ダーク・ファンタジー小説
- Re: 異世界に転生したのに死んでいた。 ( No.24 )
- 日時: 2017/01/05 22:46
- 名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)
なろうちっくに書いてると普通に書きたい衝動に駆られる今日この頃
新しい小説でも書こうかな…
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さて、雪山から救出したはいいが、青年の顔色が悪い。おまけに気を失っているときた。
(え、ええと、こういう時はどうすればいいんだ?)
俺は生まれて初めての事態に困惑していた。
数時間習った程度の知識ならあるが、俺には応急救護だとか応急処置の経験は無い。それに、どちらかと言うと応急救護される側の人間だった。昔から何かと不慮の事故に遭う事が多かったからな、救急車様様だ。
だか、今は助けは来ない。助は呼べない。
自分がやらねば彼は死んでしまうかもしれない。
そうだ、自分がやるしかないのだ——頼れる者など、ここにはいないのだから。
(よし)
俺は自分の頬を叩いて気合を入れた。
軽く混乱していた心はいつの間にか落ち着きを取り戻していた。
今は青年を助ける、それに集中しよう。
俺はまず、青年が背負っていた大きなカバンを下ろし、服や体についた雪を払いのけた。
初日の探索で見つけていたゾンビの体に巻く例の麻布を床に敷き、その上に青年を寝かせる。雪の中に埋まっていた時間はそう長くは無いはずだが、体温はおそらく低下している。なので、ひとまずこの部屋の温度を下げている雪山を”火炎(ファイア)”で溶かして……溶かして、ええと、どうしよう。ここは暖を取るべきなのだろうが、たき火を熾そうにも薪が無い。
(燃やせる物か……)
俺は自分の着ているローブを青年の体に被せつつ考える。
この部屋にあるものをもう一度挙げよう。二十冊の本、紙、木炭、エンバーミング用のハサミやナイフ、巨大な針、糸、ミイラの体に巻く麻布、短剣、溶けたロウソク。
紙はすぐに燃え尽きるし、麻布はすでに使っている。文字を書くための木炭では小さすぎるし、溶けたロウソク程度の火では暖は取れないだろう。これらと不燃物を除外すると、自然に候補は絞られる。俺は周りに散らばっているそれらに目をやった。
(これしかないかぁ)
そう、俺の暇をつぶしてくれた二十冊の本である。
もちろん中には読めていないものもある。
名残惜しい。が、人の命がかかっているのだ、背に腹は代えられない。
俺は魔法の基礎が書かれている手引書①、何らかの召喚魔法が書かれている手引書②以外の本を薪代わりにする事にした。
さらば、数十日間のお供よ。
*
数分後、まだ遠くからゾンビの声は聞こえるが、部屋の中は非常に静かである。
たき火の音が妙に心地良く感じるのは何故だろう、ここに自分以外の人間がいるからだろうか。
青年に視線を移すと、彼の顔色はすっかり良くなっていた。しかし、まだ意識を取り戻す様子はない。
(このまま目を覚まさない……て事は無いよな)
そんな一抹の不安を覚えるが、彼が目覚めた後の事も考えねばならいのもまた事実。
正直に言うと、この青年を放っておいて逃げ出すこともできる。
俺はアンデット、青年が敵意をむき出しにするのも仕方のない事である。目覚めてすぐに俺を消し炭にしてしまう、そんな状況が容易に想像できる。
そもそも、だ。
襲われた手前、彼を助ける義理など無い。
しかし、だからと言って放って逃げると、意識を失ったまま青年がゾンビや幽霊に襲われる可能性がある。鉄格子を閉めれば敵の侵入は防げるだろうが、それは彼を閉じ込める事にもなる。飲み食い不要のゾンビの俺だから生き延びる事はできたが、彼では死ぬ。そう、死ぬのだ。
また、俺はこの世界の事について殆ど何も知らない。
そんな状態のまま逃げ出したとして、それからどうしようと言うのか。ここから出た後の事は色々想像したが、具体的にどう生きて行こうだとか全く考えていなかった。『まぁどうにかなるだろう』と楽観的に考えていたのだ。
今後どうやってこの世界で生きていくか、身の振り方を考える時期なのだろう。
で、それについて考えた結果、”まずは味方を作る事”を最優先するべきだと結論付けた。
そして、その味方(ターゲット)として狙いを定めているのがこの青年である。
というか彼しかいない。なので彼を置いて逃げるという選択肢はなくなった。
(しかしなぁ)
青年を味方に引き入れるとしても、どうしたものか。
アンデットという地点で少なくとも警戒はされる。というか実際された。そして敵対して彼を殺しかけたのである、警戒を解けと言う方が無理ではなかろうか。
(弁明しようにも口が利けないし……どうすりゃいいんだ)
俺は頭を抱える。
と、そんな時。
「う……」
青年が小さな声を上げた。
(意識が戻った!?)
