ダーク・ファンタジー小説

Re: 異世界に転生したのに死んでいた。 ( No.11 )
日時: 2016/10/24 02:40
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: zt5wk7o6)

 鉛の空、乾いた風が荒れた大地を駆ける。
 季節は秋——雨が比較的少ないイースト地方だが、今日はあいにくの曇天であった。そんな空の下、王都・アフタニアへと向かう馬車がひとつ。
 淡い黄金色の短髪を風になびかせながら、青年・ウィリアム=ロンリヘックは荒野を走るその馬車に揺られていた。
 そんな彼に声がかかったのは、ちょうど昼を過ぎた頃。馬車を引く男は鼻歌交じりに口を開いた。

「お客さん、もうじきにアフタニアだ」

 その声にウィリアムは手にしていた本から視線を外し、顔を上げる。
 彼の翡翠色の瞳に飛び込んできたのは、曇天の空の下に広がる枯れた大地。そして、少し遠くに見える山。その中腹あたりに大きな遺跡が見えた。それはこの大陸では有名な墓地である。
「あの遺跡が見え始めたらアフタニアもすぐそこだ、荷物の整理があるなら今の内にな」
「うん、どうもありがとう。……へぇ、あれがあの有名な『ユーベルの墓地』かぁ」
 男に会釈を返すと、ウィリアムは山の遺跡に目を凝らした。


 300年前、かつてここにはユーベルと呼ばれる都市があったとされる。
 滅んだ理由は諸説ある。ユーベルの王が乱心し、アフタニアと戦争を起こしたという説が最も有名である。


 アフタニアは300年前、何度も戦争の舞台に立っていた。
 ゲートから侵攻した魔物、もとい『魔族』と戦っていたのである。

 人々は手を結び連合軍を形成し、その総本山がこの国——ひいてはその中心都市であるアフタニアに置かれ指揮が執られた。それが現在の『アフタニアの騎士団』の原型となったと言われている。連合軍はゲートを突破し、魔族の頂点に君臨する者・魔王を倒す事で戦争を終結させた。そして、ユーベルはその後に起こった人間同士の戦争で滅んだのではないかと言われている。

 ユーベルは当時アフタニアに並ぶ大都市で、あの山には大きな城が構えられていたというが……現在そこに残っているのは城ではなく墓地である。そして、ウィリアムはその理由を知っていた。

「あそこは城を墓地として建て替えたものらしいね」

 ウィリアムがそう呟くと、手綱を握る男は再び墓地に目を向けた。
 男は目を凝らし、しばらくじっくりとそれを観察すると、感嘆の声を上げる。
「確かに、言われてみてばそうだ! 城塞がまるまま残ってるな。しかしよくそんな事知ってたな。お客さん」
「”このシリーズ”の愛好家の間でユーベルは有名だからね」
 そう言って彼が掲げてみせたのは、先ほどまで彼が読んでいた本だった。
 彼がその表紙を見せると、男は納得したように頷いた。
「『死の国』かぁ。相変わらずエドガーの冒険記リシーズは人気だよなぁ……て、まさかお客さん。アンタもそれに憧れて旅をしてるクチか?」
「うん。まぁ、そんなところかな」
「はぁ〜、なるほど。まぁ、昔からそういうやつは結構いるし、いいんじゃないか?」

 と、その会話を交わしているうちにも、馬車はその墓地がある山のふもとに近づいていた。麓から山の中腹まで階段が続いており、その階段を囲うように遺跡が建てられている。つまるところ、麓から墓地までが一つの大きな遺跡となっているのだ。
 アフタニアまでの道でその近くを通るが、間近で見られる程ではない。せいぜい一番近くても2キロは離れている。
 しかし、ウィリアムの話を聞いて、手綱を握る男はしばし考えに耽っていた。そして、曇天の空を見上げ、頷く。

「なぁ、お客さん。良かったら麓のすぐ近くまで行ってみようか?」
「え?」

 男の言葉にウィリアムは目を丸くしたが、次の瞬間花を咲かせたように表情を明るくした。
「い……いいのか!?」
「おう、俺も遺跡ってのに興味が出てきちまってな。なに、ちらっと見ていく程度なら天気ももつだろう」
「ありがとう! こんなところまで中々来る機会もないし、ぜひ頼むよ!」
「おう、そうこなくちゃな!」
 男は笑うと、ウィリアムに向けて拳を向ける。
 ウィリアムは力強く頷くと、彼の拳に自分の拳をぶつけた。

 これが後程、ウィリアムにとって自身の人生を大きく変える出来事となるのだが——この時の彼らが知る由もない。



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久しぶりの更新です!
この章が終了したあたりで1回オリキャラ募集してみようかなー…と、こっそり企んでます。
ヒロインはもう少しで登場するはずです!