ダーク・ファンタジー小説

Re: 危機を免れた一人の少年の物語 【参照400に感謝!】 ( No.31 )
日時: 2016/10/18 17:15
名前: ブルーオーガー (ID: o4cexdZf)

四つん這いになりながら、天井を進んでいった。
天井は明かりがどこにもなく暗いはずだが「NZUKS」の製品は高性能のものばかりだ。顔につけている眼鏡のようなものはどんなに暗くても、煙があろうとも鮮明に見えるというすぐれものだった。
お金があり、さらに最新の技術もあって高性能のものを次々に開発していった。その中に多くの人が感染したであろう"洗脳ウイルス"というものが含まれていた。その研究には僕も関わっていて、ウイルスを作り出したときには皆と共に喜んだ覚えがある。

だがそのウイルスによって、僕が今までやってきたことの罪過の大きさを知らされた。

—人を操ることができるウイルス…………

僕は軽く考えすぎていた。
そのウイルスによってどれだけの人が日常を失ったことか。その中でヒデキという少年がもっともかわいそうだ。考えるだけで胸が締め付けられる。
何故この少年にしたのかは分からない。だが、何億といるこの地球の人間の中からあの少年を選んだのは何か理由があるはずだ。だが、今さらもう遅い。僕は「NZUKS」から逃げ出してきたからには、あそこにいる人間との関係を断ち切ったということになる。そうなると、僕もそこらにいる人間と同じ立場になる。だが特殊な薬を飲みウイルスの抗体があるので感染はすることはおそらくないだろう。そこの点は安心できる。

四つん這いをし続け疲れてきたところで通気口からの外の明かりが見えてきた。俺がいた地下の研究所の通気口ではなく、ここは薬局の通気口だ。
はやる気持ちで通気口へ向かった。
腰につけている工具を取り通気口を外した。思いのほか時間はかからなかった。
かなりギリギリだったが通気口を通り抜けることができた。外の空気を勢い良く吸い込んだ。
心地よい風が草花を揺らした。


—ガサッ…………


のどかな空気が一変した。
後ろから音が聞こえ、瞬時にしゃがんだ。
すると僕のすぐ上をレーザービームが高速で通過していった。

「ちっ!!…………」

舌打ちの音が聞こえた。
後ろを振り向き、レーザー砲を相手に向けた。
その先には見覚えのある研究員が立っていた。
この研究員は僕のとなりの部屋で暮らしている新人の研究員だ。あまり話したことがなく、その研究員の名前は覚えていなかった。
「残念だったな。反射神経だけは他人に劣らないんでね」
「くそっ」
「何故僕が逃げ出したと分かった?」
「ふんっ、そんなの簡単さ」
自慢げに話し始めた。
「となりの部屋で音が聞こえたと気がついて何があったか見に行ったんだよ。そしたらサーディンがいなくなってたからさ。あわてて、外に来たんだよ。俺の場合、聴力がすぐれているんでね」
「ボスには伝えてあるのか?」
余裕があるように話したが内心は緊張していた。
「いや、伝えてない。ボスに伝えれば、俺よりも優れたやつを連れてきて俺の活躍の場がなくなってしまう。だから、一人でお前を始末しに来たんだよ」
「なるほどな」
汗を拭い、安堵の息を漏らした。
「さあ、どうする。俺と戦うか?」
「別にいいだろう」
僕はいざという時のため、戦闘で役に立つものはすべて持ち込んでいた。その点では相手より上回っている。
ばれないように背中から煙玉を取り出した。
「ほおー。煙玉を使うか。何も意味がないことを知らないのか?まあいい。使ってみろよ」
こっそり出したつもりだったが、気づかれていたようだ。

—まあいい。すぐに決着を着けてやる。

煙玉を地面に投げつける。しかし、煙の姿はなくただ玉がなくなっただけだった。
「おや、不発弾だったようだね。ではこっちからいかせてもらおうか」
腰から剣を抜き、僕に向かって走り出した。
僕は眼鏡のボタンを押し顔にマスクを装備させた。

「おらああああ!!!死ねーーーー!!!!」

僕に切りかかろうとした瞬間、剣をその場に落とし体も一緒に倒れていった。

「な………なぜだ…………なぜ体が動かない?」

「お前は僕の煙玉を不発弾と言った。だが、考えてみろ。こんな近くで煙を出したら研究所の外の見張りをしてるやつが何かあったとこっちに来てしまうだろ?そんな自殺行為を自らするわけがないだろ?」

「だから、なんで体が動かないんだよ!?」

「煙の中に体を麻痺させる物質を入れておいた。しばらくすれば元に戻るだろう。だが、そのままお前をここに放置しておくわけがないよな?だから、これをしっかり吸い込んでおけよ」

そう言ってもう一つの煙玉を地面に投げつけた。

「うわあ!やめろっ!!!」

「別に死ぬわけではないから安心しろ。じゃあな」

そう言って、山の中へと走っていった。
あれは今日起きた出来事を忘れるように合成した煙玉だ。記憶さえなくなれば僕が逃げ出したことも忘れるから安心だ。
後ろを振り返り研究所を見つめた。

—ボス……すまねえな……お前はもう敵だからな

そう心の中で思い、山奥へと進んでいった。