ダーク・ファンタジー小説
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【暴力表現有】 ( No.10 )
- 日時: 2016/01/04 21:21
- 名前: 吉田 網張 (ID: jV4BqHMK)
教会の中の一室にて、三人はパスタを頬張っていた。ホワイトソースにマッシュルーム、それにホウレンソウも入っていて、彩りも良い。住み込みのシスターのお手製である。
司祭の名前は法華 薫[ホウカ カオル]。異国人のような容姿だが、生まれも育ちも日本である。
「旨いっスねぇ、これ。手作りとは思えねぇ」
「……なーんか思い出してきた、お前らのこと」
身体が大きければ食べる量も人一倍の二人。皿からはみるみる打ちにパスタが減っていく。
早綾は女性にしては高めの身長を持っているが、少食である。というか、元々人形に食事はほとんど必要ない。フォークに巻いて、少しずつ口に運ぶ。
「まぁこんなアホな三十路他にいないだろうしね。いたら困る」
「はっ、言うねぇ嬢ちゃん。まぁ確かにそれも一因かもな、でも俺が覚えてんのは、その傷だよ」
「……これっスか」
赤い傷を見つめながら、薫は自分の右頬を撫でた。それにつられるように、竜門も頬に手をあて、口の方にのびる傷をなぞる。
「……俺は今、この瞬間に興味あるものしか覚えられねぇ」
薫は、一瞬竜門と目線を合わせた。そして、残っていた一口を食べ終わり、用済みとなったフォークを弄ぶ。くるくると回るその先端に焦点を合わせたまま、話を続けた。
「親父にもシスターたちにも言われる短所だ。ちなみに直す気はさらさらない……よってお前らのことも曖昧だ。確かに見覚えはある、が……名前なんてクソ程も覚えてねぇ。嬢ちゃんに関しては人形で、なんの因果が明里と契約したラッキーガールっつーことくらいしか知らん」
「……私は全然幸運なんかじゃないと思うけどね」
まぁ聞けって、と薫は笑みを浮かべる。竜門とは違う、闇を含んだ笑みを。
「……でもソイツに関しては、1つ分かるな」
薫が投げたフォークが空中でくるりと回転した。それを再び掴んで、先端を向かい合った竜門に__竜門の頬に向ける。
「それは明里にやられた傷だ」
竜門は薫の浮かべた黒い笑みに相対するような爽やかな笑顔を浮かべたまま、いつもと変わらぬ調子で言った。
「……覚えてないっスねぇ。俺も今に生きる男なんで?」
それを聞いた早綾は、飽きれ顔を浮かべて呟く。
「……あれを本気で忘れてるんだとしたら、正真正銘の馬鹿だな」
司祭はただ、あぁそうと笑って、フォークを皿に置いた。
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