ダーク・ファンタジー小説

Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照300thanks!!】 ( No.31 )
日時: 2016/02/27 19:50
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「南舘……っ!!」

 北町と共に西山という人物を迎えに行くから少し待っていろ、と言われ通された一室で、南舘と二人きりになった東道は、彼の手首を強く掴み、自身の方に引き寄せた。
 自分の知らないところで勝手に話が進められていることに、そして自分達家族のことを調べられていることに憤慨した東道は、不安と混乱と怒りを、このような形でぶつけることしかできなかった。
「俺が人形との間の子……!? ふざっけんな!! 俺は、俺は……っ!」
 渾身の力を込めて南舘の手首を締め付けるが、相手は顔をしかめることもなく、ただ少し、憐れみの視線を東道に向けた。
「……東道。受け入れられんかもしれへん、信じられん方があたりまえや。でもな……事実なんやで」
「でも、俺は今まで普通に生きてきたんだぞ……!? 身体だって人間だし、人形みたいにおかしな力も何もない……!」
「俺は一人、東道以外に人形と人間の間に生まれた人を知ってる。その人は見た目は俺らと一緒や。でも、能力は持ってる。それに、契約せんでもそれを存分に使える……まぁ、良いこと尽くしやな。やから、気付いてへんだけで、東道にも能力が……」
「能力ってなんや……能力なんて、俺はいらんわ……俺が欲しいんは、ただ普通に生きることだけやねん……」
 東道は声を震わせて、涙を流した。南舘の手首を握っていた手から、力が抜けていく。そこには痛々しく赤いあとが残ったが、東道はこんな痛み比べ物にならないほど、今辛い思いをしてるんだろうと、南舘は東道の背中を擦った。
「……東道、こればかりは、諦めるしかあらへん……運命や。そうした方が、ずっとずっと楽や……」
「運命……?」
 涙で濡れた東道の瞳を真っ直ぐに見つめ、南舘は優しい声色で話し始めた。
「……俺なんかは、極道一家の生まれやろ。別に俺は嫌でもないし、この境遇を恨んだこともない……むしろ、この組の皆は家族みたいなもんだし、幸せっちゃ幸せなんや」
 黙って聞いている東道に、南舘は続けた。
「……せやけど、もし、俺がここに生まれたことを恨んだとしても、それはどうしようもないんや。いくらもがいても、足掻いても、運命からは逃げられん。諦めるしかない。それでも抵抗し続ければ、傷だらけになって、ズタズタになって……もうだーれにも救えんようになってまう。そうして行き着くは、死、とか……絶望、とか……しょうもない結末なんや」
 そう言って南舘は、いつものように、明るく微笑んでみせた。
「東道やて、そうはなりたくないやろ? 俺も、東道のこと気に入ってるから……良い奴や思うてるから、そうなってほしくないねん」
 その話を聞いて東道が思い出したのは、自分の兄だった。
 もしかしたら、兄は、自分がただの人間でないことに、気がついていたのかもしれない。
 そして、その運命に、抵抗した。
「お前……俺がどうして普通に生きたいか知って、そう言ってんねやろ……」
 そこに待っていたのは、捨て駒にされた挙げ句に死ぬという、あまりにもあっけない死だったのだ。
 南舘は素直に頷いた。
「やっぱお前……酷い奴やなぁ……」
  普通に生きることは、運命に逆らうこと。それは、自分がこうなりたくはないという路を辿っているだけ……
「はは、極道の息子やからなぁ」
 東道は、涙を拭って、決意したように、ぐっと服の裾を握りしめた。東道がが言葉にせずとも、南舘には、その思いが充分伝わった。