ダーク・ファンタジー小説

Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照300thanks!!】 ( No.34 )
日時: 2016/03/17 00:05
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「宴はまだしもなぁ、なんで俺が知らんガキのおもりせなならんねん……! そいで死んでも責任とれるわけないやろ、阿呆か!」
 携帯電話に向かって、早口で捲し立てる明里に、宴とは、さっきの明里の『弟子』を名乗る青年だったか、と、竜門は記憶を辿る。彼がどうかしたのだろうか……竜門は話の概要を掴むために、明里に少し寄った。
「力? 知るかッ! 俺には何の得にならんこと、引き受ける思うたんか、受けるわけないやろ」
 力だとか、番犬だとか、よく分からない内容もあったものの、あの青年達を秦野組を襲撃するときに連れていけ、という“命令”らしい。
「あ?! 待てや、俺はまだ返事してへんぞ! 切るなっ」
 どうやら一方的に話を決着させられたようで、明里は電話を持つ手に更に力をこめて、もはや怒鳴り声に近い大声をあげた。
「……切りやがったで……あんのクソジジイ……!」
 携帯を持つ手をわなわなと震わせる明里は、怒りが収まらないという様子で、携帯をベッドへ叩きつけた。ボスッ、という音とともに、携帯が柔らかな掛け布団に沈む。怒った明里を既に見慣れている竜門は、怯むでもなく、苦笑いで明里に問い掛けた。
「はー、これはお弟子ちゃん達、ちゃーんと守んなきゃっスねー、あれ、でもお弟子ちゃん以外堅気なんじゃ?」
「ッチ、俺に散々アホや馬鹿や言うといて、一番クソなんは自分やないか……」
 竜門の問いを完全に無視して、明里は腕を組んで一人愚痴を吐いた。それを見て、む、と顔をしかめた竜門は、明里の視線の先で、その長い腕を伸ばして手を振った。
「組長ー、聞いてないんスかー?」
 明里は、それさえも無視した。
 しかし竜門はめげずに……いや、懲りずに声をかけ続ける。

「ちょっとー」

「……竜門」

 明里は、うつ向いて、重い声色で、自分のすぐ隣に座っている竜門の名を呼んだ。呼ばれた竜門は、やっと気づいたかと、満足げな表情を浮かべた。
「何ですー?」
「……お前はほんまに空気読めん奴やな」
「ん?」
「……ったく、どいつもこいつも……」
「えーと?」
 竜門は、明里の顔をのぞきこんだ。その瞬間に、がし、と、だらしなく着ていたシャツの襟をつかまれて、思わずすっとんきょうな声をあげる。
「ぅえ??」

「お前らはどこまで俺を怒らせたら気がすむねん……ッ!!」

 刹那、掴まれた襟を引き上げられ、視界が大きく揺れる。あまりにもいきなりなことに、竜門は足をもたつかせながら、力に逆らう間もなく、強制的に立たされる。そして、襟を離されたと思ったら、間髪いれず、こんどは胸ぐらを掴まれた。

「ちょ、組長……!?」

 当然のことなのだが、190cmを越える長身の竜門の胸ぐらを、いたって平均身長の明里がつかんでみても、勿論見下げられる形になる。それさえも気に食わないようで、明里はますます怒りを露にしていく。
「俺が今怒ってるん位、いくら精神年齢小学生、ド阿呆のお前でも分かるやろ……? あぁ……? それともなんや、わざとか? 俺を怒らせとうてわざとしとるんか?」
 明里は、電話の時とはうってかわって、静かに激昂していた。雰囲気と声のトーンで、怒りのレベルは今のほうが上だということが分かる。
「そ、そんなわけないじゃないっスかぁ〜……」
 首の角度が辛いものの、視線を外すわけにもいかず、竜門は苦しげに声を絞り出した。