苦しそうな声だったが、確かに青年のものだ。
俺は思わず青年に近寄ろうとしたが、先ほどの事を思い出して体を止めた。
(危ない。目が覚めたら目の前にこのホラーフェイスはまずい)
俺が青年だったら迷わず”火炎球(ファイアボール)”をぶち込むところだ。
しかし、でも、どうしよう。青年が起きてからの事について考えていたが、考えはまとまっていない。どうにか攻撃される状況は回避せねば、そう思いひとまず棺桶の影に身を隠す。
しかし、いつまで経っても青年が起き上がる気配はない。
(……? どうしたんだ……?)
心配になって恐る恐る青年に近づく。
青年の顔色は確かに良くなった。しかし、その表情は苦しそうだった。
「…………」
彼はうっすら目を開ける。僅(わず)かに開かれたその目と視線がぶつかり肩が震えた。
(し、しまった、迂闊だった。完全に顔見られた!)
俺は攻撃を受ける事を覚悟して慌てて顔を両腕で覆う。
が、彼から攻撃を受けることは無かった。
彼はまだ意識がハッキリしていないようで、再び目を閉じてしまったのだ。
俺はひとまず胸をなで下ろす。
(でも、まずいな。反撃する体力が残っていないって事だよな……)
青年の容態は自分が想像しているよりも遥かに悪いのかもしれない。
それに気づいて不安になる。
(考えろ、考えろ。この場合どうすればいい? 体力を回復させるには——)
『食事』、その言葉が真っ先に思い浮かんだ。
俺は即座に青年が背負っていたカバンの方に顔を向けた。
生憎この部屋に食料は無い。青年が何かしら食料を携えているだろう、という可能性に期待してカバンの中を漁らせてもらうことにした。そんな訳で、ゴソゴソ。
(ええと、これは……本? ”死の国”って物騒な題名(タイトル)だな)
この世界で有名な小説なのだろうか? とりあえず傍らに置く。
そして次に手にとったものを取り出し、俺は目を丸くした。
それは、小さなガラスの瓶である。中には透き通った緑色の液体。300ml、といったところだろうか。それが2、3本カバンの中から見つかった。俺のゲーム知識をあてにできるかは分からないが、これはもしや、あれではなかろうか? ゲームで緑の液体と言えば、あれしか無かろう!
(まさか”回復薬”というやつでは!?)
俺は少し興奮しながら瓶を軽く振る。
中で緑の液体が揺れるが、ドロドロとしている訳でもなさそうだ。どちらかと言えば水に近い感じか。
そしてゲーム脳の俺は思った。
これを使えば青年のHP(たいりょく)が回復するのでは!? と。
早速俺は瓶を手にとって青年に近づく。
しかし、回復薬らしきものを青年に使おうとしたところで、俺の中に衝撃が走った。
(この回復薬って”飲み薬”なのか!? ”塗り薬”なのか!?)
今の今までゲームに登場する回復アイテムは飲んだり食べたりするものだと思っていたが、実際に使用するとなると分からない。試しに少しだけ口の中に緑の液体を落としてみるが……うーん、わかんない!
俺の体は視覚、聴覚以外はほぼ死んでいるからね。皮膚感覚もガバガバで、僅かに触覚はあるが痛覚、温度覚というものは全く感じない。つまり味は分からないのだ、今判明したことだけど。て、そんな事はいいんだよ。問題はこの回復薬をどうするかだよ。
とりあえず、あるだけ持ち出そうと青年のカバンから全て緑の液体の入った瓶取り出した。それを手に抱えつつ栓を抜く、のだが。それがダメだった。周囲への注意が疎かになっていた俺は、たき火のストックとして置いていた本に足を取られてしまったのだ。
「ア"ッ」
気づいた時にはすべてが遅かった。
俺は成すすべもなくすっ転び、青年の顔に緑色の液体をぶちまけたのだった。
あ、ちなみに青年はすぐに悲鳴を上げて飛び起きました。