ダーク・ファンタジー小説
- 初めての成功 ( No.20 )
- 日時: 2017/01/01 12:08
- 名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)
突然目の前が真っ白になった、かと思えば次の瞬間目の前が暗い。おまけに体が重い。
どういう事だ? 何が起こったんだ。
何があったのかしばし考えを巡らせ、思いだした。
あぁそうだ、俺の顔が燃えて、青年が斬りかかってきたのを対処しようとして、最大出力で氷の魔法をぶっ放した……はず、なのだが。
(これはどういう事なんだ)
いざ魔法が発動すると、なぜか頭上からに大量の雪の塊が落ちてきたのだった。結果、抵抗する間もなく頭から雪をかぶって、現在雪の中に閉じ込められている、という事だ。ひでぇなおい、なんでこうなった。
もしやあれか? 俺が実演してみせた”雪の結晶がひとつ出てくる程度の魔法”の術式をいじくったせいなのだろうか。結果的に広範囲に影響が及ぶものになった(というか単純に雪の結晶が増えて大量の雪になっただけ)のはいいが、魔法自体は失敗だったのだろう。魔法陣が歪だったし。
けど、結果的に助かったっぽいから良かった。頭も無事鎮火できたようだ。
しかし、”氷雪(アイスボルト)”って本当はどんな魔法なんだろうね。
少なくとも雪崩のように雪を降らせるような魔法ではないとは思う。青年が使ってた”火炎球(ファイアボール)”の氷バージョンみたいな感じなのだろうか、と勝手に想像する。
(ふーむ、”火炎球(ファイアボール)”か)
青年が放っていた例の魔法を思い出す。
あれ、迫力あってかっこよかったなぁ。
そう言えば、だまし討ちされる直前に”火炎球(ファイアボール)”の術式を詠唱していたのを聞いたけど……それ真似して唱えたら発動できたりしないかな、なんて。まぁ——
(そもそも何言ってたかあんまり聞こえなかったんですけどね!)
真似する以前の問題である。まぁ相手も呟き声だったし、仕方ないね。
だがしかし、侮ってもらっては困る。きちんと聞き取れた単語もあったぞ!
確か術式の内の属性を定義する単語だったはずだ……まぁそこにはおそらく火という意味の単語が入るだろう、どこから見てもアレは火属性の魔法だったし、そもそも”火炎球(ファイアボール)”って呪文(なまえ)からして明らかに火属性だもの。手引書で見かけた火の魔法系の術式にもそれっぽい単語が書いてあったし、間違いない。たぶんね。
とりあえずだ、そうすると俺が聞き取った単語は『火』、か。
これを失敗した”氷雪(アイスボルト)”の術式に当てはめるとどうなるだろう?
属性を定義している『氷』の部分を『火』に変える……つまり、頭の上から炎が降ってくる事になるのか……? 何それ怖い。でも、この雪を解かすことはできるだろう、ならば実践あるのみ。
が、火力をミスって体が燃えるのも嫌なので、術式にある程度修正を加える。
手引書①で学んだ呪文の術式を思い出しながら、微調整。先ほどは影響範囲を定義するあたりの単語を変えたせいで雪崩が起こったので、そこは最初に実践しようとして失敗した氷の初期魔法に合わせて……。
試行錯誤する事、数刻後。
(よしできた)
その名も”火炎(ファイア)”、安直だと思った? 俺もだ。しかし、術式が完成した瞬間に頭に浮かんだ言葉なので仕方なし。そして、後程確認すると、それは偶然か手引書①の火の初級魔法と同じ呪文(なまえ)である。おまけに術式もほぼ同じだった。最初読んだ時はちんぷんかんぷんだったが、今だと何となく理解できる、気がする。
ひとまずゾンビ声でその呪文唱えると、ボッと手のあたりから何かが出たような気がした。お、いいぞいいぞ。
そのまま雪を溶かしながら、雪の山から脱出を試みる。”火炎(ファイア)”を発動させつつ、雪をかくように手を動かす。それを繰り返しているうちに、なんとか雪の山から脱出できた。ふう、一安心。
体やローブについた雪を払い落としつつ、俺は一息ついた。
そして、改めて先ほど使った”火炎(ファイア)”を空中に向けて放ってみた。青年が扱っていた”火炎球(ファイアボール)”……火の玉を撃ち出す魔法とは違い、火炎放射器みたいに炎が継続的に手の中のオーブから噴き出していた。
(おおぉ……これはもしや、初めて魔法が成功した感じか!)
