ダーク・ファンタジー小説

Re: Alice in crazy land  ( No.20 )
日時: 2017/08/02 19:54
名前: きるみー (ID: .r7VG6cg)

アリスは走り続ける。

森の中を、ひたすらに。

追ってくる何かから逃げるように。

我武者羅に足を動かし続ける彼女は、まだ気づいていない。

今進んでいる道が、狂った帽子屋と、三月兎のマッド・ティーパーティーへの道だということに。

可愛い可愛い僕のアリス。

君が傷ついては大変だ。




僕は、ふわりと木の上に現れる。
今まさに、その木の下を通ろうとしていた彼女は、びくりと震えて立ち止まった。
瞳には警戒と怯えが滲み、泥だらけになったエプロンドレスを握りしめる拳は、ぶるぶる震えている。
「…ねえ、あんたも?あんたも私の邪魔をするの?」
僕は薄く微笑んだ。
彼女の緊張を和らげるためだ。
「そんな、邪魔だなんて」
「嘘!!そんなこと言って私を翻弄して、殺すつもりなんだわ、さっきの双子といい、あんたといい!もう、騙されないんだから!!」
「う〜ん、危害を加えるつもりはないんだけどね…。あ、じゃあこうすれば信じてくれる?僕が君を森の奥深くに監禁して、大切に、壊れないように、お世話してあげたら、君も安心して、僕を信用してくれるだろう?」
咄嗟の思い付きにしては、なかなか良い提案だ。
しかしアリスは青ざめた顔で、僕を睨みつける。
「あんた、イカレてる」
アリス、おかしくなっちゃった?
そんなこと、当たり前じゃないか。
「もう、あたしに関わらないで」
アリスはそう吐き捨てると、木の下を通って、早足で向こう側へ向かう。
「そっちは危険だから、行かないほうがいいって言おうとしたんだけど…」
僕は溜息をつきながら、彼女の後姿を見送る。
「まあ、可愛いアリスと喋れたんだから、結果オーライ?」
そう呟くと、不思議に笑みがこぼれた。

もう少しだ。

もう少しだよ、アリス。

裁判所やティーパーティーなんて、さっさと通り過ぎればいい。

早く、女王の城へ。

そうしたら、全てが分かるから。

ああ、アリス…僕の愛しい『有栖』。












チェシャ猫は、赤黒い飛沫を上げて、木の上から落下した。