ダーク・ファンタジー小説
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.36 )
- 日時: 2018/05/08 22:39
- 名前: 月兎 (ID: pFXOI/OC)
第三章〜明かされた真実〜
「実はね…」
この時の私は、この学校の秘めている衝撃的な事実を知らなかった。
「この学校、元々は子供たちの教育のために建てられたものじゃなかったのよ……」
「え……それって……」
「私、ここら辺の土地勘というものはないのだけれど、昔の文献を調べたら、……………」
「?」
「ある大きな事件に巻き込まれて亡くなった大勢の人たちの霊の怨を鎮めるために建てられたそうなのよ……」
「……………」
「話すと長くなるけれど………いいかしら?」
「………はい…」
〜葉子は、巫女である桜に衝撃的な事実を聞かされることになる。果たして、この学校の秘密とは、一体何なのだろうか……〜
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.37 )
- 日時: 2018/05/08 22:46
- 名前: 月兎 (ID: pFXOI/OC)
*これから2話分(特に2話目)は、少しショッキングな内容ですので、ご注意ください。
「昔と言えば昔なのだけれど……当時の明星市というのは、とても栄えている街だったの。どこまで栄えたかというと……ちょうど今の東京ぐらいかしら……それは言い過ぎだけれど……でもね、本当にとても栄えている街だったのよ……ところが、ある日突然起こった事件のせいで一気に平穏がくずれてしまったの。まずは、その事件の事を話すわね?
「いまはない明星市立小学校にはたくさんの生徒がいたの。……………ある子が、自殺したの。入学式当時に。……原因は分からずじまいだったの……でもね?その子の遺書にはこう書いてあったの。『死にたくなった。』って。……意味が分からないでしょう?その子のお母さんも、一度もそんな話したことないって。それどころか、入学式をずっと楽しみにしていたらしいのよ……
「その事件以来、学校では自殺者が絶えなくなってしまったのよ………。……自殺した子の念が残っちゃったみたい……。ねぇあなた、“穢れ”って知ってる?“穢れ”っていうのはね?人が死んだときに出てくるモノなのよ……。よく分からないと思うかもしれないけれど……とにかくそういうことなの。
「まあ……その死に方がエグかったのよ……ふふ……最初はこの話からしましょうか……。」
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.38 )
- 日時: 2018/05/08 22:50
- 名前: 月兎 (ID: pFXOI/OC)
「当時の明星市立小学校は、木に囲まれていたの。中には朽ち果てている木もあって、とても生徒が近づける状態ではなかったの。それにね?身体が落下した所は、ちょうどコンクリートで固められたばかりだったのよ……ということはね?分かる?……散乱したの…想像したくもないわね……でもあなたにはそれを想像してほしいの……じゃないと、この学校の様々な怪奇現象の真相にたどり着けないから……
「最初にアレが落ちてるのを確認したのは、当時の小学校高学年の子だったのよ……小学校のすぐ近くに明星市立高等学校があったのだけれど、そこの生物部に解剖好きの部員がいて、その人に遺体の状態を調べてもらったの。
「遺体の状態は良好。しかし病弱。……意味が分からないわ……だって、良好な状態なんだったら、普通は病弱なわけないでしょう?……これには何か深い意味があるのだと思うわ……
「私ね、この学校についていろいろ調べたら、いろんな事が分かったの。
「まず一つ目。このすぐ近くにある宝来橋を走って渡ろうとすると、白い手が足をつかんでそのまま川に引きずり込む。
昔、戦いを恐れてこの地に逃げ込んだ兵士が川に飛び込み自殺したの。……まぁ…一説には、誰かに突き落とされたとか……
その兵士の念が、橋を走って渡る音を敵の進軍だと思って、殺そうとするらしいわ……
「次に二つ目。星空市の中にある何処かのトイレの鏡を5月6日4時2分19秒に見ると、知らない女の子が見える。そして、近いうちに不幸が襲う。
少し悲しい話なのだけれど、この街で昔、一家殺人事件が起きたの……その被害者の中に鏡が大好きだった女の子もいたの……殺される前日、女の子はずっと好きだった男の子に告白する予定だったの……ところが、彼女は殺されたわ……それと同時に、一家の財産全てが燃やされて消えてしまったの……。……鏡を除いては。何故鏡が燃やされなかったって?……違う。“燃えなかった”のよ……女の子の念が強すぎて……
その後鏡はどうなったかって?……さあ…分からないわ……女の子は、死後鏡の世界に乗り込んで、鏡と鏡を行き来するようになったの。そして、好きだった男の子を探したの。でも全然見つからなかった………と思ったら見つかったの。ところが、男の子は別の女の子と付き合っていたの。女の子はそれがどんなにショックだった事か……それ以降、鏡の前に現れた者を無差別に攻撃するようになってしまったの……。……最初はそんなつもりじゃなかったはずなのにね……。
「三つ目。明星市立小学校の北校舎に現れる目のない女の子に遭うと、目玉をくり抜かれる。
………ある女の子が事故で亡くなったの。でも、臓器は無事だったのよ。それで、遺族は目が不自由な人に臓器提供をしたの。……そこまではいいのだけれど……。……生きてたのよ…彼女。目がくり抜かれる前、意識が戻りつつあったの……。……この先は気持ちが悪すぎて私の口からは言えないわ……自分で想像してちょうだいね?
