ダーク・ファンタジー小説
- Re: 危機を免れた一人の少年の物語 【参照600に感謝!】 ( No.45 )
- 日時: 2016/10/23 17:06
- 名前: ブルーオーガー (ID: o4cexdZf)
片手に剣を持ち、手に汗を握っていた。
—ポツンッ………
あまりの緊張で汗が床に落ちていった。
手の甲から指先に向かって汗が数滴垂れ落ちていった。
—コツ…コツ……コツ……
足音はどんどん大きくなっていくが姿はいっこうに見えなかった。その足音の正体がわからないせいでどんどん不安が増していった。
剣をさらに強く握りしめる。
汗ですべりそうだったので、精一杯剣を握りしめた。
肩まである長い黒髪。スッラっとしたスタイルのいい身体。見覚えのある懐かしい制服。
間違いない。この人はこの学校の生徒だ。
しかもそうとう可愛らしい子だった。真っ白な肌にサラサラな黒い髪の毛。その子を見て僕は助けてやりたいとひそかに思っていた。
だが、油断はできない。どちらかといえば、ウイルスに感染している可能性の方が高い。
「ふう………」
剣を構え相手の様子をうかがった。
その女子生徒は僕の方を向き、じっと見つめてきた。目を逸らしたくなったが、圧に負けずこっちも睨み返した。
静かな学校に大きな音が響き渡った。
ふとその女子生徒は体が横に傾き、目を閉じてその場に倒れていった。
他の人に気づかれないか不安だったが、すぐにその女子生徒に近寄った。
「おい!大丈夫か!?」
少し距離を置いて、そうたずねた。だが少しも動かず、反応はなかった。意識がないか、それとも……??
反応がないので、さらに女子生徒近づき肩をたたいてみた。だが、さっきと変わらず反応はなかった。
肩をたたいている間に女子生徒の横顔が目に入った。近くで見ても真っ白な肌をしていて、その白さを台無しにするようなものも一切見当たらなかった。そして、ウイルスに感染しているようにも見えなかった。そのあまりの美しさに見とれてしまった。
そう思っていたが、すぐに僕がここにきた目的を思い出した。
すぐに立ち上がり、周りを見渡した。
—よかった……まだ、敵はきてないようだ………
いつの間にかウイルスに感染した人たちを敵と呼んでいた。だがこの人たちは悪くない、すべて僕の責任だ……。僕がボスを恐れず研究の中止を訴えていれば………この人たちは………。
自分に対する怒りをこらえ、冷静さをなんとか取り戻した。
再び倒れている女子生徒を見て、思考を巡らせる。
この子はおそらくまだウイルスに感染していないはずだ。しかも、意識がなくこのまま放置しておいたら間違いなくウイルスに感染した人に襲われるだろう。そうなると安全な場所に移動させなければならない。
この学校の構造を思い出す。
ここから近くてさらに安全なところはトイレか教室の掃除道具入れだ。そして、今いる場所からしてトイレが一番近い。
そう心の中で決め、女子生徒を背中にかついだ。
小走りでトイレに向かう。
——と、
目の前に噴き出た赤い液体、右肩あたりに感じた激しい痛み。
あまりの痛さに立っていられず、ちかくの壁にもたれかかった。右手が温かい液体で覆われていく。
倒れた勢いで女子生徒は床に落としてしまった。
一瞬の出来事で何が起きたかまったく理解できなかった。
そして目の前を見る。すると動かなかったはずの女子生徒がこちらを見ながら立ち上がっていった。
—赤く光った眼、口からはみ出た鋭い歯、口の周りについている赤い液体。
その女子生徒の姿を見て、僕は激しい戦慄に襲われた。
僕が数年間かけて作ったオリジナルスーツがいとも簡単に破られて肩を貫通してしまうとはとてもかなう相手ではなかった。
何も心配せずに女子生徒を助けようと思った自分が馬鹿だった。最初の方はウイルスに感染している可能性のほうが高いと思っていたがあまりの美しさにそのことすら忘れていた。
そしてその時、やっと何が起きたのか理解することができた。
だが、そんなことを考えている場合ではない。女子生徒は牙をこちらに見せていつ襲ってくるかわからない状況だった。
慌てて逃げようと立ち上がると、今度は左肩に激痛が走った。
立つことができずにその場に倒れこんだ。
———ッ!!!
今度は左肩から赤い液体があふれ出し、床が真っ赤に染まっていった。両肩を女子生徒に噛まれ、痛みが限界に達してきた。
意識を保つことで精一杯だった僕には、ただ痛みに耐えることしかできなかった。子供に足を抜かれ動けなくなったバッタのように必死に生きようとした。
その場に倒れながらも心臓の鼓動がはっきりと聞こえてきた。だが、僕だけ特別であるわけでなく誰もがそうなる状況だろう。
息遣いが急に荒くなり、息苦しさを感じた。できる限りの酸素を吸い込む。
視点が定まらず、視界が少しがぼやけてきた。自分の死はそう遠くないことをまさにこの時知らされた。
女子生徒に目を向ける。
女子生徒は余裕な表情を見せ、僕が苦しんでいる姿を楽しんでいるようだった。
そう知らされ、歯を食いしばった。
悔しさを見せたからか、女子生徒が勢いよくこちらに噛みついて来た。
僕の意識は吹っ飛び、視界が真っ暗になった。