ダーク・ファンタジー小説
- 青年は思考する ( No.16 )
- 日時: 2016/12/21 13:18
- 名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: lnXzhrC1)
300年前に建てられたわりには、中は思った以上に小綺麗である。
ウィリアムが墓地の中に入って一番に思った事はそれだった。
自分の想像ではこの手の場所と言えば、臭いが籠り、壁も崩れ——辺りには砂埃が積もっているような、薄暗くて寂れたものを想像していた。が、実際にはそこまでひどいものでもない。確かに崩れた天井や壁や床に風化の跡は所々見られるが、おそらくほぼ当時の墓地のままだ。
薄暗いのは間違いないため時々壁に設置されている松明に火を付ける必要はあるが、ちょっとした探検のようででウィリアムの心を躍らせる。
最も、常に周りから聞こえてくるゾンビのうめき声が全てをぶち壊してはいるのだが。
(結構奥まで進んできたなぁ)
ウィリアムが墓地に侵入し、軽く一時間は経過しただろうか。数十体のゾンビと張り合わせしたが、理性の無い動く人形を斬り伏せるのは比較的容易である。ウィリアムはたった今斬り伏せたゾンビが完全に動かなくなった事を確認すると、剣を鞘に戻した。
(しかし、困ったな。奥に進めば進むほど光の粒子が濃くなってる)
奥に進めば進むほど、心なしかゾンビが強くなっている気がする。外ではほぼ一撃で倒せたにも拘わらず、この辺りにいるゾンビは二、三回斬りつけた程度では倒れなくなった。
また、変化はそれだけではない。ゾンビ以外にも厄介な指定魔族(モンスター)が姿を見せ始めたのだ——”ファントム”である。
ファントムは死んだ人や動物、魔物などの霊魂に魔力が宿りアンデット化した半実体の指定魔族(モンスター)である。彼らに剣などの物理的な攻撃は通用しないため、現状魔法でしか彼らを追い払えないのだ。
(ほんと厄介この上ないね。体力も魔力も順調に削られていってるよ)
ウィリアムは参ったと言わんばかりにため息をつくと、再び足を進ませる。
この手のアンデットとして蘇るケースはあるそうだが、それが自然発生することは極めて稀である。しかし、強い魔力を持った者や、強い魔力を浴びた死体や霊魂がアンデット化するケースはあるとかないとか。また、彼らにとって魔力とは命そのものであり、魔力の量によって強さも変化するのだ。
また、ここまでやってきた中で分かった事がある。
辺りに漂うこの光の粒子、魔法を使うと消えるらしい。
最初は魔法でかき消されたのかと思ったが、どうやら魔法に吸収されるようだ。心なしか、奥に進むにつれ魔法による魔力の消費が少なくなった気がする。
奥になるにつれ強くなる光の粒子、それに比例して強くなるゾンビ。そして魔法に吸収され、魔力の消費が少なくなる……つまり、この光の粒子の正体は魔力。
(一番奥には何があるんだ?)
ウィリアムの頬に冷や汗が伝う。
と、彼がそう考えていたちょうどその時、剣を叩き付ける様な金属音が耳に入った。
ウィリアムは歩みを止め、生唾を呑む。彼が顔を上げると、目の前には故意的に開かれた扉。視線の先には細い通路があり、奥には鉄格子が見える。そこから煙のように漏れ出る光の粒子……そこにたむろするゾンビの群れ——が、鉄格子に剣を叩き付ける手を止め、ちょうとこちらに振り返るところだった。
明らかに今までの部屋の雰囲気とは違っている。
(ここが一番奥っぽいね)
この数を剣一本で相手するのは流石に辛いものだと判断したウィリアムは、剣を鞘に納めたまま詠唱を始める。その声に反応したのかゾンビ達がこちらに体を向け始めたが、全てが遅い!
「火炎球(ファイアボール)!!」
ウィリアムは叫ぶと、勢いよく突き出した両手から炎が飛び出す! が、先ほどまで放っていたそれとはまるで威力が違った。否、火炎球が辺りの粒子を吸収し、瞬く間に巨大化したのだ。それはまるでドラゴンの息吹(ブレス)のように煌々と輝き、ゾンビの群れに着弾。目がくらむほどの閃光が起こり——
(えっ?)
そして爆発した。