彼女は死後、回復しかけの自分を殺した医者両親を恨んだの。彼女は失ってしまった自分の目玉を取り戻すために、目玉を持っている人々を狙ってはくり抜いていったの。……ここまでにしておきましょうか……
「四つ目。………線路にある遮断機の不良によって亡くなってしまった霊が生者の身体をバラバラにする……。……知ってるでしょ?この話……。あの有名な【キリ子さん】よ……。
「…五つ目。この星空市周辺には処刑場や鳥葬する場所があった。
……………ここら一帯が死体の山になっていたのよ……当時は。だから、夜になって写真を撮ったら、たくさんのオーブが映り込むらしいのよ……それとか、声とか足音とか、誰かに腕を捕まれたりするらしいの……
「六つ目。………これが一番驚くと思うわ……
この星空市に生まれ育った者は、大人になれない。……言い換えれば、二十歳を前に死んでしまうのよ……
……信じられないかもしれないけれど……本当なのよ……
この街、どうやら随分と昔に、ある神社の神様を怒らせてしまったみたいなのよ……それ以来、神様はこの街に永遠の呪いをかけて、星空市出身の子供達を殺すようになったの……
「さてと……この“六”不思議と例の事件がどういうつながりを持っているか話しましょう……
まず、自殺した子の“死にたくなった”っていう気持ちは、五つ目の怪談と関係があるんじゃないかって思うの。……死者が心に語りかけていたのよ……“死ねば楽になる”、“生きていた方がつらい”って……
私はそんな風には思わないわ……だって……一人一人はこの世界に必要だから生まれてきたの……今はそう思わなくても、いつか自分を必要とする人は必ずやってくるから……
次。奇妙なことに、遺体の破片が広範囲に渡って散っていたのよ……こんなの…他殺に決まっているわ……。…これは、一つ目と二つ目の怪談が関係しているの……
……関係ないじゃん、と思うでしょ?……憑いてきてしまったのよ……学校まで。………ふふ。怖いわね…憑かれてしまうなんて……
……ダメよね…。自分が誰かのせいで死んだからって……関係ない人を巻き込むなんて……
「私、昔から七不思議に興味があるのよ……それでね?……知っちゃったんだよね……七番目を……。
つづく……
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.39 )
- 日時: 2018/05/15 18:45
- 名前: 月兎 (ID: lMEh9zaw)
「……えっ…」
私は巫女の衝撃的な発言に言葉を失ってしまった……
「……やっぱり知ってたのね…あなたも。」
「死ぬ…んです……か?」
「そうよ。」
「どう……して……」
「……あなたには悪いけれど…この先は自分でやってくれるかしら?」
「……いやです。」
「…どうして?私はもうすぐ死ぬのよ?」
「……じゃあ質問です。どうしてあなたは私に全てを押しつけるなんていう無責任なことをするのですか?」
「……………」
「どうしてですか?ちゃんと答えてください。」
「…強くなったのね……」
「……え?」
「……私があなたの“はとこ”って言えばわかる?」
「……………」
「私、あなたのことをずっと陰で見守っていたの……前におばあちゃんから言われたの……孫の面倒を見てって……」
「……そうなんですか……最低ね。」
「……え!?」
「だって……。……だって…!私の大切な友達を勝手に消して……!許せると思ってるんですか!?私はあなたのことが許せません!!」
「…………。」
(…本当はこんなはずじゃなかったのだけれど……。……仕方がないか……)
「……悪気は…なかったのだけれど……」
「……許さない……絶対に許さない!!」
「……………。」
「……うぅ…怪華ちゃん……」
『おい……葉子か?』
「ぇ…」
私が振り向くと、瑠璃香さんが心配そうにこちらを見つめていた。
「あなた…どちら様?」
「……お前…葉子のはとこ、なんだな…。その割には葉子の気持ち何も分かってねえな……。」
「……ッ…!!は!?何よあんた!!馬鹿じゃないの!?」
「……………お前は黙ってろ。」
「…………………」
「葉子…大丈夫か?」
「……瑠璃香さん…」
「いいか?困ったときはいつでも私に相談するんだぞ?」
「………!」
「どうした?今までと変わりない事じゃないか……」
「そう……ですね……」
私は瑠璃香さんの言葉に感極まって涙を浮かべてしまった。
私の隣にいる巫女は、自分の置かれた状況を把握できずにいた。
私を見つめている瑠璃香さんは、………私にはよく分からないけれど……私を巫女から守ってくれているように見える。
「葉子……一旦私の家に来ないか?…少しお前と話をしたい……大事な話をな。」
「…いい……ん…です……か……?」
「……ああ、もちろん。」
「……もう話は終わったの?私は早く帰りたいのよ。」
「……もちろん帰っていい。……ただし」
「……ただし?」
「二度と葉子の前に現れるな。」
「………っ!?……えぇ!?冗談言ってんじゃないわよ!」
「……………。冗談を言ってるのはお前の方だろ!!!大体お前が葉子の親の代わりになるっていうんならちゃんと葉子の面倒見ろよ!!!」
「……………。」
「……瑠璃……香…さ…ん?」
瑠璃香さんと図書館で出会ってから今日でどのくらい経つだろうか……。瑠璃香さんは私に怒ったことは何度もある。しかし今日の瑠璃香さんの怒り方は普段とは全く違った。
「……あ…葉子……ごめん……恐かったか?」
「……いえ…」
「ふん…そうか……」
「…………………………」
「お前の名前は確か……えっと……神崎 桜、だっけな。……お前もだいぶん顔が真っ青なのだが……」
「えっ……そ…そんなことないわよ!」
「……今度は赤くなったな。」
「……………うるさいわね。」
「……お前、すこしは反省したか?」
「…………別に。」
「………別に、ですむ話なら私はここまで言わねぇんだよ…。」
「………じゃあ私は何と言ったらいいの?何と言ってほしいの?」
「……お前のその態度が気に入らねえって言ってんだよ!!!お前にはそれが分からねえのか!!!」
「………悪かったわね。」
「……もういい。……お前に心から謝る気がないんなら……。……葉子…そろそろ行こうか……こんな所にいてもろくな事がない。」
「……そうですね…」
「……………。」
〜神崎桜とのはとこ関係を明らかにされた葉子は、少しだけ巫女に対する親近感というものが生まれた。しかし、親友を消されたことに対する怒りや憎しみは消えない。この先葉子はどのようにして巫女と付き合っていくのだろうか…〜
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.40 )
- 日時: 2018/05/22 15:32
- 名前: 月兎 (ID: xZ7jEDGP)
