ダーク・ファンタジー小説

来訪した青年 ( No.17 )
日時: 2016/12/22 00:11
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: lnXzhrC1)

*  *  * 

 あ……ありのまま今起こった事を話そう。
 ちょっとした手違いで復活させたゾンビ共に部屋の外を占拠されたと思っていたらいきなり外が爆発した。何を言っているのか分からないと思うが、俺にも何が起こったのか分からなかった。

 どうも、アラサーでアンデットの俺だ。
 オーブを破裂させた後、鉄格子の向こうにゾンビ共が群がっていたわけだが、打つ手の無い俺は相変わらず棺桶の後ろに避難してガタガタ震えていたんだ。でも次第にその状況に慣れてきたもんだから、暇つぶしに読んでいなかった本を読みながらゴロゴロしてたんだけど……ね。何かよくわからないうちに部屋の外で爆発が起こってた。
 しかもその爆風で吹っ飛ばされるわ、頭をぶつけるわ、生きてる人間なら絶対死んでそうなエグい角度に首とか腕とか足が曲がってるわ……本も焦げちゃってるのあるし、もうやってられるかクソッタレ!
 俺は首や手足を元の角度に戻しながら、脳内で怒りを露わにした。

 はぁ、しかしどうせまたゾンビが何か悪さをしてるんだろうな。
 魔法が使えるこの世界、ゾンビが剣しか使えないとは限らない。中には魔法を使うゾンビがいるかもしれない、例えば俺とか。まぁ俺の場合、初級の氷魔法で雪の結晶くらいしか出ないんだけどね!
(俺の魔力で蘇ったくせに魔法使えますアピールか!? 全然悔しくねえし! バーカバーカ!)
 俺は鉄格子の外に向けて中指を立ててブーイングをする。一体どんな奴(ゾンビ)がやらかしてくれたのか一目見ようと思い、俺は棺桶の影から鉄格子の向こうを観察することにした。が、想像以上に鉄格子の向こうは悲惨な状況である。

(うわっ、ひっでぇ……死屍累々ってやつか)

 祭壇の上からなので鉄格子の向こう側も少ししか見えていないのだが、焦げたゾンビ達の死体が積み重なっていた。微動だにしないが、もしかして死んでいるのだろうか。というかあいつら死ぬんだな。
 もしも鉄格子の向こうに居たら俺も黒焦げになっていたのだろうな、そう思うとぞっとする。

 しかし、自分で言っといてなんだが、ゾンビの死体ってなんだよ。
 そもそもゾンビって死んでるというか死体だよな。何そのギャグ、ゾンビが死ぬってすげーシュール……ん? 待てよ、ゾンビが死ぬ?

(え、てことは、だ。ゾンビである俺も当然……死ぬ可能性がある!?)

 ゾンビ俺、衝撃を受ける。

 痛みも感じない、空腹もへっちゃらなこの体。なのに死ぬ、とは。
(アンデットだけど無敵じゃん!って妥協したのにこれじゃあ以前と同じどころかハードモードじゃねーか死神ィ……!!)
 まさかここにきて命の危険を考えねばならないとは。
 ゾンビが死ぬ(笑)死屍累々(笑)とか言ってる場合じゃないか。
 そう一人で考えていた、その時。



「ケホッ、爆発するなんて聞いてないよ……痛てて」



 聞きなれない——というか、この世界に来て初めて聞く”声”。
(……、え?) 
 鉄格子の向こうの通路から響いてきたその声に、まるで心臓を掴まれたような感覚に陥る。カツカツと足音を響かせながら、一つの人影が鉄格子の向こう側にやってきた。

 そこにいたのは、この世界に来て初めて見る生きた人間だった。
 淡い黄金色の短い髪、翡翠色の目をした青年——背は特別高いというほどではないが、恰幅はそこそこ。先ほどの爆風で怪我をしたのか服がややボロボロで、煙たそうに咳込んでいた。

 俺はその生きた人間の姿を見て、無い目を見開いた。
(生きた人間が……人がいる!!)
 今すぐにでも飛び出したい、そんな衝動に駆られたが、俺は慌てて棺桶の影に姿を隠した。
 そう、俺はアンデット! そこらに居たゾンビと違(たが)わぬホラーフェイスの乾いたオッサン! 鉄格子が開いていない今、不用意に近づくのは危険だ。ようやく訪れた鉄格子を開けてもらえるかもしれないこのチャンスを——棒に振るわけにはいかない!

「ん? 何このレバー? これで開くのかな」

 俺が一人で考え事をしていると、ガシャンとレバーを下げる様な音。
 かと思えば、鉄格子が開いた。
(ええぇぇぇぇーッ!?)
 ガーン! と脳内に衝撃が走る!
 そんなすんなり開いちゃっていいの!? 俺随分長い間、悪戦苦闘したのに!
 一人焦る間にも、青年は躊躇う様子もなく鉄格子があったそこを抜けて部屋に踏み入る。
「うわぁー……何か祭壇みたいなのが出てきたなぁ」
 やっぱりここが一番奥なのか、と、どこが楽し気な青年の声。祭壇への階段に足をかけ、徐々に近づいてくる足音。


(ちょっと待てぇ!! こちとら心の準備ができてないんだよ!)


 突然の来訪者に(生身であれば心拍数MAXの)俺は、押しつぶされそうなほどの緊張に襲われ目を回しかけていたのだった。