ダーク・ファンタジー小説

Re: イル 序章「お前」 ( No.1 )
日時: 2016/08/23 21:39
名前: 茶色のブロック (ID: Lr4vvNmv)

 俺は知らなかった。脳味噌に白い部分があるなんて。

 人の体は切らなくても打撃でバレることも、まさか人一人の体にこんなに血の量があることも知らなかった。

 すぐそこにある、目の前の血塗られた電車に飛び込んだ儚げな少女。

 やせ細った小さな少年は、ただ重すぎる鞄を両手で持っているだけだった。

−−−−

 静かだ……世界はどうしてこんなにも暗くて静かなんだろう。

 小鳥の囀り、それは朝の目覚めの時に鳴いていそうな鳴き声なのに、ちっともこの世界に光が無いのだ。

 俺の手はどこだ。俺の足はどこだ。俺の目玉はちゃんと付いているのか。

 不安な気持ちが続く。おかしいのは世界だと思っていた。だが、俺がおかしいかも知れない可能性が生まれた。

 けれど、何故なのだろう。この状態がとても心地良いのだ。

 安らかな眠りのようで、暖かくて、していたのか怪しい抵抗を止めてしまった。

 ああ、あと五分……。

 ……その頃、とある少女が俺の世界に干渉してしまっていた。

 闇と光のカオスのようなこの気配、俺としてはちょっと嬉しいような気もしない。

 多少強引でも大丈夫だ。耳元で音爆弾を爆発させたって嬉しい。出来れば優しく揺すってくれれば涙さえ流してしまうだろう。

「別に、起こしても大丈夫なのかな……例えばもし起こしてしまい本当は事情があって夜遅くまで睡魔に耐えながら起きていないといけなくて、たまたまこんなに眠ってしまっているとかだったら、」

 一般より高めの声。だがうるせーこのやろーということが起きるような決してしつこい声音ではなく、何というか可愛らしいくてテンションを強制的にあげるような声音……なのかな。

「……そうかもしれない。じゃあ、ちょっと五分待とうかな。そうしたら起こしてあげよう。きっと疲れているのだもの」

 ああ優しい。優しいよ優しすぎるよ夢じゃないよ。ほっぺたつまむと痛いよ。

 元よりあと五分で起きるつもりだったので、この子は俺をマスターしているようにしか思えない。

 何という心配り、嬉し過ぎて天国を味わってしまっているよ……。

 そしてあっという間でもなく普通に五分が経過した。平凡に、もう五分? ということは起こらずに。

 少女は俺の敷き布団の横に座っており、俺の体を優しすぎるよというくらいの力で揺すった。

 なにこれ、まっさーじかなにかなのかな?

「お兄ちゃん、朝だよ。そろそろ起きないと、日が登ってしまうよ」

「えっと……なら寝させて」

「お兄ちゃん、嘘だよ。そろそろ起きないと、日が沈んでしまうよ」

「ごめん、何で起こしてくれなかったの」

「お兄たん、朝だよぅ? もう起きないと、お仕置きしちゃうよ☆」

「毎日楽しい起こし方ありがとう。夢の中に逃げたいと思います」

「あ〜! 大変! もう五時半! 朝の会話が出来なくなってしまうから起きてー!」

「……ああ、分かった起きるよ」

 長い長いやり取りの末、俺はやっとというか、明らかに早起きしてしまった。

 目を開くと、視界に入るのは味気ない素朴な部屋。娯楽性のものなどなに一つ無く、最低限の勉強道具とちゃぶ台と壁時計と携帯電話とお財布のみ。携帯電話はインターネットにつながっているが、全くしたことがない。

 すぐ隣の少女は、色素が薄いのか肌が白くて、腰に届く長さの髪は茶色い。目は綺麗で、容姿は低くて細くて幼いが一五歳納得の、どちらかと言えば中の上くらいの大きい胸をしている。

 美人かと言われれば俺には判断出来ない。可愛い方なのではないのかな。

「お兄ちゃん聞いてよ、美人には条件があるらしくてね、顔の鼻とか顎とか口とか角度と長さと色々あって、私の顔と比べてみたの。すると、完全に美人だったんだあ。絶世の美女レベル、だって。」

「へぇ、良かったじゃないか」

「私、今でも夢なのかな、なんて思ってしまうな」

「ううん、俺が頬をつねってみると痛いから、多分その発言は敵を作ったりフラグだったり色々あると思うよ。だからやめときなよ」

「うん!」

 俺は布団を片付け、妹とリビングに向かった

 妹の名前は、惜しいという漢字で惜(あたら)だ。