私と瑠璃香さんは巫女と別れた後、瑠璃香さんの家へと向かった。
……それにしても、あの巫女さん……どこか寂しげな表情をしてたな……。……どうすれば…
「おい、葉子。」
「はい。何でしょう?」
「……一ついいか?私…葉子と出会ってから私の身近な人達が相次いで死んでいってるんだけど……。あ…別に、葉子が悪いとかじゃないから……。でも、それが不思議で不思議でたまらなくて……」
「……え…それって……つまり…?」
「……お前が【不幸を呼ぶ女】になっちまったんじゃないかって……」
「…………あの、一ついいですか?」
「……ああ」
「……失礼にあたるかもしれないですけど……。…瑠璃香さんは何故そんなに女の人らしくないのでしょう……それに、瑠璃香さんは何で途中で“あたし”じゃなくて“私”って言うようになったのですか?」
「……ふふ。葉子も変わったねえ……人に向かってそんなことを単刀直入に言うなんて……」
「ご……ごめんなさい……」
「……いいんだよ、別に。大して気にしちゃいない。………グレちまったんだよ……」
「……え?」
「…話すと長くなる。……聞くか?」
「もちろん!」
つづく…
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.41 )
- 日時: 2018/05/22 16:08
- 名前: 月兎 (ID: xZ7jEDGP)
「私は幼くして母親を亡くした。私はしばらくの間父親と二人で暮らしていたが、父親はあまり育児に興味がなかった。……そう。私は孤独であった。
「私の母親は、旅行先の国での銃撃戦に巻き込まれて亡くなった。幼かった私は、父親がその事を隠していた事にも気づかず、大人になろうとしていた。………しかし、父親が酔っぱらってこう言ったのだ。『お前の母は殺された』って。……それがショックでショックでたまらなくて……。……私が気がついたら、身体全身血まみれだった。……目の前では父親が大量出血を起こしていたの。……私は恐くなって、父親の遺体を海に沈めてしまったんだ……比較的家が海に近かったからね……。
「父親を殺してから、私は人間不信と罪悪感にさいなまれながら生きていかなければならなかった……。……私は人殺し。どうせ誰も私の相手をしてくれない。……いつの間にかそう思うようになってしまったの……。
「けれど、そのような心の持ち主である私を変えてくれた人物がいた…。葉子…あなたのことだよ……。あなたは私にいろいろなことを教えてくれた……。今まで生きていくのが辛かったのに、その気持ちを一瞬で溶かしてくれた……とても嬉しかった……ふふ……私って本当に馬鹿だよね……。
「両親が天国に旅立ってから、私は孤独に生きていた。……最初は私の元気がないことを学校の友達は心配してくれていたんだけど……。…だんだん反応が薄くなってきて……。…気づいた時には私は独りぼっちになっていたの……。別にいじめられたとかじゃないんだけど……。…とにかく私はそれが悲しかった…。…最初は悲しかったけど、だんだん慣れてきて、なんとも思わなくなった。勝手にしろ、って思うようになった。そして、私の性格も次第に荒っぽくなり、……今の状態に陥ったんだ……。
「葉子、さっき『何で途中で“あたし”じゃなくて“私”って言うようになったのですか?』って言ったよね?……葉子と出会ってから、もう少し女性らしく上品に生きなければって思うようになったの…。
「今は亡き千香にも言われたんだ……。もうちょっと明るく接する方がいいって。だから、葉子に今までの恩返しをしていきたくて……。
「これから私の孤独の人生を話そうと思う…。
「19××年6月5日、私はある家に生まれた。とても明るい子だったと親からは言われている。何年かして、保育園に入る。保育園の先生にはいろいろ迷惑をかけてしまった。5歳の頃、小学校入学を目前にして母親を亡くす。11歳、小学校卒業。13歳になる頃、父親を亡くす。15歳、受験に失敗。私は−」
「あの、もう話さなくて結構です。」
「……そう?」
「はい……。でも、ちょっと銃撃戦の話は気になります…。」
「………………」
「ダメ……ですか……?」
「してもいいんだけど……。」
「いいんだけど…?」
「おなかすいた。」
「ゑ……」
「……ダメ?」
「ダメというか……。瑠璃香さんのせいで今の雰囲気が台無しに……」
「ああごめんごめん。」
「あの……食べた後でもいいんでとにかく話を……」
「……そこまで言うなら…」
(…なんか上から目線……)
−数十分後…
「話していい?」
「はい!もちろん!」
つづく…
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.42 )
- 日時: 2018/06/07 19:56
- 名前: 月兎 (ID: 1HkQUPe4)
「ある日、私達家族はある国を訪れた。その国の地に足を踏み入れる前の飛行機は、とても神秘的であった。……しかし、後に私の気持ちを一瞬で破壊してしまう事件が起こる。
「私たちは、その国に1週間滞在することになっていた。……父は結婚記念日であるからと言っていたが…。
「1日目。この日は特に変わったことはなく、街を練り歩いていた。2日目。……両親はハーン湾とフーコツク島のどちらに行くか迷い、喧嘩になってしまった。幼かった私に両親を止める力など当然あるはずもなく、結局近くの博物館に行くことになった。……その日両親は仲直りをしなかった。3日目。朝早くからとんでもない報せが来た。反政府派の人々がデモを起こしたって……。……この国に来てからまだ3日しか経っていない。しかし、予定を切り上げて帰らなければ、身が危険にさらされてしまう。そう思った両親は、明日観光を終えて、明後日日本に帰国する事にした。
「……4日目。朝から激しい音で目が覚めた。外を見ると、人々は互いを殺し合い、空飛ぶ兵器や陸をゆく兵器は人々をなぎ倒し、体をバラバラにしていっていた。幼かった私にとって見れば、それはそれは大きな衝撃を受けた。……外に出てしまっては命がない。私たちはどうすることもできなかった。
「そして……
『ねぇあなた……本当に大丈夫なの?』
『ふん……別になんてことないだろ……』
『まま…?ぱぱ…?』
『……瑠璃ちゃんは心配しなくて大丈夫だから…』
『分かったら、とっとと観光に行くぞ。』
『……危なくないかしら…』
『ああもう!好きにしろ!俺はもう行く!』
『ちょっと……!外に出たら……!』
『?』
母は父の後を追いかけるようにして外へ出た。
それと同時に銃弾が二人の元に迫ってきていた。
最初にそれに気づいたのは母の方だ。
銃弾は父の方へと向かっていた。
誰かが殺そうとしているのだ。
……銃弾と父の距離は刻々と近づいている。
しかし、弾が当たったのは母の方だ。
……母が父を庇ったのだ。
『おい……おい!しっかりしろ!』
