ダーク・ファンタジー小説

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.57 )
日時: 2016/07/09 00:48
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日AM8:20 同所 point:楠炎真

「んで、何の用なんですか先輩」
 懲罰房だ、と未だにふんぞり返っている最終兵器(ファイナルウェポン)に対して、俺は恐る恐る尋ねる。
 だが、返ってきた言葉は——

「いや、特に用はねーです」

 ふざけてんのか。
 とは言えず、俺は唖然としたまま動けずにいた。
「じゃ、じゃあなんで翔太に?」
「清く正しくない男子がいると言っただけですが」
 うわそれ、翔太にも清く正しくない男子だと思われてるってことか!?
 ばっ、と翔太を見ると、彼はうずくまりながら笑いを堪えているように見えた。

「あ、風紀委員になれば清く正しくなれますよ」
 前にも言ったが、あの一件以来、先輩は俺を風紀委員に勧誘してくるようになった。先輩曰く、
「あんたさんなら、ウチの後継にふさわしいと思うんですけどね」
 ちなみに、風紀委員のメンツからは恨まれているらしい。濡れ衣だ。

「先輩、俺は清く正しい男子ですので入る必要はないかと」
「……さいですか。じゃあ、ウチの裸体を見たことでも言いふらしましょーかね」
「あ、ちょっ、それはやめっ!!」
 小さな最終兵器(ファイナルウェポン)は、俺を殺すための魔法の言葉を携えて、スキップしながら教室から離れていった。

「せんぱぁぁぁぁい! カムバァァァァック!!」

 今日は一日、ビクビクしながら過ごさなきゃならないようである。

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.58 )
日時: 2016/07/09 02:24
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 ????年?月?日時刻不明 ??? point:????

 正義。
 よく聞く言葉だが、では正義とは一体何なのだろうか。
 『正義の味方』を軸に考えてみよう。
 『正義の味方』……まあ、戦隊ヒーローや何とかライダーなどを思い浮かべてくれればいい。彼らは私たちにとっての正義であることは間違いないだろう。

 ならば、悪者たちにとってみれば?

 さて、ここで考えなければならない。通常、悪者にとってヒーローは『邪魔者』という存在だと解される。
 だが、『正義』の反対は『悪』。つまり、悪者にとってのヒーローは『悪』の存在であるはずなのだ。
 ではなぜ、『邪魔者』だと解されるのか。答えは1つ。矛盾が生じるからだ。
 そう、『悪』者にとってのヒーローは『悪』。ここで2つの『悪』が存在してしまうわけだ。矛盾があるということは、前提が間違っているということ。
 間違っている前提は?

 それは、『悪』者という前提。これがおかしいのだ。
 ここで先ほどまでの悪者を、正義の味方と言い換えてみよう。そうすれば、正義の味方にとってヒーローは『悪』である——矛盾は消えた。
 矛盾が消えたということは、そこに間違いはないということ。

 だが、違和感を感じないか?

 ここで出てきた正義の味方は、一体誰にとっての正義の味方なのだろう。
 もう分かったかな? そう、他でもない悪者たちだ。
 私たちにとってのヒーローは『正義』であり、悪者にとってのヒーローは『悪』である。ここで矛盾が生じるのは、すべてを私たちの目線から語っているからである。

 つまり、何が言いたいのかというと。
 この世に『悪』など存在しないということだ。
 もちろん、『正義』の反対は『悪』なのだがそれは語句的な意味であり、考えなくてもいいだろう。今論じているのはもっと踏み込んだ領域——人の心なのだから。

 要は、マイノリティーかマジョリティーかの問題なのだ。
 マイノリティーが『悪』でマジョリティーが『正義』。それが今の社会の構造である。
 だが、だからと言ってマイノリティーが本当に『悪』なのだろうか。

 いや、逆を考えてみたほうが早いか?
 つまり。
 マジョリティーが本当に『正義』なのだろうか。

 答えは、イエスだ。
 厳密に言えば、マジョリティーもマイノリティーも『正義』なのだ。先ほどのヒーローの例と同じだ。
 そう、視点を変えればすべてが『正義』。

 すべてが、『正義』。
 『正義』と『正義』がぶつかりあい、争いが起こる。逆に言えば、争いの中に『悪』などないのだ。

 君が『正義』だと思ってした行為でも、別の人間の視点からは『悪』だと思われているだろう。
 この例を先に出せばよかったと少し後悔している。

 さあ、答えてくれ。
 君は、自分が『正義』だと胸を張って言えるかい?

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.59 )
日時: 2016/07/11 07:29
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日AM8:30 同所 point:楠炎真

 クラスメートがほぼ全員集まった。ほぼ……というからには来てない奴がいる。それは紅崎だ。まあ、遅刻なんて誰でもするだろう。
「お、先生来たぞ」
 そう誰かが言うと、さっきまでワイワイ言ってた教室内が急に静かになる。

 そして、件の先生が入ってきた。
 凛とした顔立ちの女性。恐らく腰まであるであろう黒髪をポニーテールでまとめていて、前髪は左が長く、右が短いという奇抜な形だ。紅崎と違って両目をきちんと出している。
 彼女こそ4年4組の担任、藤谷美恵子(ふじたにみえこ)である。自称25歳。黒のレディーススーツを身に纏い——まったく、色気の無い。折角の美人アンド巨乳なのに。

 ってこれ、前にも言った気がするぞ。デジャヴ?
「ほいほい、HR始めるよー」
 相変わらず口調が残念だ。
「なんだみんな、元気なさそうだな」
 あるかそんなもん。

 さて、そこの君に問いたい。今日は何月何日だ? そう、12月23日——祝日であるっ!!
 そう、祝日登校……学生へのいじめだ。オーボーだ!
「今日は休日登校ね。まあ、だからといって何か特別なことがあるわけじゃないんだけど。さ、今日も1日頑張ろう!」

 あちこちからため息が聞こえる。
「ほーら、ため息吐かない。私だって給料出なかったら祝日に学校なんて来ないわよ」
 俺らはその給料すら出ないんだよ!

