ダーク・ファンタジー小説
- Re: Alice in crazy land ( No.5 )
- 日時: 2016/05/21 20:13
- 名前: きるみー (ID: oK2pW2ZL)
白ウサギの時と同じように、頭の中に声が響く。
低く、良く通る澄んだ声。
—…この声、何処かで…。
すると、目の前の空気がふわりと揺らいだ。
白ウサギの登場で慣れたのだろうか?
私は、突如現れた少年に驚きの声は上げなかった。
風になびく、濃い紫色の柔らかい髪。
白い陶器のような肌。
手をすっぽりと覆い隠す、フード付きパーカーを身にまとっている。
ゆっくり開かれた瞳は、僅かに鋭く光る金色だった。
そして、頭から生えた紫色の猫耳と、ズボンから出ている猫の長い尻尾。
何処か不思議だけど、周りにいるだけで謎の安心感を得られる、そんな雰囲気だったのだ、彼は。
彼の薄い唇が開かれた。
「キミは、アリスだね?」
「は、はい…」
声はもう掠れていなかった。
「そうか…」
彼が少し曇った表情をしたように見えたのは気のせいだろうか。
「…あの、貴方は…?」
一応、用心には用心をと、名をたずねる。
少年は、うっすら妖しく微笑んだ。
「ボク…ボクかい?…チェシャ猫、だよ」
「チェシャ、猫…」
白ウサギもだが、珍しい名前だ。
白ウサギ、と思いついた瞬間、あることが思い出される。
「…!そうだ!あ、あの、裁判所って何処にあるか知ってますか!?」
「…裁判所?キミは、裁判所に行きたいの?」
また曇る、チェシャ猫の顔。
「そうなんです。ある人…?動物…?と、約束してて…」
私が言葉を慎重に選びつつ、返答すると、チェシャ猫は呟いた。
「裁判所…。…トゥイードルの双子の家を通って行ったら良いんじゃないかな?」
「その人たちの所へは、どうやって?」
「森の道を進んでいけば、見つかるさ。道はきまぐれだからね…。後、住民には気をつけて。…それじゃ、ボクはここいらで…」
そう言い残し、姿を薄れさせるチェシャ猫を慌てて引きとめる。
「…何だい?」
「なんで、チェシャ猫さんは私を探していたんですか?それに、なんで助言も…」
口を、手のひらで塞がれた。
甘い、ラベンダーのような妖しい香りがする。
口から手を放したチェシャ猫は、姿を消しながら、静かに微笑んだ。
「…ただの気まぐれさ」