ダーク・ファンタジー小説
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照100thanks!!】 ( No.26 )
- 日時: 2016/01/30 13:05
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
「はぁあ、いつみてもデカい屋敷っスねー」
「縦にデカいビルとはわけが違うね、横にデカい、いや、広い……迷うね、ここは」
「平成やぞ……いつの時代や、古いわ」
大阪、某所にたてられた家……というよりもお屋敷。和風建築のそこは、青堂組組長の、先々代からの住居であり、拠点である。
大阪に着いたのは昨日の午前。東京からずっと運転してきたものの、1日休んだだけで長旅の疲れはすっかり吹っ飛んだ竜門は、その屋敷を見て、思わず感嘆の声をあげた。
「……親父さん、行くっていったら、何て?」
「なんや急やなぁ、何の用事か知らへんけど、つまらんことやったらどつくで〜、まぁ久しぶりにクソ息子の顔拝んでやるわ〜……やて。どっちがクソや、ほんまに死ね」
「はは、いくつになっても変わないっスね」
青堂組組長である青堂威鮫[セイドウイサメ]と明里は、義理の親子だ。元々、人生のどん底に、奈落の底にあった明里と一騎は、威鮫がその力を見込んで拾った……青堂組に招き入れたのだ。
ただ、明里はその恩なんて感じていないし、恩返しなんてものをする気はさらさらない。
「そういえば、あの子たちはついてこなかったんだ」
そういって早綾は辺りを見渡す。彼女は今気がついたが、ここにいるのは三人だけで、戦力としてつれて来たはずの幹部たち数人の姿はなかった。
「今日はジジイに話着けるだけや。乗り込むんやないし、そんな人数いらへん」
ふーん、と早綾が返事をして、さぁ屋敷にお邪魔しますか、というところで、一台の車が、屋敷とは不釣り合いの、近代的な駐車スペースに入ってきた。
「あぁ? アイツは……」
その車の後部座席に乗った人物に、明里は足をとめた。
「あら、遅れたかもと心配やったんですけど、丁度でしたか」
車から降りた長めの黒髪を肩の前方に流したその男は、切れ長の目によく似合う銀縁のオンフレーム眼鏡をかけたその顔に仄かに笑みを浮かべて、軽く会釈をした。
「おっ、酒浸! ……さん!」
酒浸にいち早く反応したのは竜門だった。会釈に反射的に手をあげ、驚いた早綾に肘でどつかれたが、気にせずに歩みよる。
「ぉお、櫻田。もぉ、タメなんやから、敬語はいらんいうたやない? こっちだけ敬語やないのも、なんか居心地悪いやん?」
「え……っ」
酒浸の『竜門と同い年』発言に、早綾は、驚きを隠しきれずに小さく声をあげた。
「あっ、そういえばそうだったかー、ごめんごめん……って、早綾さん、見えないッスか? 同い年。」
「櫻田はまだまだ若いですからね。僕はもうおじさんやし」
「いや、なんというか、リューモンはまだアホな大学生みたいじゃん。なんか、大人だなー……」
早綾はやけに神妙な面持ちで、口元に手を当てて言った。
「えっ、マジすか? 俺そんなに若いッスかね? 照れるー」
「櫻田、褒められてへん。褒められてへんでー。……はい、坊っちゃん、到着です」
話をしながらも、酒浸は仕事をスムーズにこなす。車のドアを開けて、南舘たちを外に促した。
「行くんかー……ガチで行くんかー……っ」
「はいはい、東道ちゃん、はよ行くでー」
「! やっぱ宴か!」
ずっと凝視していた人物が、その声を聞いたことで、思い浮かんでいた人物と合致して、明里は声をあげた。
「? あ! 師匠! えらい久しぶりやなぁ〜……!」
無邪気に満面の笑みを称えて、2人より早く下車した南舘は、明里に向かってぶんぶんと手を振った。
「「師匠……?」」
竜門と早綾は、きょとんとして、顔を見合わせる。
「はよ見ぃ東道、北町! 俺の師匠やで!」
「は? 師匠? 北ま……寝てるんかいっ」
明里は普段あまりみせない、明るい笑みを浮かべた。裏を含んだ意地悪い笑みでも、血に染まった凄惨な笑みでもない。それを見て、2人は更に困惑する。
「こいつ、そうとう腕たつで」
明里はぴょんぴょんと跳ねるように近寄ってきた南舘の肩を、ズボンのポケットから手を片方だしてつかんだ。
「いやぁ〜、夜宮組が来るゆうから来たんやけど、まさか師匠が来るとはなぁ……! やて、組長がわざわざ来てくれはるとは思わんやん?」
明里と南舘、師弟関係の2人は、こうして、実に6年ぶりの再会をした。
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