ダーク・ファンタジー小説
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照100thanks!!】 ( No.25 )
- 日時: 2016/01/24 13:13
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
昼休みも終わりそうなころ、次に体育のあるクラスが玄関から出ているのに紛れて、2人は堂々と、1人は見つかりはしないかとおどおどしながら、学校を抜け出した。
「俺、何しとんのやろ……」
「何ぶつぶついうとるん、とう……東道。はよいくで」
「北町、いい加減おもろないわ、それ……」
車の前までかけてくると、7人乗りの大きな車の中には、運転席に乗っている男1人のみが居た。
「はい、遅れてすんまへん」
「久しぶりです、酒浸[サカヅキ]はん」
「ええって、ええ。気にせんといて坊っちゃん。はい久しぶり、北町くん。それに……」
車に乗り込む2人に次々と挨拶を交わす、がたいの良いその男の言葉が止まった。どうしたら良いかわからずにたちすくむ東道と目をあわせると、首をかしげた。
「えぇと……君は誰やったかいな? 最近物忘れが酷うてたまらんわ。僕ももう年やさかい、堪忍ねぇ」
「酒浸はん、こいつ、はじめましてやで。俺の友達なんですわ、東道。とうどう言うと怒ります」
南舘の紹介に、あわてて東道は頭を下げた。
「あ、おっ、俺、東道 幸言いますっ」
「はは、そんな気張らんでええよ。これからも坊っちゃんをよろしゅう頼んますわ。ほら、乗りぃ」
「はい……!」
ここにきて東道は、やっと常識人に会えた……!と、少し安堵した。極道の人間が常識人だと思うとは、東道自身もどこか頭のネジが外れかけているかもしれないと思ったが、恐怖しかないこの南舘家お宅訪問で、まともに会話ができる人に会えて、東道は心底安心したのだ。
その車のバックシートに、三人並んで乗り込むと、酒浸が手元を操作して、ドアを閉めた。
「ほな、出発します。ちゃんとシートベルトつけてぇな」
まるでタクシーのように、揺れもなく車は出発した。
「……あぁ、僕、酒浸 雨鶴[サカヅキ ウツル]言います。東馬組の幹部やねんけど、アホやさかい、普段は運転係兼坊っちゃんの用心棒しとります。よろしゅくね、東道くん」
「は、はぃ、よろしくお願いします」
「もうっ、酒浸はん、坊っちゃんなんてやめてぇや、恥ずかしいやろ。これでも『盾島の狂犬』で通ってるんよ? 東道に馬鹿にされるわぁ」
「いや、せぇへんけど」
「俺『鎖』て酷ないですか? 物体ですやん。格好わるー」
「充分かっこええよ。僕、そういうの無いもん。東道くんはあらへんの? こう……通り名?」
会話を傍観していたところに突然振られた話題に、東道はしどろもどろになった。
「え、えぇ!? あと、俺は一般市民というか……最近までそういうん関わらんで生きて来たいうか……」
東道のその返答に、丁度赤信号で停車していた酒浸が、驚いたように振り返った。
「あれ、東道くん、こっち側やないの? 堅気なん?」
『こっち側』とは、時々南舘と北町に因縁深げに絡んでいる、いわゆる不良という人間のことだろう。違う!俺は一般人です!と東道は声を大に訴えたかったが、そんなことできるわけもなかった。
「いや、違いますよ……俺、ただの一般市民です」
そう言うと、南舘が、間に挟んだ北町の膝に、体を横にして寝そべった。
「何言うとんの〜、東道ちゃんは俺に好かれた時点でもう完璧こっち側やで〜」
「や、やめろや南舘、お前みたいな大層な立場の奴に言われると、本当にそんな気がしてくるやないか」
「……うぇるかむ。歓迎するで」
「やめろ!! 北町!!」
「はは、難儀やなぁ〜」
どこかのんきな酒浸に笑われて、東道は、またため息をついた。
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