ダーク・ファンタジー小説
- Re: 異常性癖者のキロク【リメイク版】 ( No.19 )
- 日時: 2016/04/22 19:38
- 名前: 紫音 (ID: HKLnqVHP)
Anather Episode 藍那 夏織 Ⅰ
「藍那夏織です。よろしくお願いしますね」
高校2年の夏。 他の学校に編入した。
最初に隣の席になった子は藍沢奏音ちゃん。
可愛らしい見た目で頭脳明晰、成績優秀。運動神経は残念な女の子。
双子の妹ちゃんは同じ見た目でも頭脳、成績ともに残念だけど運動神経相当良いらしい。
最初は全然心を開いてくれなかったけど、少し仲良くなってからそんな話題も聞いた。
双子の妹ちゃん以外に4つ上にお兄さんがいるって言う事も。
あと、頭が良い事が原因で中学時代に色んな子に無視されたりした。という話も。
殆ど誰とも関わらない中学時代だったらしい。
それに、親が小さいころに亡くなってしまったことも。
親せきの家をたらい回しにされて、どこに行っても【 愛されてなかった 】らしい。
「漢字は違うけど、名前に【 アイ 】って入ってるのにね。誰にも、愛されなかったんだよ…」
なんて、泣きそうな顔で言っていた。
そんな顔もとてもかわいかった。 でも、涙を見せたらきっと可愛いだろうな。
人が泣く姿は元々綺麗でとても可愛らしい。
奏音ちゃんみたいに元の素材が良い子は笑っているよりも泣いて歪んでいる顔の方が絶対綺麗。
【 どうやったら涙を見せてくれるのかしら 】
そんなことを考えていたら高校2年も残り少なくなってきた冬。
いつものように奏音ちゃんと休み時間を過ごしている。
「ぁ...」
私の目線の先には、クラスの女子に人気の先輩。
「へー、オリってあの先輩好きなのー?」
ちょっとからかい気味に言っている奏音ちゃん。
別に好きなんかじゃない。
あの人も顔は整っている方。でも、【 貼りつけた様な笑顔 】より【 泣き顔 】の方が綺麗だろうなと思ってるだけ。
そんな本音をさらけ出すよりもあの先輩を【 好き 】だってことにしておけばそれ以上詮索されない。
そう思ってあの先輩の事を【 好き 】と言うことにした。
もしかしたら気づいていなかったかもしれないけどあの先輩、私達の事をみていたよ。
なんだかとっても面白い事でもしてくれるのかな〜。なんて想像して面白くって笑っちゃう。
怪訝そうな顔で奏音ちゃんが私を見て来るけど気にしない。
何か面白いことしてくださいね。【 桐生先輩 】
・
次の日の朝、教室へ行くと真っ先に目に入るのは青ざめて黒板を見る奏音ちゃん。
【藍沢奏音 校門前で先輩に強引にキス!?】なんて、黒板に書かれているのを見て笑いそうになる。
「ね、ノンちゃん…アレ、本当…?」
どんな事すれば奏音ちゃん、泣くかな。なんて考えながら黒板を指さす。
「あんなの嘘だよ!私がそんなことするはずな『藍沢さんからキスしてたじゃーん。私見てたよー』ッ…!」
否定しようにも遮られて何も言えない彼女を見てさらに言葉を重ねる
「ノンちゃんさ、私が先輩の事好きって知ってたよね…?ノンちゃん、恋愛に興味ないって言ってたよね。アレ、嘘だったの…?」
笑いの代わりに目には涙を浮かべる。
私の泣き顔を見ればつられて泣いてくれると思ったけど全然泣かない。
「そーだよー。藍那さん。藍原さんてサイテーだよね。私同中だから知ってるけどさ、テストで良い点取ってるのはカンニングしてるからなんだよ」
クラスメイトの女子はヘラヘラ笑いながらそんな事を言う。
奏音ちゃんは涙を目に溜めて、下唇を噛んで堪えてる。
そんな姿さえ、愛おしい。
我慢なんてしなくていいの。ほら、泣いて良いんだよ。寧ろ泣いて?
その綺麗な顔を涙でグチャグチャにしてみて?
なんてことは言わないで口では全く別の事を言う。
「そ、だったんだ…。ノンちゃん、そんな人だったんだね…」
ぽろぽろと涙を流して。
さらに追い打ち。
「そんな人と私、関わりたくないな………
だから、もう、話しかけないで…」
ねぇ、泣いてよ。ほら、ね?
なんて思っていることは当たり前のように伝わらず、奏音ちゃんはカバンを掴み、教室を出るた。
いつも歩くよりも速く。下を向いて誰の顔も見ないように。誰の顔も見ないように。
・
あれから時は経って3月中旬。あと1週間で卒業式。
あの後から一切奏音ちゃんは学校へ来ていなかった。
双子の妹ちゃんと連絡を取り合っている子の話では部屋から一歩も出ていないらしい。
つまり、引き籠っている。
前あった事がそんなにショックなのかなー。ちょっと可哀そうかも。
「ねえ、夏織ちゃん」
くるっと振り向くとそこには奏音ちゃんに無理やりキスをしたあの桐生先輩がいた。
全然喋ったことが無いのにいきなり下の名前で呼ぶなんて馴れ馴れしい男。
「藍沢奏音ちゃんの家の住所知ってる? 卒業前に一回会いたいんだ」
ニコニコと気味悪い笑みを浮かべながら聞いてくる先輩。
「あぁ、良いですよ」
「ありがとう」
この人について行けば奏音ちゃんの泣いてる姿が見れるかな。
顔は見れなくても、せめて、声だけでも聴きたい。泣き声だけでも…!!
・
遂に待ちに待ったこの日。先輩が奏音ちゃんの家へ行く日。
きっとあの顔を見たら泣くだろう。なんて考えながら先輩にばれないようについて行く。
少しすると【 藍沢 】と書かれた表札の家に着く。
そのに先輩が入って行くのを見てから離れたところで盗み聞き。
「ねえ、この頃学校来てないけどどうしたの?俺とキスしたのから冷やかされて嫌になった?」
あの先輩の声ばっかり聞こえて、一番聞きたい奏音ちゃんの声は一切聞こえない。
「…何か喋れよ」
いきなり低くなった声。声を聞いているだけで苛立っているのがわかる。
「嫌ッ」
少し、間が開いて奏音ちゃんの声が聞こえる。
悲鳴にも近いような、そんな声。
ドンっ、という何かが倒れたような音もする。
「おいおい、何すんだよ」
奏音ちゃんと先輩が何をやっているのかは分からない。
でも、私が望んでた奏音ちゃんの【 泣き声 】が聞け無そう。
カチカチと何か音がする。カッターの刃を出すような音。
「お、おい。何やってんだよ」
少し怯えたような声が聞こえる。
「何って、刺すんですよ。これを、貴方の身体に」
「は、や、やめろ…!」
「何言ってるんですか。そっちが先にやってきたんじゃないですか。
貴方のせいで私が壊れちゃったんですよ?責任もって死んでください」
そんな奏音ちゃんの言葉の後に男の悲鳴が聞こえる。
そして暫くしてから奏音ちゃんの声で…
「綺麗…」