「まあ、今日が終われば明日はクリスマスイヴ。どーせ男女でイチャつくんだから我慢しなさい。明日も学校だけどね!!」
 止めてくれ、恋人いない勢(俺含む)がすんげぇ顔で睨んでるぞ。
「んじゃ、頑張ってねー」

 そう言いながら、藤谷先生はウインクしながら教室を出て行った。
 これが朝礼だってんだからあの教師はふざけてる。
 クラスメートたちは各々自由に動き出し、自由に愚痴を言ったりしている。

「はあ、1限は何だ……げっ、数学かよ」
 俺は席を立ち、廊下にあるロッカーに教材を取りに行く。

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.60 )
日時: 2016/07/12 16:51
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日AM9:32 同所 point:楠炎真

 地獄の数学を乗り越えた俺は、机に突っ伏していた。
「つ、疲れた」
 それは翔太も同じらしく、彼も机に突っ伏して目を瞑っている。
 俺も寝ようかと思ったとき、教室のドアが開いた。入ってきたのは、遅刻してきた少女——紅崎凍子(べにざきとうこ)である。

 相変わらず『異質』を体現したかのような雰囲気を醸し出しているが、俺は紅崎の家に行って話したこともあってか、特に気にならなかった。
 いつもどおり、長い髪を後ろで1つにまとめ、その束を肩にかけて前に垂らしている。長い前髪によって隠れた右目はやはり見えないが、髪をかき上げている左側からは、綺麗な赤目が見える。

「紅崎、おはよう」
「おはよう、楠君」
 彼女は微笑みながら挨拶を返してくれた。その光景が信じられないのか、翔太がこっちをじっと見つめている。

「なんで遅刻したんだ?」
「バスに乗り遅れて、ね」
 うちの学校には遠くから通う生徒のためにスクールバスがある。だが、乗り遅れると次の便は無く、ローカルバスを使わなければならなくなる。それが嫌で俺はバイクの免許を取ったのだ。

「……楠君」
「どうした?」
 紅崎が真剣な顔で耳打ちしてくる。正直、嬉しい。
「昼休み……ううん、放課後、時間ある?」
「ん、ああ。何か用か」
「大事なこと。貴方にしか、言えない事よ」

 告白ですか。
 遂に俺にも春が来ましたか。
「あ、告白とかじゃないから」
 お前も先輩と同種の人間かよ。


「——もっと、重要な話」


 紅崎の声色は、暗かった。

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.61 )
日時: 2016/07/16 00:53
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日PM12:35 同所 point:楠炎真

 学生にとっての楽園(エデン)——そう、昼休みの時間だ。
「午前中はハードだったなー」
 秀が愚痴をこぼしながら弁当を持って俺の席へと近づいてくる。嘘つけ、お前寝てただろ。
 俺はいつも秀と翔太、そして未来と一緒に昼食をとる。何故かと言われても答えられる自信はない。なんとなく、かな。

「駄目だよ赤井、あれでハードとか言ってたら」
 翔太も俺の席へと歩いてくる。
「えー、でもきつかったぜ?」
「あんな体勢で寝てたからだよ……」
 どんな体勢だったかは、想像に任せよう。あれは酷かった。

 こんな感じの話をしながら、各々飯を食べ始める。俺と秀は母親に弁当を作ってもらうのだが、翔太は自分で作っている。それでこの完成度だ。いい嫁になるぞ。
「楠、なんか変なこと考えてない?」
「翔太、結婚してくれ」
「僕の親友がまさかのアッチ系だった!?」

 盛り上がる俺たちのところに、未来が申し訳無さそうに近づいてくる。
 赤木未来(あかぎみらい)。俺の幼馴染で、気の弱い女の子。身長が高く、髪は茶色と黒の混じったショートカット。特徴的なタレ目も合わさり、非常にボーイッシュな見た目をしている。

「炎真、楽しそうだね……」
「ん、いつも通りだろ」
「……ふふっ、一緒に、いい?」
「ああ、つか断り入れなくてもいいって。俺らは気にしないし」
「ありがとう」

 未来は座るなり、小さな弁当箱のふたを開けて食事を始める。
 俺は、その姿を数秒間見つめていた。俺は未来のことが好きなのだろうか。いや、嫌いではないはずだ。でも、何かが引っかかる。そう……何かが。
 俺の小学校の頃の記憶の違和感。あれが影響しているのだろうか。

「そういえば、ウチの学校には飛び級で入学した人がいるらしいね」
 実は、5年ほど前から試験的に飛び級制度が実施されている。まだ普遍化とはいかないものの、いい感じらしい。
 そんな話を翔太がしてくるとは。

「水無月先輩だったりしてな!」
 秀が茶化すように言う。
「でも、強ち間違いじゃないかもしれないな」
 だって、と俺は続ける。
「見た目が中学生みたいな高3なんて、信じられないもんな」

 まあ、違うとは思うが。
「あ……ああああ!!」
 ふと目を移すと、翔太が教室の入り口を指差して震えていた。秀は何故か弁当箱で顔を守っている。そして未来は、悲哀の眼差しで俺を見ている。

「どうしたんだよ、3人とも」
 ヘラヘラ笑いつつ教室の入り口を見ると——


「覚悟はよろしーですね、このスカポンタン」