ダーク・ファンタジー小説
- 奇妙な出会い ( No.2 )
- 日時: 2016/08/09 10:29
- 名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: KG6j5ysh)
その死神は引くくらいむせび泣いていた。
横隔膜など無いであろうに、嗚咽を漏らしている姿はいささかシュールである。
それよりも何だこいつは。
俺の目の前にいるって事は迎えに来たのだろう、なのにさっきから何を突っ立て泣いてるんだ。
(あのー、もしもし)
話しが進まないので、とりあえず声をかけてみることにした。
それが声に出ているかは知らない。口を動かした感覚はない。しかし、その声は死神に届いたようで、死神はボロボロのローブで涙を拭い、ようやく俺に話しかけてきた。
「あぁ、ずびまぜん。貴方の命を刈り取った本人でありながら……。何と言いますか、あまりにも不幸すぎる貴方の走馬燈じんせいに涙が止まらず……」
(えぇ……)
どうやら、この死神は俺の走馬燈見ていたようだ。誰かに聞いて(見て)ほしいと言っていたのは俺だから、特に責めようとは思わない。が、しゃっくり上げて泣くほどだろうか。
しかし、初めて同情らしい同情を受けて、何だかこちらも胸に込み上げてくるものがある。
分かってくれるか、死神よ。俺のこの無念を。この辛さを。
いや、今はそんな事を言っている場合じゃない。
色々どうなっているんだ。俺は死んだはずなのに、なぜ俺は今ここにいる。なぜ意識がある。そもそもここはなんだ? 死後の世界か? それとも地獄か。
そう視線(今の自分に目はあるのかは分からん)を送ると、死神は一礼した。
「申し遅れました。あらかた予想はしていたと思いますが、私は死神でございます。貴方の命が尽きたので、この鎌を使って貴方の魂を体から切り離しました」
それが私の仕事で、と言うと、死神は手にしていた大きな鎌を肩に担いで見せた。
死神、やはりそうか。こうして鎌を構えると結構様になっている。筋肉とか無いのに、ほんとどうなってんだろうね。やや決め顔なのが癪に障る。
そんなしょうもない事を考えていると、死神と名乗った骨は鎌を背負い直して咳ばらいをした。
「さて、おそらく貴方は疑問に思っている事でしょう。なぜ自分がここにいるのか、そもそもここはどこなのか、と」
その通りだ。俺の方を見つめている死神に向かって頷いてみせると、死神はこちらに頷き返しながら話を続ける。
「まず、ここがどこかという話ですが……どういいましょうか。貴方が分かりそうな言葉で言えば、世界と世界の間です」
(世界と世界の間?)
「はい。貴方の住んでいた世界と、冥府の間……此岸と彼岸の狭間です。つまり三途の川ですね。星々をそれぞれの世界に見立てたとすれば、ここはさながら宇宙空間、といったところでしょうか。あぁ、天国や地獄のような場所もありますが、ここではありませんよ」
(は、はぁ……)
死神から噛み砕いた説明を受けるが、正直よく分からなかった。
そもそも冥府って本当に存在するのか(そんなことを言い始めたら死神にも同じことが言えるし、きりがないのだが)。自分で地獄なんて言ったが、そもそも別の世界だとかが本当にあるとは思わなかった。しかし、冥府でも地獄でもない場所って、一体何なんだ?
うーん、と首を捻っていると、死神は困った様に笑った。
「まぁ、普通はそうですよね。分からないのも無理はないでしょう。とにかくここは”色んな世界と繋がってる特別な場所”、と考えていただけえれば良いと思います」
(イマイチ理解はできれないが、そういう事で話を進めてくれ)
とりあえず、自分が人知の届かないような特殊な場所にいる事は分かった。
ここについて深く考えるのはやめよう。それよりも次だ。
俺が死神に視線を向けると、死神は俺の様子を察して頷いた。
「分かりました。それでは次に、なぜ貴方がここにいるか、ですね」
(うん、それが一番聞きたかった)
「そうですね……言ってしまえば、貴方と話しがしたかったので私が連れてきました」
「アンタが?」
「はい」
死神はそう答えると、ふうとため息をついた。
その姿は、どこか憂いているようにも見える。
「いやはや、見させていただきました。貴方の人生、貴方の最期、貴方の思い、そのすべて」
その言葉を聞いて俺はたちまち自分の人生を思い出し、押し黙った。
自分の人生に対する悲愴で心が痛い。
死神の言葉で落ち込んだのを見てか、死神は慌てて、しかしどこか優し気に言葉を紡いだ。
「大丈夫です。私はどうか不幸を全うした貴方に報われてほしいと思って、貴方をここへ招いたのです」
(……どういう事だ?)
「もし……貴方が望めば、の話ですが」
死神は、そう前置きをした上で言った。
「もう一度チャンスがあるとしたら、”転生”してみたくありませんか?」
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