『まま?』
『お前は家の中にいろ!ここは危ない!』
……もう一つ銃弾が飛んできていた。
私の頭めがけて。
……その後、私の意識は途絶えてしまった。
「私が気付いたとき、そこは病院だった。……なぜか私の腕に細い管のようなものが通されていた。その中では、赤いものが流れていた。当時の私にはそれが分からなかった。
「私が13歳になり、部屋を片付けていると、二つの手紙を見つけた。どちらも私宛の手紙だった。
『瑠璃香、元気かな?長年お前に隠していた事がある。まずはそれを謝らなければならない。本当にすまなかった。お前の母親は病気で死んだんじゃない。銃撃戦に巻き込まれて死んだんだ。俺のことは恨んでもいい。殺してくれたっていい。だから、あいつは絶対に恨まないでくれ。約束だ。俺は不器用な男だ。だから、お前の育児もろくに出来なかった。なんで俺がお前にあの事を隠していたか言おう。幼かったお前にとって母親が銃撃戦に巻き込まれて死んだなんて言ったらお前がどんなに悲しむことか……それが心配で教えてやることが出来なかった……許してくれ。………お前がこの手紙を読んでる頃は俺はとっくに死んでいるだろう。……本当に……本当にすまなかった。許してくれ……』
……父からの手紙だった。と言うことはもう一方はおそらく……
『私の愛する娘 瑠璃香へ
元気にしていますか?私たちはあの後病院に連れて行かれて治療を受けています。ただ、このまま行けばあなたの命は限りなく期わるでしょう。そう医師から言われたの。だから、私思い切ってこう言ったの。“私の血を全て娘にやってください”って。医師はとても驚いていたわ。……そりゃあそうよね……。お父さんとも話して、あなたには私の死の事はしばらくの間内緒にしておこうって事になったの。だって……つらすぎるでしょ?こんな事いきなり言われたら……。……今、私の血はどんどん抜かれているの。……私ね?ずっと誰かの命を私の血で救ってあげたいとおもってたの。だって私O型だし。……もう残りわずかみたいね……私の命も。……短い時間だった……もう少しあなたのそばにいてあげたかった……でも、もう私はこの世からいなくなってしまう……本 当に さみ し い けれ ど 今 ま で あ り が』
そこで手紙は終わっていた。終わってしまっていた。……もう少し一緒にいたかった。あの時助けてくれてありがとうって言いたかった……。もう……会えない……感謝の言葉を伝える事もできない……手紙はいつの間にかびしょびしょになっていた。油が溶け出していた。……その時、人の死ほど悲しくつらいものはないということを痛感した。人はいつどこで死ぬのか分からない。分かるはずがない。……いくら泣きじゃくったって両親は戻ってこない。……一瞬死ぬことも考えた。……でも、ここで死んではいけない。
父と母の分までちゃんと生きなきゃ……。そう思った。
「ふふ……やっぱり私は馬鹿だったな……父をあの時殺したのが間違いだった……父を殺して……自分に嫌悪感や喪失感を感じただけだった……それ以降、私の心は荒れに荒れて自分だけでなく他人まで傷つけるようになった。………怖かった……いつ誰に裏切られるか、いつも思っていた。
「大学生になって、新しい友達ができた。………死んじゃったけど……エレベーターの事故で……。…守れなかった……私は友達を守れなかった……。その思いだけが私の心の中にあった。最近、大親友だった千香まで失ってしまった……
「だから、今度こそ誰かを守りたい、そう思った。その思い一心でお前を苦しめているものから守り抜く、その思いを心にずっと持っていた。……いや、今もずっと持っている。
(か……かっこいい……)
「葉子、どうかしたか?」
「あ……いえ……なんでも……」
「そうか……」
「……………。」
「葉子、一ついいか?」
「……何でしょう?」
「お前の後ろにいる少年は誰だ?」
To be continued……
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.43 )
- 日時: 2018/08/30 18:39
- 名前: 月兎 (ID: WqZH6bso)
「お前の後ろにいる少年は誰だ?」
そう言われ、私は背筋が凍り付いた。
「わ……私の……後ろ……に…です……か…?」
「ああ。」
「……………。」
「……怖いか?」
「………はい…」
「……ふっ」
「……え?」
「……いいか?葉子……しっかり聞いておけ。」
「?」
「葉子……そいつに余計なことしただろ?」
「……え?」
「どけ。」
「…え?」
「……聞こえなかったか?」
「……い…いえ……聞こえました……」
「なら、どけ。」
「あ……はい……」
私がそこを退くと同時に、瑠璃香さんはポケットの中の何かを私の後ろめがけて投げつけた。
「………え?」
「それを見てみろ。」
私が振り返ってみると、そこには銀製の錆びた釘が落ちていた。……血がべっとりと付いていたが……
「ひっ……!」
「……………。」
「…瑠璃香さん……これは一体……」
「……………。」
「瑠璃香さん?」
「……………。」
「………。……瑠璃香さん!!」
「………!!あぁごめん……何か考え事してたみたい……」
「……そうなんですか……。…それで、これは一体……?」
「………とりあえず…お前の後ろにいた少年の命はすでに無い事ぐらいは分かるよな?」
「は……はい。」
「まずはその少年が何故死んでしまったのかについて話したいのだが……いいか?」
「………はい…」
「………やっぱり止めとく。」
「!?」
「うん。だってね?すごく言いづらい話になるから。」
「いやいや。人に話したいとか言っておきながら言わないって……どうかしてません?」
「……葉子。…気が強くなったな。」
「……はい?」
「……その子、掃除箱に閉じ込められて死んじゃったんだよ……」
「……いきなり話し出さないでください」
「放課後、友達とかくれんぼをしてて、掃除箱に隠れたんだけど……隠れている途中に掃除箱がいきなり倒れて……その子は頭を強く打って死んでしまったの……」
「……………」
「葉子、あの子にさっき会っちゃったの?」
「え……あ……まあ……」
「あの子……何か言ってた?」
「……あ。私に問題出してました。」
「……ふふ。良かったね。カクレンボじゃなくて……。」
「え……それは一体どういう……」
「……あの子、トモダチを作ろうとしてる。」
「……………」
「…よかった……葉子が死ななくて……」
「……………」
「あの子…本当は生きている人間と遊びたかっただけなんだろうね……それなのに……。それなのに……誰も相手をしてくれなくて……。」
「……………」
「死んでから、誰かに遊ぼうって言っても誰も聞いてくれない……。だからあの子の心はどんどん闇に染まっていって……。」
「あの……!それ以上は言わないでください……!」
