ダーク・ファンタジー小説

Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照200thanks!!】 ( No.30 )
日時: 2016/03/03 18:47
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「……まぁそう気張るなや。楽にせい」
「はっ、はい……」
 そういわれてもな、と、東道は口元を愛想笑いで歪める。
 明里たち一行は部屋から去り、いささか威圧感はなくなったが、自分達だけになり、更に自分にただならぬ用事があるとしって、安心などできない緊迫した状況を、東道は肌で感じていた。
 方膝を立てて堂々と構える威鮫の前に、正座する東道と南舘。猫背に胡座という、言われた通り楽な姿勢をとる北町。東道は北町の神経を疑うも、威鮫が彼はこういう奴なのだと知っていることに気がつき、少しだけ安堵する。同時に、自分があそこで無駄に声を出すことはなかったのだと、後悔もした。
「……で、ソイツが四人目の『番犬』候補やいうことか」
「せや、東道 幸くん。俺が思うに、磨けばえらい光る思うで」
「はぁ……」
 南舘が笑顔で言ったその言葉に、威鮫は頭を掻いて苦笑した。身に纏う着物が揺れ、胸元の派手な刺青が覗いた。
「宴……ふざけとるやろ」
「何で? 俺、真面目も真面目ですよ?」
「やてなぁ……」
 そう呟いて、威鮫は目の前の三人を順番に指差していく。
「南舘、東道、北町……それに、西山……どう考えても実力関係なし、名前で選らんどるやろ」
「あ、バレた?」
 理解し難い話題がどんどん進み、頭にハテナばかりが浮かんでいた東道だが、それを聞いて、そういえば、と思い至る。東西南北。西山というのは知らないが……方角が揃っている。そんなふざけた理由で俺の日常は崩されたのか……?と、自分の運命と、元から好きではない名字を呪う。
「……まぁ、おもろい思うたんはほんまなんやけど……名字だけやないから、安心してください」
「元から目ぇつけとったんですよねぇ、あ、こいつこっち側の目しとるなーって。いや、むしろ最初堅気やない思いましたよ」
「え……? え……?」
 二人のいつになく楽しそうな、爛々とした目に、間に挟まれた東道はただオロオロと狼狽する。

 何を言っているのかわからない。目をつけてた?堅気やない?『普通じゃない』?そんなアホなこと、あってたまるか。俺はクラスメイトたちと何も変わらない、一般人だ。普通なんだ。

「な、何かの間違いやろ……?」
「俺らはなーんも間違ってないで、東道ちゃん」
「もうな、確信しとんのや。色々調べさせてもろてん。お前のこと。お前自身のことも……兄貴のことも、それからお前が知らない両親の本当の姿もな」
 
 両親の本当の姿……?

「な、何言ってん。俺の両親? 母さんは普通の主婦で……父さん、も……」
「普通やなぁ……まぁ、特別なんは母親の方やけど」
 東道の情報をサラリと喋る南舘に、北町は続ける。
「東道ちゃん。俺らはな、いくら強い、強い……狂犬や、鎖や、獣やいわれとってもな、ただの人間には変わりないんよ。所詮人間……東道ちゃんの方が、よっぽどけうな存在なんよ」
 何を言っているのかわけが分からない。自分の脳では許容できない現実に、ただ呆然とする東道から視線を外し、やりとりをただ見ていた威鮫の方をしっかりと見つめた南舘は、真剣に言った。

「親父さん。東道は……彼は、人形と人間の間の子です……『紫電の銀烏』に続く、二人目の」

 日本の裏社会の頂にいる男、威鮫はニヤリと笑った。思わぬ収穫だ、自分の引いたカードは最高のモノだった……と。

「幸……やったか。お前はこちら側に来るんや、有無はいわせんぞ」

 唯我独尊……傲慢……子が子なら親も親か……やはり俺も息子となんらかわりないクソだな。と、威鮫は自分の言葉に再び苦笑した。

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