ダーク・ファンタジー小説
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照100thanks!!】 ( No.21 )
- 日時: 2016/01/14 19:46
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
「いや、私が勝手に時間決めた……なんかごめん。あの、掃除屋……って言ってた。名前……覚えてない」
早綾がそういうと、明里は一瞬眉間に皺をよせて考えた後、あぁ、と言って、腕を組み唸った。これは彼が考える時の癖だ。自分でも知らずのうちに声が出ているようで、早綾はよく、うるさいと言って注意していた。
「掃除屋、神越なぁ。アイツ、人形やねん。能力がなぁ……ええんや。使える思っとってなぁ。まぁ、また電話して、急用やから済むまで待っとき言えばええやろ。予定ついたらまた電話しますーってな。」
「そうするか……って、そこまで聞き出したの? 流石組長様、権力あるね」
「聞いたとちゃうわ、調べたんや。自分人形ですて、他人の俺にすんなり言うと思うか? それこそお前の方が分かっとるやろ」
早綾は調べる方がとんでもないことだと思うけどな、と感じたが、口には出さなかった。言ってもどうせ俺の組の情報収集能力舐めんなよ、とか言われるに決まっていると、早綾は思っている。
「……じゃあ会った時に口滑らせないようにしてよ。アンタの口は災いしか生まないから」
「あぁ、わかっとる。まずアイツの口から聞き出すわ。組の仲間やから、隠し事は無しや言うてな」
明里はいつもと変わらぬ鋭い瞳をギラつかせた悪どい表情でそう言って、スッと立ち上がった。
「さて、いくら竜門でも待たせ過ぎるのは可哀想やし、早よ行くで」
そうだね、と短く返事をして、早綾も立つ。大きく背伸びをしながら、今回の決して楽しくはないであろう旅のことを思った。また、あれを見ることになるんだろうか。
「誰のモンに手ぇつけとるんや、殺てこますぞ、クズが」
出会ったあの時、彼のギンと突き刺さるような目を見て、早綾は獲物にされた逃げ場のない動物の気持ちを知った気がした。
どこから生まれるのかもわからない人形は、どの個体もそれぞれ、25歳までという期限の中で見つけなければならない、『探し物』がある。
彼女の『探し物』は、関東を総括する極道、夜宮組組長に代々引き継がれてきた妖刀、名を『彼岸花』。
現在の所有者である明里が、赤蜘蛛と呼ばれる由来の1つでもある、血を吸って、肉を、骨を削ることでなお輝く刀。
彼岸花、英名『レッドスパイダーリリー』。
「これが欲しいんなら、俺の力になれ。報酬には、それなりの対価が必要なん、分かるやろ? なぁ、人形。」
早綾はその明里を見て、命を左右される場面にも関わらず、彼岸花だなんて、彼にピッタリだなと思った。赤を散らす様子を隠さずさらけだし、毒を内に秘めている姿も。轟と燃え続けているように見えながらも、過去に縛られ続ける姿も。
その日から見てきた、彼が刀を抜く姿。血を浴びせるに相応しいと思った相手に見せる、赤い蜘蛛の獲物を狩る姿。
「……」
背を丸め、ポケットに手を突っ込んで自分の前を歩いている明里の背中を、早綾は追いながら見つめる。
「……なんも変わっちゃいないよね、ミョーリは」
「ぁあ?」
わけが分からない、というようにこちらをいぶかしげに睨む明里に、なんでもないよ、と一言、早綾は苦笑いを浮かべて言った。