ダーク・ファンタジー小説
- Re: 異世界に転生したのに死んでいた。 ( No.7 )
- 日時: 2016/08/18 11:04
- 名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: dK6sJ/q3)
以前、こんな小説を読んだことがある。事故に巻き込まれて死んだ主人公が異世界に転生し、異世界人や魔物をバッサバッサとなぎ倒していく話だ。そんな主人公達は決まって反則的な力を宿したり、そうじゃなくとも活路を見出して成りあがっていくものだ。
それに引きかえ、俺ときたらひどいものだ。
「グ、オ、オ、オォォ……」
俺はバレーボールを両手に持つようなポーズを取り、足を開いていた。姿勢を落とし、そのまま手を右腰まで引く。すると、両手の中に微かに水色の光が集まり始めた。手のひらに僅かばかりの冷気を感じ、俺はどこか確信に満ちたような、それでいて真剣な顔つきで正面を見据える。
転生から52日目、俺は未だにスポーン地点にいた。
そんな俺の視線の先にあるのは、20段に重ねられた本の柱。
俺は一呼吸置き、叫ぶ。
「ガアッ!!」
それと同時に、俺は手を体の前に思い切りつき出した!
すると、水色の光は強さを増してゆく。
さながら某戦闘民族主人公の必殺技のようだ。
そのまま俺の手から放たれた光は本の柱へと直撃し、20冊の本は弾かれるように宙を舞う! と、いうような事は無く。俺の両手の中で眩く光ったかと思えば——「ポン」と、まるでコルクのキャップを引き抜いたような間抜けな音を上げ、ひとつの雪が手のひらからユラユラと落ちていっただけだった
「ガアアッ!?」
嘘だろッ!? 思わずそう言いながら俺は前につき出した両手を震えさせる。
(こ、今度こそ絶対うまくいくと思ったのに……)
俺は間もなくガックシと肩を落としたのだった。
この50日で、あの本の内7冊を読破した。そして分かった事がある。
まず一つ、この世界の文字はある程度英語の綴りに置き換えることができる。幸いな事に文法もどこか似通っている部分があるため、比較的この世界の言語を学ぶことには苦戦しなくて済みそうな印象だ。文字での会話は厳しいが、今の段階でもおそらく気持ちや意志を伝える事くらいはできるだろう。嗚呼、無駄に英語が得意でよかった。
そして、もう一つ。
俺にとっては文字うんぬんよりも、こちらの方が重要だった。
どうやら、この世界には「魔法」たるものが存在するらしい。
読んだ7冊のうち、2冊ほど魔法に関する基礎知識のようなものが書き記された、いわゆる手引書のようなもの(他は何かの研究資料)だった。一冊には基礎的な魔法の分類についてとその概要、炎や氷や雷などの魔法属性、魔法の発動と詠唱についてなど。もう一冊が、ある分野の魔法、おそらく召喚魔法についてだろうか? に、ついての考察。こちらは少々魔法の知識がなければ難しい内容だという印象を受けた。
そんなわけで、魔法属性について書かれてあった手引書①(召喚魔法の方は手引書②としよう)の内容から魔法を扱うコツを学び、こうして実践に移している訳なんだが、結果は見ての通りだ。
(これが魔法の基礎中の基礎? 攻撃魔法の初級レベル? 嘘だろ)
なんでも、魔力を氷に変換して放出する魔法だそうだが……悲惨な状況だ。
何と言うか、かき氷機で氷の山を作った方がまだ有意義な気がしてきた。
(くそぉ、せっかく魔法が使える夢の世界に来たって言うのに)
はぁ、とため息をついて俺は床に体を投げ出した。
この体の人物が生前からこの手の魔法を使っていなかったのか、手順書①に書いている事のほとんどを実践の段階で失敗していた。知識は身につく、というか忘れていた事を思いだすような感覚で覚えられるからいいものの、どうしたものか。
(魔術師としての基礎? の、”魔力のコントロール”は簡単にできるのになぁ)
左腕を頭の後ろに回して枕代わりにしつつ、右指の人差し指をクルクルと回しながらため息。すると、指の先で青白い光が集まりだし、瞬く間に光のオーブとなって現れた。
魔法を扱うには、まず大前提として魔力をコントロールする必要がある。
それを魔法として扱うには魔導書を読み、その魔法の術式(魔力をどう使って変換するか等の数式だとかそのあたりの事)を理解する必要がある。その術式を集約したのがいわゆる呪文というやつだ。術式を理解した上で呪文を唱える(思い浮かべる)と、魔導書で覚えた魔法が再現できる。
分かりやすく言うと……うーん、そうだな。
例えば電話、とか。ほら、電話の中身とか構造とかどんな原理で通話できるとか知らなくても、電話の使い方さえ知っていれば誰でも電話は使える。この電話を魔法であるとすれば、呪文はいわゆる電話番号だ。「この番号でどこに繋がるか」さえ知っていれば、話したい相手と通話ができる。ここでいうところの”話したい相手”が、自分の使いたい魔法だ。
うん、部下達から説明が分かりにくいと定評があった理由を今実感した気がする。悲しいな。
まぁそれは置いておいて。ここからが本番なのだ。
魔法は魔導書を読んで、術式を理解すれば呪文を唱える事で魔法が出る、と言ったが、いかに精密に魔法を再現できるかは『自身の魔力のコントロールの腕』と『経験』によって決まるらしい。他にも細々あるらしいが、おそらくこれくらいの認識で問題ないだろう。
で、どうやら俺は前者については良くできる方らしいのだ。
魔術師の卵はまず「自身の魔力を一点に集める事」から始めるらしいが、これは「何となく」で、出来てしまった。おそらくこの体の人間は魔法をかじっていたようで、このての基礎は赤子の手をひねるが如く、だ。ただ、あいにく攻撃魔法は扱っていなかったようだが。
(まぁー、ここまで来たら何でもいいから魔法を使ってみたいよな)
俺はオーブを見つめつつ、思考する。
この世界には魔法が存在し、なおかつ自分は魔法の基礎である魔力のコントロールは問題なく行える。
こうなると、意地にも近いが——どうしても魔法を使いたいという気持ちを抑える事はできなかった。
指をクルクル回しながら、考える。
攻撃魔法の使用経験が無いことが判明した今、攻撃魔法は諦めるしかない。
となれば、この体の人物が生前使っていた魔法。経験があれば、今すぐにでも扱えるかもしれない。
(ちらっと本を読んだだけだけど、魔法の分野って色々あったよな。確か、攻撃、回復、召喚、幻惑、付加、それから……)
うーん、結構あったなぁ。とりあえず各分野の初級魔法に目を通してみるか。
上手く魔法が発動した分野がおそらく自分の得意分野だ。
そんなことを考えつつ、クルクル、クルクル……
(……、あれぇ!?)
とこでふと気づく。
指先にあったはずのオーブ、それがいつの間にやら直径3,4メートルはあろうかという大きさに膨らんでいたのだ。
(うわぁ、デカくしすぎたな。どうしようこれ)
暢気にそんなことを考えながら、俺は困った様に苦笑を浮かべる。
この後、俺はすぐに自分がやらかした事に気づかされるのだった。
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修正完了です