ダーク・ファンタジー小説

Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照200thanks!!】 ( No.28 )
日時: 2016/02/08 17:15
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「黙れ、クソジジイ。どつくぞ」
「はっ、殺れるもんならやってみぃ」
 一般人ではなくても縮み上がりそうな眼光をものともせず、威鮫にも負けない、意思の強いギラつく目で一睨みしてから、明里は馴れた手つきで刀を鞘に戻した。
 広い和室に、一瞬の静寂が訪れる。

「……っ」
 なんなんだ、なんなんだよこの空間……!南舘を見てるから誤解してただけで、やっぱ暴力団でとんでもねぇ集団じゃねーか!!……どうして良いかわからず、東道は心の中で、恐怖を叫びに変えてぶつける。こんなところ、あいつを振りきってでも来なけりゃ良かった……と、今更すぎる後悔をするも、誰も彼を救い出してくれる人など居るわけがない。ただ一人、東道は正座している脚を、汗の滲む手でぎゅっと握りしめた。

「うっす、親父さん」

 永遠に続くとも思われた沈黙が破られる。
 いつもの授業中のように、だらしなく肘を曲げて手を挙げ、気が抜けた声で言ったのは、長年の付き合いでもある南舘でも、並外れた洞察力をもつ威鮫でも行動が読めない男、北町だった。
「なんや、真治」
「あのー、なんとなく予想ついたんですケド。俺たちを呼んだのって、このなんかようわからへんお兄ちゃんについてけっちゅうことやないですか?」
「北町ィッ!?」
 北町のとんでもない発言を聞いて、東道は思わず声をあげてしまった。そして、一秒もたたないうちに、しまった、と思う。いままでできるだけ目立たないようにしようと、必死に空気を演じていたのに、北町の『よくわからへんお兄ちゃん』という失礼すぎる呼称に、思わず声を荒げてしまった。
「……ようわからへんて、俺のことか?」
 明里は顔をしかめて、北町の方をみる。その表情は怒っているというよりかは、何が何だかわからない、といった類いのものだが、明里は元来目付きも悪いし、先程のイメージもあって、東道に更なる恐怖を植え付けた。
「あ、そうですそうです」
 度胸があるのか、それとも鈍感過ぎるのか……北町は笑顔で南舘を指差しながら言った。
「ぁっ、あの、コイツちょーっと変わっとる言いますか……」
 声を発してしまい今更引き下がれない東道は、聞こえたかすら微妙な程のか細い震える声で言った。
「……ジジイ、こいつら誰や」
 東道の言葉は聞こえなかったのか、それとも返事をしなかったのか……ともかく、明里の視線が威鮫に向かい、一安心した東道だったが、すぐにまた、ピシッ心臓が凍り付くような思いを味わうことになった。自分は南舘に連れられて来ただけで。この場にいるこの屋敷の主も……自分のことは知らないのだ。だから勿論、
「ぁあ? あー……こっちの金髪んは北町いうて、うちの宴の相棒や。……かたっぽは俺も知らん」
……こういうことに、なってしまうのだ。
 自己紹介をする度胸なんてあるわけがない東道は、この場全員の注目をあつめながら、普段は悪魔のように忌み嫌いながらも、今は唯一の救いである北町と南舘の方へ、ゆっくりと、すがるように視線を向けた。