「怨霊と化してしまった……」
「……………。」
「…どうした?」
「………。…その子、学校の怪談か何かになっているんですか?」
「うん。【掃除箱の怨霊】にね。」
「あの、瑠璃香さん。」
「…何だ?」
「さっき投げたものは一体……」
「錆びた釘だが?」
「錆びた…釘…?」
「ああ。」
「でも…何で投げたんですか?」
「アレには除霊効果があるんだ。」
「へぇ…」
「あの、やっぱりあの学校って霊がいるんですよね……?」
「ああ、怨霊がな。」
「だから私、塩を紙の上に盛ってみたんです。でも……全く変化がなくて……」
「………そうか。お前、紙は和紙を使ったか?」
「……いえ。使っていません。」
「じゃあ次は和紙で試せよ?」
「え……和紙じゃないと効果がないんですか?」
「……少なくとも私はそう聞いたが……。」
「……分かりました。」
「でも、あの件が終わったから大体の霊は片付くと思うんだけどな……。」
「あの件って?」
「【キリコさん】のことだよ。」
「……ああ…あのことか……」
「…悪いな。あの事を思い出させちまって……」
「いえ……もういいんです。」
「……………」
「……………」
「あ……もう一つ案件があるのを思い出した。」
「…え?」
「【ひとりかくれんぼ】。お前もよく知ってるだろ?」
私は瑠璃香さんのその言葉を聞いて背筋が凍りついた。……やった覚えがあるのだ。【ひとりかくれんぼ】を……
「……なぜやった…。……なぜ……。なぜっ……。なぜやった!!禁忌と呼ばれているあのゲームを!!……私……随分と前から知ってたんだ……お前とお前の友達が禁忌のゲームをやったのを……。……私のいとこが死んだんだよ……。その死因にお前らがやったあのゲームがあるんじゃないかって……もし…それが事実だったら……私はお前らを許さねえ……」
「……………」
私は瑠璃香さんの言葉に何と声を返せば良いか分からなかった。
「……………悪いな…いきなり怒り出しちまって……。」
「……………」
「前に知っちまったんだよ……。図書館で【キリコさん】の事を調べているときに」
「………え?」
「ああ……。」
「あの……本当にごめんな「あ!べ…、別にいいんだよ…、謝らなくても……」
「……え?」
(ツンデレ……)
「……お願いだから…謝らないでくれ……」
「……はい?」
「いいから……頼む……」
……瑠璃香さんは何を思ってそのようなことを思っているのだろうか。……私にはそれが分からなかった。
〜葉子と瑠璃香の意外な関係の発覚。しかし、それは決してよいものではない。この関係発覚後、二人の距離はどのように変わってしまうのだろうか。そして、以前葉子が行った【ひとりかくれんぼ】で何が起こったのか。その真相が明らかになることはあるのだろうか〜
To be continue……
- Re: 幼き心のひと雫【更新停止中】 ( No.44 )
- 日時: 2018/10/24 19:09
- 名前: 月兎 (ID: /TdWvv73)
ー神崎神社境内
「……お姉ちゃん?」
「なあに?私の可愛い妹。」
「……最近元気なさそうだけど……大丈夫?」
「……あはは。そんなことないわよ?」
「………あの葉子とか言う子、泣かしたんでしょ?」
「………………げっ!そんなことないわよ!!」
「ふーーーーーーん」
「うぅ……あれは仕方が無かったのよ……だって…幽霊退治は私の仕事だし………」
「へぇ…そうなんだぁ……」
「う……うっさい……」
「ねえお姉ちゃん?」
「な……何よ……」
「私、巫女辞めるから。」
「…………は!?」
「だってね?泣いている女の子の前であんな酷い言葉かけるんだよ?最低な姉と思わない?」
「……えーと…どう返答すればよいのか……」
「じゃあね、お姉ちゃん。もう二度と会うことはないから。」
「……本気で言ってるの?」
「……私は嘘なんかつかない。お姉ちゃんと一緒にしないでよ。」
「……………」
ーその頃……
霜田 皐月。私の妹の名前だ。妹はもうこの世にはいない。ひとりかくれんぼの犠牲になってしまったのだ。
あれほど言ったのに。あれほどひとりかくれんぼをやるなと言ったのに。なぜやったのか。なぜやってしまったのか。
図書館であいつの名前を聞いた時、どこか聞き覚えがあった。月森 葉子。あの件とあいつの名前が結びついたとき、あいつに恨みをも感じるようになってしまった。それが、つい最近の話だ。
しかし、なぜひとりかくれんぼをやったのか。その理由を聞き出すまで、私と皐月が姉妹関係であることを打ち明けるつもりはなかった。
でも、打ち明けることにした。葉子とこのまま良い関係を築いていたかった。
……………。
「なぁ葉子……」
「何でしょう?」
「……何でひとりかくれんぼをやろうと思ったんだ?」
「………最初はただの好奇心だったんです……。でも……まさかあの噂が本当だなんて思わなかったんです……。」
「……………」
「本当に……ごめんなさい……」
「…だからいいんだよ…謝らなくて……」
「……………」
「葉子…あの噂、ってのは何だ?」
「……ひとりかくれんぼの時に現れる霊は前に自殺をした女子生徒だっていう噂です……」
「……自殺?」
「はい……」
「なんでその生徒は自殺なんかしたんだ?」
「……分かりません。でも……」
「でも?」
「他殺だって言う人もいるんです……」
「…………ん?」
「と……とにかく……!……私はその噂を確かめたかったんです……」
「……………ふっ」
「瑠璃香さん?」
「噂を確かめたかった?ただの好奇心?………ふざけんなよ!!!その好奇心のせいで人が死んでんだぞ!?ひとりかくれんぼをして死ぬかもしれないって事をお前は思わなかったのか!?」
「……ごめんなさい…」
「……謝ったって一度消えてしまった命はもう二度と戻ってこないんだぞ?お前は一生その罪を背負って生きていかなければいけないんだぞ?……分かったか?」
「………はい…」
「……絶対にお前は最後まで……寿命が消えるまで生きていかなければならない……」
「………はい…」
「お前は今怪異の脅威にさらされている……でも、お前が怪異に負けるなんてこと私は許さない。絶対に死なせはしない」
「え?」
「……おい、顔が赤くなってるぞ…」
「あ……」
「……………」
「す……すいませ「お前はさっきから何を謝っているんだ?私にはその理由が分からないのだが……」
「……あれ?……何でしたっけ?」
「おい。」
「……………」
「……お前もつらいんだろ?……今まで何人も友達を失って……」
「……そうですね…」
「……とりあえず…」
「…とりあえず?」
「【ひとりかくれんぼ】でもやるか……」
「……え!?」
「うん!」
「いやいやいや。さっき散々あんな事言っておいてその発言ですか!?おかしくないですか!?」
「人殺しは黙れ。とりあえず私がやってみるから。」
「……………」
(やっぱり怒ってる?)
