ダーク・ファンタジー小説

Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照100thanks!!】 ( No.23 )
日時: 2016/01/18 22:32
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

 東道 幸[ヒガシミチ サチ]は、平平凡凡な一般人だった。少なくとも中学生のときまでは。
 幸なんていう名前だが男。黒髪ストレートのショートカット。所属はバスケ部。ノリが良くて友人も多い。そんな彼は、高校に行っても、こんな普通の日々が続くんだろうな、と意識せずとも思っていたし、それが良いと思っていた。決して……決して自らヤクザなんかになって、鉄砲玉としてその命を棄てたも同然に無駄にした兄のようにはなりたくなかった。

 __そんな彼の『普通』をいとも簡単に壊したのは、学校一……いや、地域一の不良、『盾島の狂犬』こと南舘と、『狂犬の鎖』、北町だった。それは、高校1年になり、やっと学校に慣れ始めた頃。

「なぁー、トウドウー」
「トウドウちゃうわッ! ヒガシミチや! 訓読み出来ひんの、か……ア、ホ……」
 『トウドウ』。初対面には80%の確率で間違われ、その後もネタとして使われてきた、名字間違い。いつものように悪ふざけしたクラスメイトだと思って、いい加減そのネタやめろや、と、呆れ半分怒り半分で叫びながら振り返ったのだが、そこに居たのは、絶対に関わりたくない人物だった。

「あーらら、怒られてもうたわ。威勢のええやっちゃなぁ」
「お前がわざと名前間違えたんが悪いんやないか、怒られるん、分かってるやろ」
「え、え、アンタら……」

 まるで漫才コンビのような抜群の掛け合いで言葉を返して来た二人組……その瞬間、東道は、『終わった』という言葉を頭に浮かべることしかできなかった。

「なんでこうなったんやろ……俺の人生……」
「はは、まだ早いわー、お前高2やでー」
 東道は教室の机で小学校からの友人と昼飯を食べていた。周りの喧騒とは違って、彼はどんよりと、『お先真っ暗』オーラを漂わせていた。
「ねーえー東道ちゃーん」
「とうど……じゃないやー、東道ー」
 ふいに廊下から聞こえたやけに明るい声と、よく通れるバリトンボイス。東道はその声を聞いて、側にいたら此方まで不幸になりそうなそのオーラを増大させた。
「来たで……俺の人生を狂わせる悪魔共が来たで……」
「あ、じゃあ俺らはお邪魔だろうから……」
「いや、ちょ、待てや、行くな!」
 友情とは一体なんなんだろう。薄情の間違いか。ヤンキー2人に絡まれる俺を救わないなんて、お前ら友人なんて呼んでやらないぞ……そんな風に悪態づきながら、東道は、無駄と分かっていながら、その声を無視した。