ダーク・ファンタジー小説

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.63 )
日時: 2016/07/16 18:35
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日PM5:21 不知火中等教育学校裏庭 point:楠炎真

 グラウンドから部活生たちの声が聞こえてくる。
 ここに来ると、文化祭のときのことを思い出す。本当に、今考えると俺も無茶したよな。
 なぜ俺がここに来たのかというと紅崎に呼び出されたからだ。

 ——もっと、重要な話。

 告白なんかよりも重要な話とは何なのだろうか。
「まさか、いかつい人が出てきて拉致されるんじゃ……」
「そんなわけないでしょ」
 後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはため息を吐きながら近づいてくる紅崎がいた。

「単刀直入に聞くわ」
 近すぎず遠すぎず。友達同士が話すような距離まで近づき、紅崎はゆっくりと言葉を継ぐ。
「最近、ううん今までに変な『違和感』を感じたことは無い?」

 違和感。
 無いと言えば嘘になるだろう。だが、あれはそこまで気にするものでもないはずだ。 
 小学校の頃の記憶なんか曖昧で当然。寧ろ、はっきり覚えてるほうが違和感を感じるだろう。

「無いわけじゃないけど、多分、大したことじゃないと思うぞ」
「いいえ」
「紅崎?」
「貴方の記憶が『鍵』。その『違和感』に対して妥協しないで」
「……一体、何なんだよ。紅崎、何かおかしいぞ」

 紅崎は少し悲しそうな表情をしていた。そして、深く息を吐き、彼女は肌と肌が触れそうな距離まで近づき、綺麗な顔を俺の顔にズイッ、と寄せてきた。
「私の目を見て」
「お、おい紅崎!?」

 俺の心臓が跳ね上がる。バクバクと大きな鼓動を打つ。
 だが、紅崎は真剣な眼差しで俺を見ていた。その赤い瞳で。
「見て」
 そう言うと、紅崎は垂らしている右側の前髪をかきあげ、普段は隠している右目を見せた。

 右目の色は左目と同じく赤色。だが、透き通るような赤の左と比べて、右は暗かった。オッドアイ……なのだろうか。
「何か、感じる?」
 正直、色々な感情が湧いてきてるわけだが、恐らく紅崎が聞きたいのはそんなことではないだろう。

「いや……何も」
「そう……やはり、私が……」
 かきあげている手を離し、紅崎は再び右目を隠す。同時に、近づけていた顔も離した。
「な、何だったんだ一体?」

「明日、とても良くないことが起こるわ」

 少しの間ぶつぶつと何かを呟いていた紅崎は、突然こちらを向いて、低いトーンで告げた。
「は?」
「私の右目は少し特別なの。具体的には——」

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.64 )
日時: 2016/07/16 18:53
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日同時刻 同所 point:楠炎真

「私の右目は少し特別なの。具体的には——」

 そこまで言って、紅崎は改めて背筋を伸ばした。
 紅崎の雰囲気が一変する。暗く、冷たい。普段の人を寄せ付けないオーラとは違う。まるで、近づいたら殺されそうなオーラだ。
 そして、彼女はゆっくりと口を開く。

「私の右目は『死の瞬間』を見ることができるの」
「『死の瞬間』?」
「そのまんまの意味よ。見れる、といってもクラスメート以上の間柄の人間だけ」

 遂に理解が追いつかなくなった。何の話をしているのだろうか。『死の瞬間』? まるで、これからクラスメートが死ぬみたいな言い方じゃないか。
 待てよ。
 俺を呼び出したのって、重要な話って、まさか……。

「楠君、貴方は明日壁の崩落に巻き込まれて死ぬわ」

 紅崎は何て言った。俺が、死ぬ?
「おい紅崎、冗談でも言っていいことと悪いことが——」
「今は信じなくてもいいわ。でも、覚えておいて」
 冗談ではないらしい。彼女の目は真剣そのものだ。
「……明日、何が起こるんだよ」


「……『消失(ロスト)』」


「『消失』ってなんだよ。人がいなくなるってのか!?」
「強ち間違いじゃないわ。明日になれば嫌でも分かる。だから、今は私を信じて」
 意味が分からない。何が起ころうとしているんだ。一体、何が!
「私は必ず『消失』を終わらせる。そのために貴方が必要なの。だって貴方は『鍵』なのだから」

「訳が分からない。紅崎、お前は一体何を伝えたいんだよ!」
「……じゃあ、また明日」
 そう言うと、紅崎は踵を返した。そしてそのまま俺から離れていく。
「おい待てよ紅崎!」
 呼びかけるが、彼女は振り向かない。

 沈みかけの夕日が彼女の姿を照らす。俺はそんな彼女を追いかけることが出来なかった。
 ——私を信じて。
 その言葉だけが頭から離れない。明日、一体何が起こるんだ。

 俺は数分その場に立ち尽くしていた。立ち尽くしているしかなかった。

Re: 【序章完結】Lost School【本編始動】 ( No.65 )
日時: 2016/07/17 00:35
名前: ロスト (ID: wJ5a6rJS)

 同日時刻不明 某所 point:????

 明日は待ちに待ったクリスマスイヴ。本来祝うべきは25日なのだが、2日も特別な気分を味わえるのだ、お得だろう。
 この行事には勝者と敗者がいるらしい。その基準は恋人の有無のようだ。それに準じるかたちだと、私は敗者である。
 だが、だからと言って特に恋人がほしいとは思わない——否、思えない。

 私は、場合によっては明日、死ぬことになるかもしれないからだ。
 クリスマスイヴ。4年前のその日は絶対に忘れることが出来ない。あの日を境に、私の人生は変わってしまった。無論、悪い方向に。
 4年前の12月24日に、私の大切な人が死んだ。誰にも認識されず、その存在すら無かったことにされて。

 いじめではない。そんな軽い話ではない。彼女が所属していたクラス、それ自体が最初から無かったことになっているのだ。もちろん、クラスメートも全員。
 死者、と表現していいのか分からない。そもそもこの世に存在しないことになっているのだから。

 故に、私は彼女たちを『消失者(しょうしつしゃ)』と呼んでいる。そして、この現象を『消失(ロスト)』と呼ぶ。
 『消失者』の人数は30人。それだけの人数が消えたのに、気づいているのは世界中で私だけ。

 なんの因果か、あれから4年経った今、私は彼女が当時所属していたクラスに所属している。
 いや、因果ではなく運命なのかもしれない。
 なんにせよ、『消失』を止められるのは私だけだ。

 『消失』は4年に一度起こるらしい。そして、さっきも言ったが今年は前回の『消失』から4年後である。つまり——
 私は真実を突き止めなければならない。
 既に、『鍵』は見つけている。そう、『彼』だ。彼の記憶は改ざんされている。彼がそれに気づければ、『消失』の真実にたどり着ける……そう確信している。

 私の能力、これも『鍵』だろう。恐らく、これまでの『消失』の中で事前にこれだけの情報が揃っていることは無かったはずだ。
 

 ——4年4組の『消失』は、私が終わらせる。