ダーク・ファンタジー小説

死神の好意 ( No.3 )
日時: 2016/10/23 23:55
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: zt5wk7o6)

 転生?

 小説の中でしか聞いたことが無いような言葉を聞いて、再び首を捻る。
 そんな俺に、死神はあくまで丁寧に説明を加えた。
「はい。新しい世界で、新しい生き物として生まれ変わるのです。もちろんある程度は融通しましょう、じゃないと”貴方”が報われない。貴方が望む人物として生を与えることを約束します」
(できるのか? 死神なのに?)
「死神ですが、”神”でもあります。死を司ると言われておりますし、私もそう名乗ってはおりますが、その本質は”魂を導く”事。本来ならば一度冥府に送り届け、魂に刻まれた記憶を浄化する必要がありますが、それでは『不幸な思いをした貴方』が報われないのです。記憶を浄化した貴方は、すでに貴方ではない誰か、なのですから」
(……)
 その言葉を聞いて、しばし考えを整理する。

 通常であれば、俺はその冥府へと送られて、今までの人生の記憶を消されて新しい他人として生を受ける、という事だろう。つまり、今度こそ俺は死ぬ。生まれ変わればどんな環境で生まれてくるかは分からない。また不幸な人生を歩む事になるかもしれない。
 しかし、死神の言葉を呑めば、俺は俺の記憶を持ったまま新しい生を受ける。俺の望む人生をスタートすることができる、という事か。
「貴方の望んでいるものは解っていますよ。貴方が望めば、貴方のまま、貴方が望んだ通りの新しい体へと魂を移します」
 その考えに付け足すように、死神は言う。
 つまり、俺の望んだ人生を……幸せを手に入れることができるのか?
(そんな虫のいい話があるのか?)
 しかし、そう思う反面、ようやく不幸な人生が報われるのか、とも考える。

 なら——だったら願う事は一つだ!
 人生イージーモードで、今度こそ幸せな人生を満喫したい!! 

(分かった、俺をこのまま転生させてくれ)
「はい、分かりました」
 死神は嬉しそうに頷く。
 しかし、ここまで来て俺の中に一つの疑問が生まれた。

(あのさ。なんでここまでしてくれるんだ?)

 俺の人生を見て、不幸に思ったから?
 不幸レベルじゃあかなり高い方だとは思うが、俺よりも不幸な人間もいるだろう。そんな人間を見つけてはこうして話をして、転生させているのか?それはそれでダメな気がするんだが……。

 すると、死神はどこか黒い笑みを浮かべた。
「あぁ、気にしないでください。上司に使えない奴だとか仕事ができないだとか言われて、ソイツに当てつけをしようだとか、全くそんなことはないですから」
「あぁそう……」
 遠くを見てフフフ、と笑っている声が些か不気味である。
 というか俺は上司への当てつけに使われているだけなのか。何かすごい複雑な気分。
 そんな俺の反応を見てか、死神は失言だったと咳ばらいをする。
「ま、まぁいうなれば私の気まぐれです。全く、こんなチャンス滅多にないんだから、ありがたく思ってくださいよ!」
(お……おう! ありがとう!)
「よろしい。それでは、新しい体に魂を送ります。上に見つかるといろいろ面倒なので、さっさと終わらせちゃいましょ」

 上、か。 さっきも上司とか言ってたけど、やっぱり神様にも序列とかあるんだな。
 やはりというか、苦労してそうな死神だ。同情するぞ……態々迷惑をかけてすまないな。
 俺が改まって礼を述べると、死神は満足そうにウンウンと頷いた。
 そして背負っていた鎌を手に取ると、天に掲げてグルグルと回しだす。すると、途端に自分の体に感覚が蘇ってきた。見えない力でその場から引き離され、気持ちが悪くなるほどの浮遊感を覚える。
「じゃあ行きますよー」
(ちょっ、ちょっと待ってくれ酔う酔う酔う!!)
「大丈夫です。じきに終わりますから。では、今度こそ良い人生を〜」
 そう死神が呟いた瞬間、死神があっという間に遠ざかった。
 抗いようのない力に引っ張られ、俺はどこまでも深く、深くに落ちてゆく。
 時々、巨大でビー玉のように綺麗な球体が俺の横を通過する。これが死神の言う世界、というやつなのか。こんなにも多くの世界があるのか。奴がなぜここを『宇宙』と例えたのか分かる気がする。

 そんなことを考えていると、俺は一つの世界に激突した。痛みこそ感じないが、ただならぬ衝撃に心臓が飛び出そうになる。俺はそのまま世界に吸い込まれ、そしてまた落ちる。

 何かにぶつかって、落ちて、それを幾度となく繰り返し、どれくらいが経っただろうか。
 気がつけば辺りは静寂に包まれていた。

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