初めて魔法らしい魔法が扱えたことに少なからず感動を覚える。
なぁんだ、頭を整理すれば案外できるものじゃないか。
プログラムを初めて理解した時みたいだ。
生前、IT会社に努めてた時の事を思い返す。最も、学び始めたのは大学に再入学した時だったけどね。まぁ今は関係無いしどうでもいい話だ。
じゃあこれはどうだ、と”火炎(ファイア)”の術式の一文を変更する。範囲を定義していた部分を、『雪崩のようなもの』を発動させてしまった術式と同じものに置き換え、微調整……。
(ん! 閃いた!)
術式が完成すると、またまたポン、と呪文が思い浮かんだ。
試しにと叫んでみる。
「ガアアアアァッ!」
”火炎柱(ファイア・ピラー)”!
すると、前方の床に——今回は普通の形をした——赤い魔法陣が現れ、炎の柱が立った。
理想より遥かに細いが、思っていた通りの魔法が発動した。
あっけにとられた後、俺は全力のガッツポーズをとる。
(やばいこれ。きたぞこれ。俺、きたかもしれん)
素直に嬉しい。というかめちゃくちゃ嬉しい!
夢にまでみた魔法を、俺は、自分の手で、使ってみせた!
しかも応用も上手くいった!
俺、喜びの舞(両手から”火炎(ファイア)”)で部屋を駆け回る。
ゲヘヘヘヘヘ、と奇声を発しながら両手から火をまき散らすゾンビ、実にホラーである。
これも青年のおかげだ。青年がヒント(”火炎球(ファイアボール)”)を与えてくれたおかげだ!
ありがとう、名も知らぬ青年ありがとう!
(……あっ)
やばい、それで思い出した。
青年の事をすっかり忘れていた。
俺は即座に雪山に向き直り、身構える。
そうだ、あの青年は”火炎球(ファイアボール)”とかいう厳つい火の魔法を扱う危険な輩だ。彼の手にかかれば雪山を脱出するのも苦ではないはず。こちらが油断した隙をついて、こんな目くらまし効かぬわー! とか言いながら”火炎球(ファイアボール)”を某戦闘民族の王子のごとく乱れ撃ちするに違いない。
幸い、この部屋の鉄格子は開かれている。
逃げるか、迎え撃つか。
しかし、場合逃げようと背中を見せればその隙を狙われる可能性があるし、迎え撃つならば相手の出方を見る必要がある。最悪相手に先生を取られる。の、だが……。
(あれ……)
青年が雪山の中から魔法を放つ様子も、雪の中から出てくる様子も——というかもはや気配すら感じないような。いや、隙を伺っているだけか? それにしても静かすぎるというか。
俺は数秒思考し、そして”最悪の事態”が起こっている可能性に気づいて血の気が引いた。
(待てこれ、青年生き埋めになってないか!?)
ひえええぇ!! 青年死ぬな!
俺は必死になって雪を掘った。”火炎(ファイア)”で雪をガンガン溶かした。
そう、いくら俺をだまし討ちしようとした相手でも、彼は生きた人間なのだ!
そんな彼が俺のせいで死体(なかま)になっちゃいました、なんて本気で笑えん。
そして、数十秒とかからぬうちに雪山から意識を失った青年を見つけ出し、救出することに成功したのだった。
死んでなくてよかった。