ダーク・ファンタジー小説

青年は進む ( No.15 )
日時: 2016/12/18 03:12
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: 9AY5rS/n)

 巨大な門、崩れた城塞が取り囲む墓地への入り口。ユーベルの戦争で戦死した者達が埋葬されるであろうその墓地は、山に埋まる形で造られている。普段であれば静寂が支配するであそうその場所は何やら不気味な雰囲気を漂わせていた。僅かに開いているその門からは光る粒子が漏れ出している。
「これは……一体何があったんだ?」
 その光景を目の当たりにして、思わずそう口にする一人の青年。
 山の中腹まで階段を登り切ったウィリアムは固唾を飲んでいた。

 この墓地で何かがあったのは一目瞭然だった。
 光の粒子が漂い、そしてゾンビが徘徊している。ただ事ではないのは確かであった。
 自然に死体がゾンビとして蘇ったのか、はたまた誰かの手によって蘇えったのか。ゾンビが蘇った事とこの謎の粒子には何か関係があるのだろうか。
(分からない。何者かの手によって蘇っていたとしても、なぜこんな事を? 何の得があるんだ?)
 見当もつかない、と首を捻るウィリアム。しかし、間もなく彼は首を横に振った。
「まぁ、今はそれについて考えている場合じゃない、か。ひとまずこの門を閉じないと」
 ウィリアムはそう呟くと、改めて門に向き直った。
 威圧すら感じさせる立派な門、ここを開けたのはおそらくゾンビ達だろう。本来かんぬきが置かれているはずのそこにかんぬきは無く、砕けた木の破片が足元に散らばっていた。大勢のゾンビが数に頼って力任せに押したのだろう。

 かんぬきの代わりになりそうなものが周囲に置いてある様子はなかったが、彼は自分の剣の鞘を腰から外すと、かんぬきを置く場所に近づけた。
(うん、これが代わりになりそうだ……が)
 しかし、あと数十センチというところでたった今鞘を置こうとしていたその手を止めた。
 ウィリアムは自分の周囲を取り囲む気配に気づいたのだ。

 ウィリアムはその手を引っ込め、即座に振り返って剣を構える。だが、ウィリアムは自分を囲む気配——ゾンビの数を見て苦笑を浮かべた。
「うげ、まだこんなに残ってたのか」
 彼は困った様に口端を釣り上げた。ゾンビの数は自分の予想をはるかに超えており、軽く十体を超えている。

 生憎、ウィリアムは剣も魔法も身を守る程度のものしか学んでいなかった。
 それゆえに、彼ができる事はたった一つ。『逃げる事』だ。しかし、ゾンビ達はジワジワと間合いをつめてきている。ゾンビの間を抜けて逃げるには遅かった。
 なら、逃げ道は——
(墓地の中しかない!)
 この門の先にどんな危険が待ち受けているか想像もつかない。が、この門の先に逃げ込む以外に助かる方法は無い。流石に墓地の中に入るのは、と、ウィリアムは躊躇するが、ゾンビ達がウィリアムに考える猶予を与えやしなかった。
「ゴアアアアッ!」
 今までジワジワと間合いをつめてきていたゾンビの内の一体が、突然走り出したのだ。それに続くように周囲のゾンビ達も走り始める。
(勘弁してくれよ……!)
 ウィリアムに悩んでいる時間は無かった。ウィリアムは慌てて門を開くと、そこに自分の体を滑り込ませた。次の瞬間ゾンビ達が門に体当たりし、門はそのまま閉じられた。この門は外側にしか開かないようで、ゾンビ達が門の中へ入ってくることはなかったが、今もなお門に武器を叩き付けているのか、その音が門の内側にも響いていた。

「これは……参ったなぁ」

 ウィリアムはそう呟きながら後ずさりをする。
 ゾンビ達に門を引いて開けるほどの知能は無いようで——外開きの門なので外に出る時は押せばいいだけで頭を使う必要はなかったようだが——今のところ中に入ってくる様子はない。しかし、何かの間違いで門が開いてしまったら、その時は間違いなく自分は殺されるだろう。
(あぁ、なるべく奥には進みたくはないけど……)
 行くしかない。
 
 ウィリアムは意を決した様子で唾を飲み込むと、間もなく墓地の奥へ逃げるように進んでいった。

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何か眠れなかったのでそのまま続きを更新。
小説書くのってやっぱり楽しい!