ダーク・ファンタジー小説

Re: 危機を免れた一人の少年の物語 【参照400に感謝!】 ( No.30 )
日時: 2016/10/18 17:04
名前: ブルーオーガー (ID: o4cexdZf)

「—すみません……ア…アイツは今どこでしょうか?」

忠誠を誓いつつ、そう尋ねてみた。
できるだけ柔らかい口調で言ったつもりだ。このかたを怒らせると、僕自身がこの世界から消えてしまう。
ここに勤めて三年が過ぎていた。だがボスは二年目の時からこのかたに変わり、今までとは桁違いの圧を感じていた。精神的にもたいぶ鍛えられたと思う。

「はっ!?今俺は何をしてるか分からないのか!?休憩中にお前は俺に話しかけて…………」

怒りで震えた声。
まあここで働いていれば当たり前にことだった。
腕についているレーザー砲を僕の方に向けてきた。だが、動揺することなく忠誠を誓い続ける。

「まあまあお止めください……。サーディンはこの「NZUKS」が誇れる研究員の一人ですぞ……」

ボスの補佐をする一人がそう言ってくれた。そう言ってくれたおかげで、僕は死から逃れられた。

「ちっ!!……まあいい……アイツとは誰のことだ?」

やっとのこと怒りが治まったようだ。
このかたが怒らない日は見たことがなかった。いつも神経を張り詰めていて体のほうがよくもっているなあ、と不思議に思っている。

「はい………ヒデキという名前のものです………」

「ああ…アイツのことか…………アイツなら学校のトイレで震えつづけているぞ」

「ああそうですか……お教えくださり感謝しています」

本気でそうは思っていないが、疑われないよう精一杯演じた。

自分の部屋に戻り、パソコンを開いた。

《 斉藤秀輝:14才 男 南島中学校三年生 》

ヒデキについての情報が次々と表示される。
写真から見てかなり活発な子だと分かる。髪の毛は真っ黒で少し寝癖が残っている。ゲーム好きの少年らしく、ゲームのプレイ時間が勉強時間よりも数倍多い。
全ての情報を見たところでパソコンを閉じた。

僕はある決意を心の隅でしていた。
この場所は嫌いではない。少し働くだけで何千万円と貰えるので悪くはなかった。だが、悪人になりきれていないのか罪悪感が日々増していた。それが辛かった。

もう、ここには帰ってこないと思う。それでよかった。

「NZUKS」と書いてある装備を脱ぎ、自分で作っていたオリジナルのスーツを着た。かなりの時間をかけて作ったのだから、自分でも満足のできだった。
天井の板を特殊な工具で開け、驚くほどの跳躍力で中に入っていった。

楽しかった思い出なんかない……もう今までのことは忘れよう………。新しい人生の始まりだ。

暗闇の中、迷うことなく先へと進んでいった。