ダーク・ファンタジー小説

どう見ても死んでいた ( No.4 )
日時: 2016/08/18 11:50
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: dK6sJ/q3)

(うーん。何だ? 成功したのか?)
 真っ暗な空間。比喩ではなく、本当に何も聞こえない。そんな場所で意識を覚醒させた俺は、あまりの静けさにどうも嫌な予感を覚えた。

 あの死神は俺の望んだ形で転生させてくれる、と言っていたが——そういえば確認らしき確認は取っていなかったと今更その事に気がつく。俺は人生イージーモードで過ごせるような超高スペックの人間で生まれたかったのだが、少なくとも自分が赤ん坊ではないことは体の感覚を通して察することができた。

 俺は今、胸の前で手をクロスし、寝かされているらしい。しかし、目を開いているはずなのに、なぜこうも真っ暗なんだ。とりあえず、状況を確認しないと。そう思い俺はおもむろに体を起こした。

 ゴンッ

 しかし、起き上がろうとしたその時、頭を固い何かにぶつけた。
(……、えっ?)
 途端に血の気が引いた。
 な、何これどうなってるんだ?
 俺は目の前の何かに触れてみる。
(か、固い)
 まるで石。石の壁だ。俺はそのまま正面、横、へと手を移動させ、同じように足もその石の壁沿いに動かしてみる。そして、ひと通り確認して一つの結論。俺、石の箱の中にいる。あれだ。まるで棺桶だ。石の棺桶はゲームの中で見た事がある。
 なるほど、だから真っ暗なのね。いやはや納得……じゃねぇよ!

(バカヤロー!! 棺桶だと!? 何でだ、どうしてそうなった!!)

 色々言いたいことはある。
 色々ツッコミどころはある。
 しかし、まず一刻も早く俺はこの箱から抜けださなければならない。
 このままだと酸欠で死んでしまう!
 とりあえず俺は目の前の壁を精一杯力押した。
 埋められた棺桶ならどうしようもない。そうじゃないことを願って力を込める。
(うぐぐ、重い……!)
 だめだ、腕だけじゃ力が足りない。膝を立てるようにして、足でも石の壁を押す。すると、少しだけその石が持ち上がり、すき間から僅かに光が漏れてきた。
(よし! いける!)
 俺はその石の壁——否、石の蓋を横へとずらす様に力を加え、数十秒の格闘の後ようやく蓋を開けることに成功した。蓋を石の箱の横に落とし、俺は何とか石の箱から這い出、俺は事なきを得た。

(し、死ぬかと思った!!)
 転生早々死にかけるなんて思いもしなかった。あの死神一体何を考えてるんだ。約束が違うじゃないか。
 俺はゼェゼェと息を切らしながら死神への文句を……いや、待てよ。そう言えば全く疲れてない。体に触感はある。しかし、あれだけ重いものを動かしたのにも関わらず、一切疲れていない。それどころか、息を切らしてすらいない。
 あれ、息? 
 いや待て、なんかおかしい。してない。俺、息してなくないか? 俺は慌てて大きく息を吸った。しかし、埃っぽい空気を吸って逆にむせた。ゲホゲホと情けなくせき込み、肩を落とす。
(何やってんだ……)
 脳裏にチーンとお仏壇で鳴らすアレの音が再生される。あぁもう、涙が出ちゃう。俺は顔を覆おうと両手を顔に近づける。

 と、ふとその時に気がついた。


 あれ、なんか……手が、おかしい。
 俺が見つめる先にあるのは、紛れもない自分の手。なのに、その手は恐ろしく『乾いて』いた。その手に瑞々しさはない。そのほとんどに肉がなく、骨の形がはっきりと浮き出ている。その乾いた木のような手には、カビか苔か分からないものがうっすらとこびりついている。
 俺は震えながら、その手で自分の頬に触れた。固くて、弾力がない。痩せこける、というレベルではないほど肉がない。それから喉、胸、腕と体のあちこちを触り回し、理解する。
(あ、え……)
 そう、頭は理解してしまった。俺の今の姿を。そして、この状況を。
 しかし、認めてたまるか。納得してたまるか。
 だって、そんなのは転生と呼べないだろう。少なくとも間違っていると確信を持って言える!

(ぎ、ぎゃああああああああ!! アンデットだああああああ————!!)

 あぁ、そうさ! 間違いない!! 俺は今”ゾンビ”になっている!!
 呼吸が不必要な体! 疲れない体!! 確かにそれだけ聞けば便利な体だ。ある意味無敵なような気がしてきた。しかし転生したら『乾いたオッサン』だなんて誰が得するって言うんだ!
 畜生、理解した途端体中がむず痒い!
 死神の野郎、何が転”生”だ? これはむしろ死んでるぞ。

 「ア"ア"ァ"ァ"ァ"」と、不気味な声を上げながら、俺は自分が入っていた棺桶に頭を打ち付ける。傍から見ればさぞ狂気じみているだろう。しかし、あえてそうすることで俺は精神を保っていた。ガンガンガンと鈍い音をさせ、数分。自分の体でストレスを発散したところで、冷静を取り戻した俺はピタッと動きを止めた。

 あ、やばい。気づいてしまった。
 もしかして、あくまで死神は俺の願いを叶えてくれただけで、原因は俺にあるのではないかと。

 そう、思いだしてみてくれ。
 俺は死んだ時、走馬燈を見てどう考えた?

”人間なんて嫌いだ。神様も嫌いだ。生きるのなんてウンザリだ”

 そして考えてみてほしい、この体。
 (アンデットという見方をすれば)人間ではないし、生きてもいない。
(…………)
 あぁ、なるほど。そうか。俺のせいなのか。
 生きるのなんてウンザリ、だからすでに死んでる体になったわけね。確かにアンデットとしては生きてるし、ある意味転生と呼べるかもしれない。
(でも、こんなのって、あんまりだろ……)
 もはや(物理的に)乾ききって涙など出なかったが、俺は静かに心で泣いた。



 不幸なアラサー男子、俺。
 今日、こうしてアンデットとして生まれ変わったのでした。




序章——end.

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ようやく序章終了です。
アンデットとして生まれ変わった主人公、生まれ変わったはずが死んでいた!
果たしてこれからどうなるのか!?

壮大な出落ち感のする小説ですが、よろしくお願いします\( 'ω')/ww