ダーク・ファンタジー小説

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.54 )
日時: 2016/07/01 17:12
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 第一章 ある平和な日

 2015年12月23日AM8:15 不知火中等教育学校4-4組教室 point:楠炎真

「今日も今日かて寒い寒い……」
 俺は教室に入り、自分の席に着くと手を擦り合わせながら呟いた。バイクで登校しているから、余計に手が冷たい。手袋変えようかな。

 二週間ほど前に、うちの学校では文化祭が開かれた。
 順風満帆に見えた文化祭だったが、最後の最後に大事件が起こってしまった。
 風紀委員長である水無月沙織(みなづきさおり)先輩が他校の生徒に拉致され、暴行を受けた。
 すぐに事態を察知した俺は水無月先輩をなんとか助け出し、事件は収束した。

 あの事件について詳しく知っているのは、俺と先輩、紅崎そして村上姉。あとは教師くらいだろう。
 事件があったことはすぐさまSNSで拡散されたりしたようだが、誰が襲われたかは明らかになっていない。それが、せめてもの救いか。

 先輩は事件の翌日から登校し、教師陣を驚かせた。もちろん、俺も驚いたよ。まさかあれだけの行為をされておきながら、立ち直れるとは……。

 事の顛末はこんな感じだ。
 あれから、先輩は余計に俺に絡むようになってきた。挙句の果てには風紀委員に入れといわれる始末。やっぱりあの先輩は凄い。

「よお炎真(えんま)、おはよう!」
 元気な挨拶をしてきたのは、俺の親友の1人である赤井秀(あかいしゅう)だ。相変わらずの坊主頭(毎日手入れしてるのか?)だ。
「おはよう、秀」
「なあ炎真、今日の現文——」
「断る」
「なんでだよ! まだ現文としか言ってねぇよ!?」

 こいつが朝っぱらから科目の話をするときは決まって課題が終わっていない時だ。
「お前……俺の心が読めるのか。結婚してくれ」
「ふざけてんのか、殴るぞ」
「ああ、やめて! 目が怖いから!!」
 笑顔で言ったつもりだったが……どうやらアホの申し子も少しは俺の気持ちを理解できるらしい。

「ったく、分かったよ。ほれ」
「ありがとう! 感謝するぜ!!」
 仕方なく課題のプリントを渡すと(俺は宿題をやってるんだよ)、秀は嬉しそうにスキップしながら(教室でやるな、響く)自分の席へと戻っていった。


 こうして、俺の平和な1日は幕を開けるのだった。

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.55 )
日時: 2016/07/16 01:00
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日AM8:18 同所 point:楠炎真

 この時間帯ともなると、部活の朝練も終わり生徒が教室に集まってくる。
 瀬戸薫子(せとかおるこ)もその1人だ。セミロングの黒髪を今日も忙しそうに揺らし(胸は揺れないらしい)ながら、教室に入ってくる。走ってきたのか、息切れをしているようにも見える。
 学年成績2位と優秀な頭を持っているが、運動神経は悪い。息切れしているといっても、そこまで走った距離は長くないはずだ。

 彼女とは文化祭の実行委員を一緒にしていた。
 事件があったときはちょうどクラスの出し物のシフトが入っており、駆けつけるのが大幅に遅れたらしい。
 本人はそのことを悔やんでいたが、逆にいなくて良かったのかもしれない。あんな光景、見たくもないだろう。

「あら楠君、おはよう」
「おう、忙しそうだな。今日も生徒会か?」
 瀬戸は生徒会に属しており、確か副会長じゃなかったっけ。
「ええ、次の選挙に向けて色々やらなければならないことがあって……」
「もちろん、出馬するんだろ?」
「ええ」
 やはり、真面目人間だ。だが、こんな人間がクラスに1人はいてくれたほうがいい。

 数分後、俺のもう1人の親友が入ってきた。
「おはよう楠」
「おはよう翔太」
 牧村翔太(まきむらしょうた)。秀とは逆に華奢な体、優しそうなタレ目、なによりその柔和な表情。男ではあるが癒しといっても過言ではなかろう。

「今日も寒いね」
「まったくだ。バイク通学勢をいじめているとしか思えん」
「あ、そういえばほらお客さんだよ」
 翔太が指差したのは教室の入り口。そこには仁王立ちをしている小さな女の子がいた。

 黒髪でツインテール。見た目は中学生か。身長も低く、なんだろう、黙っていればこの学校のマスコットキャラといわれても不思議ではない。 
 それでも、やはり顔だけ見ると超絶美少女といえるだろう。吸い込まれそうな大きな瞳。

「さっきから何をジロジロと見てやがるんですか。懲罰房にぶちこみますよ」
 酷い。
 彼女は水無月沙織。前にも言ったが、風紀委員長を務めている。
 見た目に反して、生徒からは恐怖の対象とされており、『鬼の風紀委員長』だの『教師の最終兵器(ファイナルウェポン)』などと影で呼ばれている。

「何考えてるか、少し分かる気がしますよ。懲罰房です」
「いやおかしいでしょ!」