の展開は想像に任せる。
 事件が発覚したのは喧嘩が始まってから1時間後。女子生徒が拉致されたのは校内の倉庫だったから、発見は早かった。
 その後、彼女は学校に来なくなり、遂には自主退学してしまった。

 本当は今年の文化祭は中止の予定だった。だが生徒の強い要望により、風紀委員・実行委員、そして教員の見回り。そして必ず吹く数人で行動することを条件に開催されることになった。
「このまま平和でいられるかどうかは私たちにかかってる。さ、行くわよ」
 瀬戸は綺麗な黒髪をかきあげ、早歩きで進んでいく。
「……俺たちが」
 ふと、何かを思い出した気がした。それが何かは分からないが。
 不思議に思いながらも、俺は瀬戸の後を追った。 

Re: Lost School ( No.37 )
日時: 2016/05/22 21:53
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日PM12:38 同校4-4教室 point:楠炎真

 午前中は特に問題なく終わった。俺たちの見回りに加え、先生たちまで見回ってるんだ。そうそう問題は起こらないだろう。
「んで、だ。確かにこれから俺はシフトに入るわけで。それはいいさ。でもよ、どうして俺が——メイド服を着なきゃいけないんだよ!?」
 何故か俺はメイド服を着せられていた。ふざけんな。呪うぞ。
 犯人の翔太や秀はそそくさと逃げていったし、誰を責めればいいのか分からん。とりあえず仕事はこなすが、周りの視線が痛い。
「くく……似合ってるわよ……く、楠君」
 必死に笑いを堪えながら、村上妹が煽ってくる。
 同じシフトなのは村上妹と土井宮子、松井英二、そして紅崎凍子である。土井と松井は厨房、他3人は接客だ。
 どうしてかは分からんが、俺がシフトに入ってから客が増えたらしい。大体、こんな男にメイド服着せて何が面白いんだよ。
「おいくすの……炎ちゃん、これ持ってってくれ!」
「松井テメェ、後で覚えてろよ!」
 遅れるわけにはいかないから動きはするが、不満はたまる一方だ。

「楠君、可愛いよ?」

「紅崎……」
 俺に止めを刺しにきたのかお前は!? 
 ちなみに紅崎もメイド服なのだが……普通に可愛い。もちろん村上妹も可愛いのだが、紅崎は普段とのギャップがあるからな。ここは紅崎の勝ち。紅崎は相変わらず右目を隠したままだ。
 まあ、同じクラスの女子のメイド服なんか一生見れないだろうからせめて脳裏に焼き付けとくか。眼福眼福。