ダーク・ファンタジー小説
- Re: 異世界に転生したのに死んでいた。 ( No.9 )
- 日時: 2016/10/01 17:40
- 名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: BoGAe/sR)
この部屋に幽霊がたむろしている事は知っての通りだと思う。
俺の睡眠を妨げている事以外は特に害の無い連中で、ここ数十日はその騒音にも慣れた(それでも眠れるほどではない)ため、無干渉のまま放置していた。時々俺の顔の前に居座って読書を邪魔したり、俺の後ろから本を覗き込むような真似をしていた奴もいたが、相手はせずにシッシッと追い払った。
現段階で奴らとの意思疎通は不可能である。
第一に、相手の言葉が理解できたとしても、俺の方が(物理的に)言葉を話すことができないし、文字もようやく一部が理解できるようになり始めたばかりだ。
だが、幸いなことに、この体の生前の記憶を頼り、読み方を思い出すことができる。そのため言葉と音を同時に身に着けることができていた。お陰で周りの幽霊が何を呟いているのか段々と理解できるようになってしまったのだが、その殆どは意味のなさない言葉を繰り返し呟いたり、意味も無く叫んだり笑っているだけだが、時々呪詛を耳元で囁かれるのは流石に気が滅入った。
話は逸れたが、オーブを作りだした際にその幽霊共に異変が起こった。
奴らは俺の作りだしたオーブに群がり、一心不乱にそれを貪り始めたのである。
(な……!?)
その姿を見てゾッとした。俺は慌てて幽霊共を追い払おうとするが、すでに遅かった。
奴らはオーブを取り込むと、ボコボコと大きく膨れ上がり始めたのだ。どこか火の玉に近かった幽霊の姿は、青白いガス状に変貌し、やがて半透明で下半身の無い人型へと変化した。
(な、何だ!?)
明らかに姿が変わったそれらを見て、俺は口をパクパク開閉させながら呆然と立ち尽くしていた。
幽霊だったそれらは力を得て喜んでいるのか、奇声を発して部屋中を猛スピードで飛び回っていた。と、その内の一体が出口を見つけたらしく、鉄のゲートの方を指さしてそちらへと飛んで行った。他の仲間もそれに続く。
そして当然のように鉄のゲートをすり抜け、レバーの横を通過し、奥に見えていた扉をもすり抜けて見えなくなってしまった。そしてその数秒後、その逃げていった幽霊もどきを見てか否か、今度は扉の方から部屋にいなかった大量の幽霊が現れたのである。
「ゲェッ」
悲鳴に近い声が漏れた。今現れた幽霊も、おそらくオーブの力を狙っているのだろう。
これ以上オーブを奴らの好き勝手にさせてはならない。
さもなければ碌な事にならないだろうと俺の第六感が告げていた。
あいにく俺はこのオーブを消滅させるすべを知らない。しかし、すぐさまある方法を思いついた。俺は素早くオーブに手をかざすと、ありったけの魔力送り込むようなイメージで力んだ。風船も空気をいれ過ぎると破裂する、その原理(?)が通用するのではないかと考えたのだ。
俺が魔力を送り込むと、すぐさまオーブに変化が見え始めた。オーブはより一層光を強め、少しずつこの空間いっぱいに広り始めたのだ。オーブの異変に幽霊たちも驚いたのか、部屋を埋め尽くさんと巨大化するオーブに圧倒されている様子だった。そして、その直後。
「————」
目の前で閃光が起こった。目の前が突然『真っ白』で覆われ、そして死神に飛ばされた時に感じたような大げさなほどの浮遊感。背中が固い何かに叩き付けられたところで、ようやく自分に何かが起こった事に気づいた。
(あ、俺、今、吹っ飛ばされたのか)
俺が冷静にそんな事を考えていると、体が重力に引っ張られた。そして約4メートルの高さから落下。思い切り顔面を強打したが、幸いな事に痛みを感じない体なので大事には至らなかった。
光が収まった頃、俺はようやく体を起こした。
どうやら、オーブは無事(?)破裂したようだった。想像以上に威力は大きかったが。
辺りを確認すると、多少光の残滓のようなものが漂っているが、そこにオーブは無かった。幽霊たちもどこかに吹っ飛ばされてしまったようで、この空間に約1か月と22日ぶりの静寂が訪れていた。
(よかった、あのままだったらあの幽霊もどきが増殖してたところだった)
ひとまず俺は胸を撫で下ろす。が、これが悲劇の始まりだった。
俺が胸を撫で下ろしたその直後、出口の奥にある扉——それが何者かによって思い切り叩かれたのだ。
俺の肩がビクッと震える。
(……、へ?)
ドンドン、と、蹴破らん勢いで叩かれる木の扉。俺はゆっくりと鉄のゲートへ近づき、その鉄格子の間から大きなその扉を見る。そして、扉が数回叩かれた後、それらはついに扉を蹴破った!
「ゴガアアアアアアアアアッ!!」
扉を蹴破って現れたのは、なんと歩くゾンビだった。それも、1体や2体ではない。実に10体以上のゾンビが扉の向こうの通路を徘徊していたのだ。
扉を蹴破ってきたゾンビはその手に古びた剣を持っており、奴の青白く光る目と目が合った。するとゾンビは狂ったように叫び、俺がいる鉄のゲートの方へと駆け出し、剣を振り上げた。
(!?)
驚きのあまり動けなかった。勢いを付けて剣は振り下ろされるが、それは鉄のゲートに阻まれる。鉄のゲートを斬りつけた音で他のゾンビもこちらに気がつき、そのゾンビに続くように数体のゾンビがこちらに駆け寄ってきた。俺は悲鳴を上げながらそのままゲートから離れ、腰が抜けそうになりながら祭壇を駆け上がって棺桶の後ろに隠れた。鉄のゲートを突破しようと、あのゾンビ達がゲートに剣を叩きつけているのだろう。甲高い金属音が空間に鳴り響く。
(や、や、やばい事になった……)
俺はガタガタと震えながら頭を抱えた。
どうやら、先ほどのオーブの爆発で、この遺跡——否、墓地(だと思う)にいたゾンビ達を蘇らせてしまったらしい。
幽霊たちがオーブから力を奪い力を得たように、先ほどのオーブの爆発でゾンビ達に力を与えてしまったのだろう。
ならば、おそらくこの部屋に漂う光の粒子は粒子状になったオーブだろう。
消えるどころか、かえって広げてしまったらしい。そこら中からゾンビの足音やうめき声が聞こえてくる始末だ。
(……本当にどうしよう)
俺は体操座りで膝を抱え、頭を腕の中へと埋めたのだった。
その日、この国では有名な墓地付近で数十体以上のアンデットが目撃された。
この異変は近くを通りかかった行商人により、王都・アフタニアへと知らされる事となる。
そして、アフタニアは『彼ら』に魔族(モンスター)の駆逐を命じたのであった。
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久々更新です。以前一時保存していた内容から結構変わっちゃいました。
ようやく大きな動きがありました…果たして主人公、どうなる!?