「じゃあ明後日また会おうな!」
「え…!ちょっと待ってくださいよ!」
(あ……行っちゃった……)
『ねぇ、そこの貴方……』
「……え?」
私が振り向くと、そこには巫女の装束を着ていて、こちらに微笑んでいる女性が立っていた。
「私は神崎 椛。巫女をしていたわ。」
「巫女をして『いた』?」
「ええ。そうなの。」
「なぜ過去形なんですか?」
「あ……それは……まあ……諸事情があって……巫女を辞めたのよ……」
「諸事情……?」
「ええ……」
「諸事情とは?」
「姉さんとケンカしたのよ……」
「……私…姉さんの事が許せなくなって……」
「……………」
「貴女の友達を無差別に退治なんかして……」
「ああ……あれはもう気にしてなんかいませんよ……終わったことですし……」
「で……でも……」
「あの二人も……今考えたらあれで良かったのかもって思うんです……」
「……………」
「私も……よくよく考えたら……永遠にこの世を彷徨い続けているのも辛いんじゃないかって……思ったんです……」
「………………」
「……今のうちに仲直りした方が良いのではないのですか?もしどちらかが突然死んでしまったら……取り返しのつかない事になるのではないのですか?」
「……………」
「どうするのですか?」
「……………」
「……黙ってないで早く答えてくださいよ!!」
「……私たちは捨てられた姉妹。……小さい頃そう告げられたことがあるの……」
「え?」
目の前に立つ女性の思わぬ発言に私は言葉を失っていた。
つづく……
- Re: 幼き心のひと雫【更新停止中】 ( No.45 )
- 日時: 2019/03/04 18:32
- 名前: 月兎 (ID: cfr4zh/q)
私の姉は四月、私は十月に生まれた。名前の由来もそこからきている。
……………今から話す事は誰にも言わないでほしい。私のような現在になるような人が増えてほしくないから。
私たちの家庭はごく平凡だった。けれど決定的に違うことがあった。
それは……
ねぇおねえちゃん!
なぁに?
もうすぐわたしたちのおかあさんがむかえにくるよ!
……そうね。
えー。おねえちゃんたのしみじゃないのー?
わたしたちにおかあさんなんていないけど?
……ん?
いまからくるのはにせものでしょ?
じゃあほんもののおかあさんはどこにいるの?
……………。
その時の私にはまだ早かったのかもしれない。今でも鮮明に覚えている。姉が空の彼方を指さしたのを。
姉が表した意味は今ではもう当然のごとく知っている。
豹変した細胞が母の身体を蝕んでいき、しまいには空の彼方にある世界へ連れて行ったのだ。
こんな事本当は言ってはいけないのだけれど……しいて言うのならば……
最期の母の姿は恐ろしいほど醜く、人の命というものは、とても儚いものなのだということを知った。
………いつか家族で……小学校の入学祝いに“みんなが幸せになれる夢の国”に行こうって……約束してたのに……どうして……
………こんな話しても……どうせ誰も聞いてくれるわけないよね……
……………。けれど貴方になら分かってくれると思う。そう信じてこんな話をしようと思うの。
私達一家……いや、私達一族は昔からある種の“呪い”にかけられていた。どんな呪いかって?……それは……私達一族はみんな短命であまり長くは生きられないの。
神﨑 心桜。この人は此処の神社の初代巫女。平安時代から今日までこの神社は続いているんだとか。
まず最初はこの心桜(こころ)って言う人について話そうと思うの。
- Re: 幼き心のひと雫【更新停止中?】 ( No.46 )
- 日時: 2019/03/04 19:11
- 名前: 月兎 (ID: anGEJHLL)
「あ〜今日もいい天気ですね〜」
私の名は神﨑 心桜。京極家に嫁いだばかりなのだけれど……なんだかいつも寒くて手がかじかんでしまうのよね……。
お母さんは京極家に嫁ぐことを許してくれなかったけど……。
(まあ確かに寒くて田舎なのは認めるけど……。)。
わたしは昔から巫女に憧れてたから、最終的にここに嫁ぐことになったの。
『お菊、こちらに来なさい。』
“お菊”って言うのは私の二つ目の名前みたいなものなの。
「はーい。」
これから生け花のお稽古があるのだけれど……。なかなか行く気にはなれないわね……。
なんでって?
…………それは……私は最初は桜がいいって言ったんだけど、桜はすぐに枯れてしまうからお稽古には向かないんだって。
『お菊〜。早くしなさ〜い。』
「はいはい。そんなに言わなくても今いくから大丈夫ですよ。」
さっきから私を呼んでいるのは京の街から連れてきたどっかの有名貴族の娘。どっかのね。
私の唯一のたしなみは、桜を観賞すること。それだけ。
…………そろそろ本当に行かないと怒られるよね……。
「ねぇお菊。何でいっつも遅いの?あんた人をどれだけ待たせれば気が済むわけ??本当に。」
「ごめんなさい。」
「はぁ!?あんたいっつもいっつもそんなこと言ってんじゃないの!!今度こそ許さないわよ!!」
こんなの日常茶飯事だから私はいつも反省しない。
「あんたさっきから何とぼけた顔してんの!!さっさと反省しなさいよ!!」
「ほーい。」
「はぁ!?何が『ほーい。』よ!!ふざけんじゃないわよ!!」
「ねぇ、まだお稽古しないの??」
「ふん!今日はあんたがちゃんと反省するまでしませんから!!」
(やった……!お稽古が潰れる……!)
「………あんたが反省しなかったらあんたのお母様に言いつけるからね?もし私がこの事を話したら……。お母様はどんなに悲しむことか。分かってるの?」
「……………!!そ……それは……!!」
「じゃあさっさと反省しろ。そしてこの紙に反省文を書け。よいな?」
「………はい。」
(……………………チッ)
生け花のお稽古が終わったらいつも決まってすることがある。
それは…………
私のお母様のお墓参り。
お母様、桜の枝にひもをくくりつけて……その後首を吊って死んじゃった……。
気がおかしくなっちゃったのかな……。
私が生まれたばかりの赤児を殺したから……。
私、あの時お母様に代わりに赤児の面倒を見ててって言われたけど……なかなか泣き止まなくて……。
気付いたら赤児は息をしていなかった……。
………。ごめんなさい。私が悪いの。
私があんなことをしたから……。お母様は死んだんだよね?そうだよね?
……………。
「あんた。何さっきから悲しそうな顔してんの?そんなに私が恐かった?」
「いや……別にそういうわけじゃないけど……。」
「ふーん。」
“願わくは
花の下にて春死なむ
そのきさらぎの
望月の頃”
これはかの有名な西行法師が詠んだものだけれど……。私も出来ることならばそうしたい……。
『心』に『桜』で『こころ』。お母様はどうやって私の名前を選んだのかしら……。
「ねぇお菊。“ことだま”って知ってる?」
「?」
「人がつい口にした言葉をもし木霊が聞いていたら、本当に言った事どおりになるんだって。知ってる?」
「へぇ……。知らない。」
「……何だか興味なさそう。」
「当たり前でしょう?……もし“ことだま”が本当にあるんだったら……今頃お母様は……お母様は生き返らせているはずだよ……。」
「……この馬鹿!!」
「ひっ!」
「あんたね……。そうやって生き返らせたいとか言ってるけど……。……死者を生き返らせることがどういう事につながるのか……。ちゃんと分かっているの??」
「……蘇生術を行った人が穢れるんだっけ……?」
「その通り。あんたは死にたいの??」
「……そういうわけじゃないけど。」
「…いい?絶対にあの術を行っては駄目。わかった??」
「うん……」
“ことだま”。これはとても危険なおまじない。五十パーセントの確率で成功する。そして……もう一方の確率は……。
まずは木の枝と施術者の髪の毛を用意する。
次にもし誰かまじなう対象がいるんだったら、その対象の髪の毛を気付かれないように抜き取る。
そして抜き取った髪の毛を木の枝に結びつける。
まじなう対象がいないんだったら、自分の髪の毛を結びつける。
そして言葉を発する。
もちろん木の枝に向かってね。
これでおしまい。
「ふふ。これでお母様は生き返るのよ……。」
ー 数か月後。
『ここに神﨑 心桜様はいらっしゃらないでしょうか?』
「はーい。」
(誰だろう……こんな時間に……。)
「どちらさ……ま?」
「これは貴方の髪の毛ではないでしょうか……?」
「え……」
「私、気がついたら泥まみれの状態で倒れていたんです。そして手には誰かの髪の毛が握られていたんです。マアマサカオマエガアノチュウコクヲホントウニキカナイトハオモッテモイナカッタケドナ。」
「…………っ!!」
(しまった!このおまじないが嘘だと思っていたら……本当にあっただなんて……!)
「あら?どうかされましたか?」
「えっ?」
「ふふっ。急に驚いた顔をされるなんて……面白い方ですね。」
「あ……はは……」
(え?)
「そういえば、お花のお稽古は続けられていますか??」
「はい……まあ……」
「ふふ……。」
「それより……家に入れてくださる?」
「…まあ……いいですけど……」
「……………ヒヒ」
「……!」
「?」
「いや…何でもないです。」
(何だか嫌な感じ……)
「あ…そういえば。」
「はい?」
「貴方はどちらの出身で?」
「え……知らないんですか?」
「?」
「………詳しくは言えませんが……西国の出身です……。」
「へぇ。」
「…………あの。」
「はい?」
「さっきから何なんですか?本当に。」
「……別に。」
今日の客人は結局家の中には入らなかった。というか、いれるわけ無いんだけどね。あんな不気味な奴。
そういえば、私の故郷に確か“いつくしまじんじゃ”とかいう名前の神社があったような……。
あそこにもいつか行ってみたいな……。行けるわけ無いけど。
この夜、【どっかの有名貴族の娘】が死んだ。多分
。なぜ多分なのかって?………だって私が大切にしていた生け花用の菊の花が枯れちゃったんだもん……。
何で?何で死んだの?
……………。
『ここに神﨑 心桜様はいらっしゃらないでしょうか?』
(えっ……)
『ここに神﨑 心桜様はいらっしゃらないでしょうか?』
(あの声…)
『ここに神﨑 心桜様はいらっしゃらないでしょうか?』
(聞き覚えがある……)
『ここに神﨑 心桜様はいらっしゃらないでしょうか?』
(……………。)
『お菊!!さっさと返事しなさい!!』
(ぎょえぇぇぇ!!)
「……はぁい。」
『ったくもう!人がずっと呼んでるのにもかかわらず……!あんたは何でさっさと返事しないのよ!!』
「あの……」
「ん?」
「話の続きは……」
「ああ。その後の事を話すと呪われるから話したくないの。いいでしょ?」
「はい?」
「いいでしょ??」
「……………」
−プルルル…
「あ!私の携帯からだ!」
「もしもし?」
『おい。葉子。』
「何でしょう?」
『急遽用事が出来た。明日会おう。じゃあな。』
「え!?あ!?ちょっ!?」
(……………)
「どうだった?」
「……切られました。」
「へぇ……」
「?」
「今の電話、確か瑠璃香さんよね……?」
「そうですけど……それがどうかしましたか??」
「………今から言うこと、忠告として受け取りなさい。」
「?」
「今の彼女、危険すぎるわ。もし会うつもりならば、今すぐ断りなさい。」
「え……」
「今現在彼女の持つ禍禍しいオーラ、尋常じゃなかったわよ……さっき見た時ね」
「……………。」
「今度あなたが彼女に会ったら……」
「会ったら?」
「確実に殺されるわよ……」
つづく……
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.47 )
- 日時: 2019/03/08 06:01
- 名前: 月兎 (ID: anGEJHLL)
『確実に殺されるわよ……』
この言葉を聞いたとき、私は背筋が凍りついた。
「え……」
「本当よ。」
「……………。」
「彼女、貴方の弱みを握っているに違いないわよ……」
「どうして……そんなこと……」
「………まあこれは私の推測でしかないから……分かんないんだけどね。」
「……………。」
「………あ…もうこんな時間。帰らなきゃ……」
「…ちょっと待ってください!!」
「何?」
「……瑠璃香さんが私を殺すって……本当なんですか?」
「……さっきも言ったでしょ?私の推測でしかないって。」
「……………。」
「じゃあね〜」
「……………。」
—次の日……
「お!葉子!」
「あ…」
「…どうした?顔色が悪いぞ?」
「……………。」
「ん?」
「あの…【ひとりかくれんぼ】……やっぱりやめませんか?」
「…何を今さら……」
「……………」
「……………」
「……………」
「何か喋れ。」
「……………。」
「おい。」
「【ひとりかくれんぼ】……死にませんよね?」
「……お前さ、人を殺しておいてそれはないんじゃないか?」
「……………。」
「……………」
(やっぱりダメか……)
「……とりあえず…入るぞ……。」
「…………はい。」
(今日の葉子……様子が変だな……)
「まず綿抜きのぬいぐるみを用意する。」
「はい。」
「次にぬいぐるみの中に米を詰め込む。」
「はい。」
「次に爪を入れる。」
「はい。」
「……………。」
「?」
「あ??」
「ハイゴメンナサイイマスグニワタシノツメヲイレマス。」
「赤い糸で縫い付ける。」
「はい。」
「そのまま糸をぬいぐるみに巻き付けろ。」
「はい。」
「最後にぬいぐるみに名前をつける。」
「はい。」
「……………。」
「じゃあ私はこれから外に出る。お前は前にやった通りにしろ。いいな?」
「え……瑠璃香さん……いてくれないんですか?」
「…当たり前だろ。二人もいたら何が起こるか…。わかったもんじゃない。」
「……………。」
「大丈夫だ。もしお前に異変が起きたら……。必ず私がぶっ飛ばしてやる。」
「………はい。」
(その言い方だとまるで私がぶっ飛ばされるみたいなんだけど……。)
「よし!じゃあ行ってこい!!」
「…………はい。」
「最初の鬼は葉子だから。最初の鬼は葉子だから。最初の鬼は葉子だから。」
(あれ……そういえばここ学校だった……)
(まあ……プールでいいか…。)
(これをこうして……こうか……。)
(よし!教室に戻ろう!!)
−10秒経過…
(こんなもんでいいかな……)
(…………はぁ)
(ぬいぐるみさん……ごめんなさい!!)
グチェ
(!?)
「次はあなたが鬼よ……。」
(あ……塩持ってくるの忘れた……。)
(ていうか…さっきの音何?普通ぬいぐるみからあんな音しないよね??)
(家庭科室だったら塩あるかな……?)
『フフ。』
(!?)
『ヨウコチャンハ…ドコ…?』
(え!?待って!?早すぎない!?)
『ヨウコチャン……』
(……………。)
“いいか?何があってもそこから動くなよ?私が何とかしてやるからな。”
(……瑠璃香さん…。)
“確実に殺されるわよ……”
(瑠璃香さんが私を殺す……?)
『イタイヨ…タスケテ…』
(……………。)
—ドンドン!!
(……ッ!!)
グチェ
ドチャ
クチェ
グチュグチュ
(何の音なの…?)
『コロス…コロス…コロス…コロス…コロス…』
(……何!?)
『ミツケタヨ…ヨウコチャン…』
(……………。)
『……………。』
(………いなくなった…?)
“霊っていうのは隙を見て襲ってくる。だから決して油断するんじゃないぞ?”
(そうだ……。絶対に油断してはいけない……!)
『ウフフ…』
(……………。)
『……………。』
(……………。)
「ミーツケタ!」
(…………え……)
私は思わず辺りを見回したが、誰もいなかった。
それとも、見えない誰かが私を殺そうとしているのか……。
どちらにせよ……私の身が危ない事は分かっていた。
……………。
“もしお前に異変が起きたら……。必ず私がぶっ飛ばしてやる。”
(……………。)
“二人もいたら何が起こるか…。わかったもんじゃない。”
(……………。)
わけわかんない。
私はどうすればいいの?
あの巫女の言うとおり、私は瑠璃香さんに殺されるの?
それとも、ぬいぐるみに殺されるの?
それとも……。
……………。
どうして……私ばっかりなの…?
どうして私ばっかり怖い目にあわなきゃならないの??
何で?
何で??
何で???
−ガラッ
「葉子!大丈夫か!!」
「え……」
つづく……
- Re: 幼き心のひと雫 ( No.48 )
- 日時: 2019/03/10 08:10
- 名前: 月兎 (ID: anGEJHLL)
−ガラッ
「葉子!大丈夫か!!」
「え……」
「あの……人形は…?」
「燃やした。」
「……はい?」
「うん。燃やした。」
「何してるんですか……。だめじゃないですか。そんなことしたら……。」
「いや、違う。」
「……はい?さっきから何をい「あんなぬいぐるみはただの見せかけだ。霊なんてものもいない。」
「…………え?」
「お前……呪われたんだよ……。」
「……………。」
「……ッ。…過去にお前がこの【ひとりかくれんぼ】をやった時点で呪われてんだよ!!!お前はまだそれが分からないのか!!!」
「……………。」
「あんなの降霊術じゃない。ただの呪術だよ……。」
「……………。」
「……いいか?気をたしかに持て。……じゃないと……本当に死んじまう……。」
「……………。」
「……黙ってないで何か言えよ。」
「……………。」
「…おい!!」
「あは……あははははははははは」
「葉…子?」
「ふひひひひひひひひひひひひひひひひひ。」
「……………。」
(……………。)
「ちょっと我慢しろよ……。」
—グサッ
第四章(最終章)へつづく……